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反対側のホーム

作者: 桐山修一

今まさに、ホームから飛び降りようとしてる男がいる。

彼は妻子を持ち、会社での地位もまあまあだった。

ゆえに俗世間ではある程度の豊かな生活を送り、ある程度の幸せを感じていたのだが、

そんな男がなぜ会社へと向かうホームとは逆のホームに立ち、このような状況に陥ってしまったのか。

それは一週間前のことであった。


いつもと同じように仕事を終え、いつもと同じ電車で自宅近くの駅にいつも通り下車し、家に向かって歩いていた。

歩いて10分くらいだろうか。

ふと後ろを振り返ると、そこにはいつもの風景にそぐわぬ全身を黒い服で包まれた男がいた。

{これはまずい、金でも取られるんじゃないだろうか。}

男はそう思った。

しかし確信は無い。たまたまこの道を選んだ外来者かもしれない。

そう思って不安をかき消そうとするも、怪しい男はどんどん近づいてきている。


「あの」

ゾクっとした。

「あの、Mさんですか?」

男の名前だ。

「Mさんですよね。突然すみません」

怪しい男は自分を知っているように話しかけてきた。

何が何だかわからないといった様子で男は

「はい」

と短い返事をした。

「突然こんなことを言われても信じられないと思いますが・・・」

男は警戒しながらも、怪しい男になぜか身内めいた温かさを感じていた。

「実は私、あなたの息子なのです。いえ、現在のあなたの子供ではありませんが」

男は眉間にしわをよせて声を荒げた

「何を言っているんだ?君は僕を馬鹿にしているのかね?」

「いいえ、信じられないかと思いますが、本当なんです。私は20年後の未来から来ました。

もちろん証拠はありますよ。」

怪しい男は腕を突き出した。

「あなたの息子にもここにほくろが、ここに傷があるはずです。」

 本当だった。暗いのでよくわからなかったが、実に顔もよく自分に似ている。

「本当に僕の子供なのか?なんらかの方法で子供の腕を見たのではないか?」

もうほとんど男は相手の話を信じていた。

本当ならこれだけで信じるはずもないことなのだが、その男には初めて感じた第六感というものが働いていたのだ。

「わかった。半信半疑だが君を信じよう。だとしてもなぜ、君はここにいるんだね?」

「それは・・・あなたに頼みがあってきたんです」

「頼み?」

「そうです。驚かないでください。実はあなたの会社が一週間後、社長の蒸発により破綻をきたし、倒産してしまうのです。」

「・・・」

言葉にもならなかった。男が20年間自分のほとんどの時間を費やし捧げてきた会社が、毎日いつもと同じように通っていた会社が、わずか一週間後に倒産してしまうのである。

「そ、それで、どうすればいいんだ!?」

男は息を荒げながら自分の息子に言った。

「私がこの時代にきたのは、あなたに私と同じ方法で過去に帰り、会社の倒産を避けて欲しいからです。」

「・・・わかった。過去に戻って就職する会社を変えるか、とにかく何でもやってみよう」

息子は少し安心した顔で

「ではタイムスリップの方法を教えます。方法は簡単です。毎日朝7:77:77、つまり8時18分17秒に朝乗車する駅の反対のホーム、6本目の柱のところから飛び降りるんです。」

「飛び降りて、それでどうなる?」

「飛び降りた瞬間、ちょうど新幹線が通ります。その新幹線があなたに与える力は、約500000トン。なぜかはわかりませんがその時間にそこでその力が加わると過去にタイムスリップできてしまうんです。」

「なるほど。信じがたい話ではあるが・・・」

「信じてください。あなたの会社が倒産し、あなたの妻、つまり僕のお母さんはひどいショックを受けた。僕だって同じです。」

「わかった。それで、もう少し詳しい話を聞かせてくれるか?」

「もちろんです。」


そして色々と話を聞いた男は、次の日の朝を迎えた。


{8時17分・・・あと1分か・・・}

信じていないわけではない。しかし、もう一つ自信が足りない。なぜなら失敗してしまったらそれでおしまいなのだから。

刻一刻と時間は迫ってきた。

あと30秒、あと10秒・・・・・・・


結局、男は飛び降りることが出来なかった。

次の日も同じ、その次の日も。



そして、ついに息子が現れてから一週間後、つまり倒産の日がきてしまった。

「もう、今日しかないな」

男は柱の前に立った。

あと1分。


あと30秒。


あと10秒。


あと5、4、3、2、1・・・




結局飛び降りはしなかった。

男は決めたのだ、自分の未来を信じようと。

たとえ会社が倒産しようが、

たとえ辛い日々が訪れようが、

それは自分の未来であり、

誰の未来でもないのだと、


そう思えることで、今まで平凡だった暮らしがもっと素晴らしいものになるのではないかと。

そう信じて。



時計は8時18分17秒を告げた。

その時、

男を押しのけて男の立っていた場所から飛び降りた人間がいた。

それはまぎれもなく、

男の会社の社長であった。

18のときに初めて書いたショートショート。まだまだですね。

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