第7話 「泊まってけば?」
「綾瀬、起きて。辛いだろうけど何か食べないと」
私は作ったばかりの卵粥を隣に置き、綾瀬を起こした。
「麗子先輩が作ったの?やるじゃん」
辛いのにも関わらず、綾瀬はいつも通りに振舞った。心配させない為だろうか。
「いいから、早く食べて」
「食べさせてよ」
綾瀬はそう言うと、口を大きく広げてみせた。
「調子に乗るんじゃない。自分で食べなさい」
「ははっ、だよね」
綾瀬は残念そうに笑うと、茶碗を持ち上げた。いつものように振舞っているが、肩で大きく息をする綾瀬はやはりどう見ても、辛そうである。
「……。食べさせるわよ。貸して」
私は綾瀬から茶碗を取り上げた。少しお粥を取り、ふうふうと息を吹きかける。はたから見れば恋人同士にしか見えない作業であろう。私はそんな状況に困惑していた。
冷ましたお粥を綾瀬の口元に運ぶ。
「旨い」
綾瀬はそう一言言ったきり、何も話さなかった。私も何も喋りかけなかった。私たちはただ黙々と作業を続けた。一頻りお粥を食べた所で、私は綾瀬に薬を差し出した。
食べ物も摂取したし、薬も飲んだ。これならあと何時間か寝れば、じき良くなるだろう。私は、ほっと胸を撫で下ろす。
いつの間にか綾瀬は静かに目を閉じていた。それは普段の生意気な綾瀬の態度からは想像も出来ないほど、美しい寝顔だった。
綾瀬の口が小さく動いた。口元の動きに注目すると、どうやら、『寒い』と言っているらしい。
当たり前だ。こんな寒い冬に暖房一つ点けていないのだから。
私は着ていたコートを脱ぐと、綾瀬の布団の上に被せた。私のコート一枚ぐらいじゃ何も変わらないと思うが、そうせずにはいられない。
私は綾瀬の寝顔を見ながら、ベットの隙間に寝転がった。なんだかとても疲れた。崩れていく意識の中で、私は綾瀬の顔をうっすらと思い浮かべていた。
ん……。
「麗子先輩、起きた?おはよう」
私はゆっくりと目を開ける。いつの間にか寝てしまっていたのだ。
目の前には、綾瀬の顔。綾瀬はとっくにベットから抜け出していて、私の顔を楽しそうに覗き込む。
「綾瀬、具合はどう?」
私が寝ぼけ眼で問いかけると、綾瀬はにっこりと微笑み、そっと私の手を自分のおでこに当てた。
「熱は下がったみたいね」
「うん、麗子先輩のお陰でね」
「そう……。分かったから……取りあえず、手を離して」
綾瀬の手を払い除けた私は、ベットから這い出て携帯の時刻を確認した。
AM2:00。表示されている時間を見て、私は目を疑った。
「ちょっ、何で起こさないのよ!」
「いや、だって、気持ちよさそうに寝てたから」
「今からじゃ終電も間に合わないじゃない」
私は思わず青ざめ、ベットに崩れるようにより掛かった。
まだ本調子ではないものの、綾瀬の顔色は随分良くなっていた。ベットに足を組んで座ると、綾瀬は私を見上げ笑う。
「泊まってけば?」
戸惑う私を物ともせず、飄々と綾瀬は言い放った。