悪夢への招待 (Akumu e no Shōtai)
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第一章:目覚め
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モンスター――人間を喰らう存在。
だが、彼らは動物でも人間でもない。
彼らは――モンスターだ。
いったいどうして、彼らはああなってしまったのか?
なぜ、あのような存在になったのか?
彼らの存在の本当の理由とは?
神がモンスターを創ったのではない。
では、誰が?
モンスターは、人間が創り出したものだ。
世界は残酷だ。だが、人間はもっと残酷だ。
嫉妬、欲望、傲慢――それらがモンスターを生む。
吸血鬼のようなモンスターの話を始める前に言っておく――
本当のモンスターは、人間だ。
人は他人を欺き、権力を追い求める。
そして、それを手に入れた途端、互いに殺し合う。
だが、人間たちは理解していない。
人間は、唯一の神によって創られた存在なのだ。
では、吸血鬼のようなモンスターは?
誰が、どのように、そしてなぜ創ったのか?
その答えは、たった一人の男に辿り着く。
彼は、人々に自らの罪と過ちを自覚させたかった。
今起きていることは、人類の行いに対する報いなのだ。
そして、彼はもはや、誰が無実かなど気にしていない。
彼の目には、たとえ無実の者の死でさえ――
――この残酷な世界からの「解放」に過ぎないのだ。
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これは、5人の人間の物語。
最初、彼らは互いを知らなかった。
だが、ある出来事をきっかけに、その運命が交錯する。
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登場人物
ケンゾーとルカ:トゥルヴィア出身の大学生で、親友同士。
ケンゾーは明るく社交的で、ルカは物静かで内向的。
ミン・リウ:シャーニャ出身の穏やかで冷静なビジネスマン。
兄の葬儀のため、母親と共にトゥルヴィアへ向かう。
アキコ:日本在住の、優しく穏やかな作家。
ソフィア:インドラ出身の内気な女子大学生で、ケンゾーとルカの同級生。
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ある晴れた日、シャーニャのメイルン市――
ミン・リウはオフィスの窓から外を眺めていた。
彼は無表情のまま、椅子に座って考え込んでいた。
ノックの音が聞こえた。
「入ってくれ」と、ミンは命令口調で言った。
助手のウェイジエが笑顔で入室し、スケジュールを報告した。
今日の予定には、いくつかのビジネス会議と重要な約束が含まれていた。
ミンは静かに耳を傾けたが、心ここにあらずだった。
彼の心は、トゥルヴィアのダリヤ市に住む兄のことに向いていた。
兄は幼い頃から心臓の病を抱えていた。ミンはいつも兄を気にかけていた。
彼はまた、16歳のときに母と兄を捨てて他の女性の元へ去った父のことも考えていた。
ミンはため息をつき、助手に退室を命じた。
一人になると、やっとスマートフォンを確認した。
母親から1時間以上前から「お昼を食べなさい」と何度もメッセージが届いていた。
もう午後2時で、また食事を忘れていた。
ミンは短く「わかった」と返信した。
そして再び空を見上げた。
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同じ頃、トゥルヴィアのダリヤ市――
午前9時。ルカはケンゾーの家の前で待っていた。
ケンゾーが慌てて飛び出してきた。また大学に遅刻しそうだった。
ルカは腕を組みながら言った。「もう9時だぞ、ケンゾー。またお前のせいで遅刻だ。」
ケンゾーはため息をつきながらルカの腕を掴んで車へ向かった。
ルカは渋々乗り込み、さらにため息をついた。ケンゾーはスピードを上げた。
「ケンゾー、スピード落とせ! 遅刻はしても、事故って入院するのはごめんだ!」
ケンゾーは笑った。「心配するな。お前に嫁を見つけるまでは事故らないよ。」
ルカはにらみつけたが、ケンゾーは笑い続けた。
大学に到着し、急いで教室へ入ると、教授のエミールが腕を組んで睨んでいた。
ケンゾーは気まずそうに笑い、ルカはまたため息をついた。二人は謝罪して席に着いた。
教室には、静かに窓の外を見ていた少女ソフィアの姿もあった。
彼女は二人のやりとりにくすっと笑い、すぐに講義へと意識を戻した。
その日は、何気ない日常の小さな幸せに満ちていた。
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再びシャーニャにて――
ミン・リウの携帯が震えた。
「もしもし、母さん?」
母親の声は涙混じりで動揺していた。兄の妻から電話があり、兄カイ・リウが心臓発作で亡くなったという。
ミンは衝撃を受けた。信じられなかった。
たった一人の兄、ずっと自分を守ってくれた兄が――もういない。
泣きたい気持ちを堪え、母を気遣って冷静を装った。
すぐにトゥルヴィアへ向かうと伝え、ビザの手続きを始めた。
何度も電話をかけ、ようやく自分と母のビザが取れた。
会社の業務は助手に任せ、緊急時のみ連絡を取るように指示した。
30分後、自宅に戻ると、母が泣きながら彼を抱きしめた。ミンは優しく慰めた。
「母さん、今夜トゥルヴィアへ出発するよ。準備して。」
母は涙ながらにうなずいた。
ミンは使用人たちに、数週間あるいは数ヶ月の不在を告げ、留守中の管理を頼んだ。
必要な荷物をまとめ、空港へ向かった。
車内でも、母は静かに泣き続けていた。
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11時間後、彼らはダリヤ市に到着した。
空港からバスで兄の家へ向かう。夜の街は美しかったが、心は重かった。
玄関の扉を開けたのは兄の妻サラ。泣きながら義母を抱きしめた。
9歳のルナと15歳のリアム――カイの子供たちはミンに抱きつき、涙を流した。
すでに多くの弔問客が集まっていた。
後に、サラが古い日記帳を差し出した。
「数日前、カイがこれを私に渡して言ったの。『もしもの時はミンに渡してくれ』って。」
ミンは無言で受け取り、なぜ兄がこれを自分に託したのか考え込んだ。
写真に映る兄の姿を見つめ、感情が溢れそうになった。
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数週間後――
ミンの携帯が鳴った。
「もしもし、ウィリアム?」
「やあミン! 日本で重要なビジネス会議がある。大手企業のCEOが君に会いたがってる。1週間以内に来てくれ!」
ミンは困惑した。「日本…? それはちょっと…」
母の方を見ると、躊躇いが生まれた。
「これは本当に重要な機会なんだ。逃さないでくれ」とウィリアムは言った。
長い沈黙の後、ミンはため息をついた。「…わかった。考えてみる。」
彼は家族に説明した。最初は渋っていたが、母と義姉の強い勧めにより、最終的に承諾した。
「…じゃあ、1週間後に出発するよ。」
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一方――
ケンゾーとルカは、日本の友人コウジから結婚式の招待を受けた。
妹アキの結婚式だという。
奇しくも、アキはソフィアの親友だった。
3人とも、同じ週に日本へ向かうことになった。
ケンゾーは大喜び。
ルカは冷静を装っていたが、内心では楽しみにしていた。
ソフィアは喜びと緊張が入り混じっていた。
ケンゾーは父に電話した。
「と、父さん…友達の妹の結婚式で、日本に行ってもいい…?」
父の返事は疲れた声で、「…いいよ。忙しいから切る」とだけ言って電話を切った。
ケンゾーは驚きながらも喜んだ。「許可もらえた! ルカ、お前も聞いてこい!」
ルカも帰宅し、事情を説明すると、父は微笑みながら許可してくれた。
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1週間後――
ミン・リウ、ケンゾー、ルカ、ソフィアは、偶然にも同じ便で日本へ向かった。
空港を出ると、東京の美しさに圧倒された。
そのエネルギー、建物、人々――すべてが眩しかった。
だが、突然――
バンッ!
空港が爆発した。
一瞬にして、美しい都市は瓦礫と化した。
生き残ったのは、わずか10人。
他の者たちは、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。
さらに、悲劇が重なる。
一人の乗客のスマホが過熱して爆発。
5人が即死した。
残った者たちは慌ててスマホを投げ捨てた。
1人の少年が、倒れた母の傍で泣き叫ぶ。
「ママ! ママ! 目を開けてよ…怖いよ、ママ!」
その叫びは胸を締めつけるほど悲しかった。
静寂の中で――
「ハハハハ……!」
不気味な笑い声が響いた。
まるで、悪夢の幕開けを告げるかのように――。
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第1章 終わり
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