イーグル=タケル
カリナは元気よく、学校に向かった。
見上げると、スズメがチュンチュン電線に止まって鳴いている。
とても清々しい朝だ。学校に行けば昨日できた友達に会える。
カリナは意気揚々と両手を振って、教室に入ろうとした。
「なんで女がタケルの仲間に入ってるのっ!おかしいじゃんっ!!」
ホームルーム前のまだ先生が来ていなく、生徒がまばらに教室に入って来ているタイミングで大きな声が聞こえた。
カリナは何事かと自分の教室ではない入り口へ近づいて、その声の方向を見ていると、なんと昨日仲間になったイーグルが女子の四人グループに責め立てられているようだった。
そのグループのリーダーと思われる女の子がイーグルに怒って抗議している。
シャークもイーグルのそばにいて、両手の平を相手に見せて落ち着かせているようなジャスチャーをしていた。
「なんでそいつが仲間に入れて、私が入ることができないの!」
なんだか、会話の風向きがおかしな方向になっているなとカリナは思った。
「なんていうか お前は俺のグループとは空気が合わないから入れてやれない」
シャークの心遣いも空しくイーグルはグサッとはっきり相手の女の子に言った。
「だいたい、そこのオカマがタケルに近付くこと自体嫌なのに、その上本物の女まで仲間に入れてタケルは一体何がしたいの?ハーレムでも作るつもり?」
逆上した女の子は見境いがつかなくなって、後ろで見守っていたピーチにも攻撃をしてきた。
ピーチは何も言わずにただ俯いていた。
そのときにカリナは沸々と怒りが沸き起こってしまい、気が付くとタケルを怒鳴りつけていた女の子の前まで走り寄って割って入り、女の子の頬にビンタを食らわせていた。
「パチンッ!」
音がしてから少し間が空いた。スズメの鳴き声がチュンチュン聞こえた気がする
それ以外の音が一瞬だけ世界から消えたような気がした。
女の子は叩かれた反動で髪が乱れて、顔が隠れていたがその隙間からは怒りを爆発させた目でカリナを睨み付けていた。
「おまえかーっ!! このドロボー猫!!」
女の子はどこでそんな言葉を覚えたのかカリナに飛び掛かって首を絞めようとした。
「おい、おいおいっ ユイっ! 落ち着けって!」
みんながユイを止めに入った。
女の子の名前はユイというらしい。
これでもかというほどの美少女である。
きれいな長い黒髪と眉毛のあたりで揃えられた前髪、透き通るような肌とはっきりした目鼻立ちはスタイルと相まってどんなに遠くから離れて見ようとも彼女のことを一目見ないわけにはいかないほどのインパクトがあり、そのためか少し近寄り難いくらいの雰囲気を持っていた。
しかしカリナはこう思っていた。
(関係ないし 仲間を悪く言うやつは敵だし)
カリナは首を絞められて、気を失いそうになりながらも自分の行動を自分で肯定していた。
「オカマ」という言葉はどこか差別的に聞こえる。同性愛者と言え!とカリナは思っていたのだ。
お互いのグループに引き剝がされる形となって、カリナとユイは離れた。
ユイは怒りのせいか息が上がっていた。
「はぁはぁ……あんたも……そっちのあんたも」
ユイはピーチとカリナを順番に指さして釘を刺した。
「タケルと私は幼馴染みで昔からの付き合いなの! タケルは私と結婚することが決まってるから勘違いしてタケルに変なちょっかいは出さないでね!」
ユイは顔を真っ赤にして興奮して、二人を睨みつけたあと、自分の教室に仲間と一緒に帰って行った。
「おお怖い怖い」
教室にいる男子の一人がユイに聞こえるように言葉を発した。
教室の男子の独り言を最後に先生が入って来て、ホームルームが始まった。
「あら?あなたはうちの教室じゃないでしょ?早く自分の教室に戻りなさい」
女教師に顔を当てられてカリナもすぐに教室から退散した。