第一話 落ちこぼれの日常
「お前はクズだな」
「そんなこともできないのか? これだからクズ共は……」
昔から両親以外の人間に俺はいつも言われていた。実力主義の社会では実力のないものの扱いなんてひどいものだ。
両親――義理ではあるが、この人たちには本当に感謝している。行き場のない俺を拾ってくれ、クズの烙印を押された今でも実の子同様に扱ってくれる。夫婦の実の娘には冷たくされるけどね……
と、俺――緋坂燈也といえばよくある「落ちこぼれ」であった。
帝国歴204年。
その昔、人は魔術を編み出した。試行錯誤の末、体内を流れるエネルギーを術式を使い、神秘の現象を実現させた。
なぜか、それは定かではないが、古い文献には何かに対抗するため、と書かれているそうだ。
「はぁ、今日の授業は午後から実技だぜ? 最悪だよな」
俺が高校に入学して一ヶ月と少し、登校中にばったり遭遇した友人――飯塚直斗はつぶやいた。
「たしかにな。俺達、落ちこぼれにとってはサイアクだな、実技は」
「本当にな、嫌になるさ。しかも今回は、上級生も見に来るだろ? 余計にだよ」
「え? そうなのか。初耳だ」
俺が答えると直斗は「情報に疎いな」と苦笑いをした。
「まぁなんせ、今回は将来有望な「おぼっちゃま」がいるからな。上級生でもパートナーになりたい人、観察に来る人、いっぱいいると思うぜ?」
おぼっちゃま、多分俺たちと同じクラスの 竹中空のことだろう。財閥の一人息子で、容姿端麗、成績優秀、多少正確に難アリだがそこは問題無いだろう。
「まぁ、俺達からすると性格悪いけど。それでもアイツ、モテるよな」
「おれ、世の中を恨みたくなるよ」
直斗は一つ、ため息を吐いた。
俺たちは他愛もない落ちこぼれトークをしつつ、学園へと歩いて行った。
私立凪波大学付属高校。俺たちが通う学校だ。基本的には、戦闘訓練の合間に基礎学力の授業がある。元来、この学校は力の扱い方を学生のうちに覚えさせ、即戦力として育てるのが目的だ。そして、毎年優秀な人材を世にだしていることで有名だったりする。
俺は自分のクラスの1-E の教室に入る。ここは実力制で、優秀なクラスからA~Fまであり、俺は後ろから二番目のEクラスだ。直斗も一応同じだ。
クラスの人間に少し挨拶をして、席に着く。何の因果か前の席は直斗だ。
「そういえばさ、実技って何をするんだ?」
上の学年が見に来るんだ。実技の内容も変わるのかと思い、直斗に尋ねる。
「大演習場で各々が模擬戦するらしい。でも俺たちには関係ないだろ。見るのはAとかSクラスの人間だよ」
「それもそうだ」
と、言ったところで授業開始の鐘がなったので俺たちは話をやめた。
午前の座学の授業を消化して現在は昼休み。俺は仲のいい友達は直斗ぐらいなので二人で食事をしている。勿論二人ともコンビニで買ったパンだ。
「それにしても戦ごとはダメだな。作戦指揮とかなら得意なのに」
「そうかな? でも直斗はそう言ってられんだろ。上行きたいのなら少しは必要だぞ」
「わかってるよ。だからここにきてるのさ。お前こそ、そのままじゃ一兵卒で終わるぞ」
昼食時、直斗が午後の授業が嫌なようで愚痴をこぼした。彼はもともと指揮官が夢だそうで。その手腕は見事なものであるが、戦場には立てない。
「いいよ。それなりに生活できたら。俺はお前とちがってダメダメなんでな」
「そんなことないと思うが……。っと、さっさと更衣室いこうぜ。遅れちまう」
時計を見ると、いい時間になっていたので俺たちは食事を終えた。
「あ~、よし。全員居るな」
点呼をとっているのは担任の天野遥先生。男だ。年も若く、顔もいいので女生徒からは大人気だ。男子からもその親しみやすい性格から人気がある。
「今日は二・三年が見に来るけど気にするなよ。お前らのこと見てないから」
「え、おねぇさま方は俺のこと見てくれないの?」
「飯塚直斗、お前の言動は果たして指揮官のものなのか時々疑いたくなる」
クラスの間で笑いが起こる。直斗と遥先生のやりとりはよくあることだ。
「それはともかくとし、お前ら適当に魔術の練習してていいぞ」
その後、遥はいくつか生徒に注意して演習場を出ていった。
「さて、先生もああ言ってるし俺達も練習しようぜ」
「だな、はじめるか」
直斗の言葉に頷き、早速練習を開始する。多分先生は、下手に模擬戦とかするよりこっちのほうが俺たちも楽しめるし、ためになると思って言ってくれたのだろう。いい先生だ。
魔術とは、大きく属性魔法と無属性魔法の二つに分けられている。属性は五行に光と闇をたした七つに分類される。これはある種の才能のようなもので、ひとにより使える属性は違う。無属性魔法は努力すれば大概の人は覚えられる魔術。空間移動や、血に流れる魔術など特殊な魔術を指している。
俺は、火だけなんとか使える。
苗字に緋と入ってるだけあってそれ以外はからっきしだ。
そして、さぁ、始めようとしたところに、ある人物がこちらに近づいてきた。
「よぉ、燈也。遊びに来たぜ」
一見、金髪にピアスとチャラチャラした感じがするのは高田恭太。Aクラスの友人だ。
「恭太か。お前、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。それよりさ、遊ばないか? 暇なんだ」
「俺はお前ほど優等生ではないのでね。練習する」
「なんだよ。面白くねぇな」
ほか当たるか。と言ってどこかのクラスに歩いて言った。恭太はなんだかんだで俺の本心を理解してくれているので、結構潔い。中学からの付き合いなので仲もそれなりだ。
その後、俺は火を魔術の練習をし、何の問題もなく午後の授業を終えた。
放課後、俺は図書室にいた。勿論、勉強だ。これでも一応勤勉なのだ。魔術に関しては、だけど。
この学校の図書室は大変大きく、様々な本がある。俺はその中から「初級魔術・火」を読んでいる。落ちこぼれなのでここから始めないといけないのだ。
「やっぱり、火の壁とか無理あるだろ」
ファイヤー・ウォール。初級の魔術で、炎の壁を作るというもの。基本なので、小学校六年で習得できるようなものだ。だが、俺にはかなり難易度が高い。
「はぁ、今日はもうやめよう。それより、屋上行くか」
この学校の屋上は景色もいいので、俺の心のオアシスだ。俺は癒されるべく、屋上に向かった。