第9話 変わった戦士たち
猫人族のシャンさんが帰った後、入れ替わるように二人の戦士の人がやって来た。正確には僕より少しだけ背丈のある蛙顔の戦士と、リリーと同じくらいの背丈の枯れた木のような小さな戦士だった。小さくても鎧? のようなものを着ていた。
「やあリリー、いたずらばかりしてないかい」
「リリー、助っ人に来たゾ」
「むぅ、二人とも偉そうになにさ」
リリーが戦士と呼ぶ二人は蛙族のプロケロさんと、ラゴラ戦士のランダーさんだ。
プロケロさんはプリプリと怒った仕草で飛び回るリリーに、頭をペシペシされている。身体より大きな頭に、ぐりっとした目がギョロリ動き僕を見た。
「うぅっ⋯⋯」
以前は母と⋯⋯こっちに来てからは、カルミアさんやリリーとしかまともに話していなかったから、僕は怖くなって困惑してしまった。
「ほら、レン。怖くないからしっかりしなさいよね」
リリーが僕に見せつけるように、プロケロさんの頭をキックして捕まった。
「やあ、レン。私は君の味方だ」
ジタバタするリリーを解放し、プロケロさんが僕に目線を合わせて屈む。
「そうだゾ、レン。学校へ行くなら知らないものに慣れないと行けないゾ」
ランダーさんも足下でピョンピョンと飛び跳ねながら、僕を励ます。
⋯⋯そうだった。僕は学校へ行く以上、人に会うのを怖がってばかりいられないんだ。
「ぼ、ご、ごめんなさいレンです」
自己紹介と謝るのを同時にしようとして、僕は変な発声をしてしまう。リリーが僕の頭に乗って来て、足をバタつかせてケラケラ笑う。
「君は面白いね」
「喉の調子は大事だゾ。飴をやろう」
うぅ⋯⋯恥ずかしい。喉の調子が悪いわけではないのに、小さな戦士は優しいね。
「ぐぇ⋯⋯に、にが」
「何でもすぐに口にしちゃ駄目だよ、レン」
「やるとは言ったが舐めろと言ってないゾ」
ランダーさんがカラカラ笑う。良い人たちかと思ったのに酷いや。なんか苦い粉を固めた玉だったよ。
蛙の魔物が使う毒への毒消し効果があるんだって。リリーが教えてくれたから、いくつか貰っておいた。
「あと、彼女からこれを預かってきた」
プロケロさんがカルミアさんから預かってきたものを、僕に手渡した。水色の丸い石で、不思議な輝きに煌めく。
「あら、水霊石ね。レン、これがあると水汲みの負担が減るよ」
「水霊石?」
「魔晶石の濃いやつだよ。水汲みの経験は充分積んだって事かもね」
ご褒美なのか、身体を鍛えるためなのかな。カルミアさんに遊ばれているような気もするよ。
「レン、考えても無駄よ。それにしてもプロケロ、助っ人二人だけ?」
リリーの問いにプロケロさんが頷く。
「蛙戦士はシャンの隊商と新ルートの警護に回す事になったよ」
「エェッ、聞いてないよ〜」
散々得意気だったリリーがあからさまに悄気ていた。不安というよりも、賑やかなのが本当は好きなんだよね。
「ラゴラ戦士見回り隊は既に先行してるゾ」
ランダーさんみたいな戦士が十名ずつ五隊もいるそうだ。リリーがにんまりしながら僕の前へ来る。
「ほら、聞いた? 私が一声かければ千の戦士が馳せ参じるのよ」
えっへんと、小さな胸を張るリリー。僕のために、安全に気を使ってくれたんだと思いたいな。