第三章:破筐(はきょう)
それは忘れ難い、日曜参観の日であった。
普段の班分けとは異なり、好きな者同士でグループを組み、郵便配達の仕組みを学ぶ授業を行った。
画用紙で作ったカバンを首から提げた配達員が二人、配達先の家の住人役が二人。各班が流れ作業でそれを行った。まるで郵便屋さんごっこであった。
わたくしと二宮は配達係であった。ふと見ると、二宮のカバンは既に半分破れかかっていた。わたくしは、ぼんやりとした甘ちゃんの性格ゆえ、二宮からこう言われれば、何の疑いもなく二つ返事で応じた。
「お前のはどんなの? ちょっと見せて」
「なにが?」
「少しの間だけ交換してくれないか。あとで返すから」
そうして二宮のカバンと交換した。
しばらくして、わたくしと二宮が配達する番が回ってきた。
「あのさ……カバン」
わたくしが首から提げているのは半分破れかかったカバンであった。
二宮は事も無げに言う。
「カバン? なにガッキー?」
教室の真ん中で円状にしゃがみ、参観に来た父兄が並ぶ中、声を潜めて話す。
「いや、それ! そのカバン──だから…そっちの方が」
二宮は一瞬、わたくしの言葉に驚いた表情を見せたが、すぐに元の顔に戻した。
「あーあ、ガッキーの。それ破れてるじゃん?」
まるで、わたくしの方のカバンが破れていたかの口ぶりである。
わたくしは声を少し張り、向きになった。
「それ! 二宮が最初に持ってたやつだろっ! 交換したやつ。お前のじゃない! そっちだって!」
その間、先生とクラスメイトが一瞬わたくしを見たが、すぐ視線を戻した。
いよいよ番が回ってきたとき、破れかけのカバンは完全に破れていた。
「ほらガッキー。急げよ。なっ?」
二宮に促され、先生からも立つよう注意され、父兄もざわつく。
わたくしは恥ずかしく、破れたカバンを首から掛けた。
二宮は美しいカバンであった。
本当はそちらのカバンであったのに…。
参観に来た父兄の笑い声が教室を覆う中、わたくしはおどけて教室の中を一周した。そうしなければ格好がつかなかったのである。
心配事は一つのみ。
参観が終わると、わたくしは家路についた。
家に帰ると、父に叱責された。
「カバンを破って! お前は何をしていたんだ! 皆からも笑われ、俺が恥ずかしかったではないか!」
父に逆らえば、どんな些細なことでも許されぬ。時には一度ならず二度、三度殴打されることもある。二宮がカバンをすり替えたなどと、父には通用するわけもなく、わたくしは自分で弁解することもできなかった。
当の二宮は、全く気にしていない様子であったに、だ。
父の叱責はなお胸に重くのしかかる。
「ごめん…”知らないうちに”破れてて。気づかなかったんだ…」
わたくしは事実を包み隠しそう述べるほかなかった。
二宮に嫌な思いをさせられたと感じたのは、犬の件と、この参観日のカバンの件だけであった。




