第8話 猫の商人
猫人族⋯⋯といっても、人の姿とあまり変わらないんだね。猫のようなクリッとした瞳に、猫耳は控えめに人の耳より少し高い位置に見えた。背は僕よりずっと高い。ゆったりした行商人の服のためか、しっぽは隠れて見えない。
僕が失礼な目で珍しそうに眺めているように、シャンさんも僕を面白そうに見つめる。ジロジロ見てしまって、怒らせていないか心配になった。
「リリー、元気なようで何よりニャ。それに⋯⋯ふむふむ、ほうほう。キミが魔王様の作った冒険者学校の入学希望者なんだニャ」
観察が済むと、シャンさんはリリーよりも大きな手でワシワシと不安気な僕の頭を撫でて話しかけてくれた。良かった、優しい人だった。でも⋯⋯魔王さまって⋯⋯悪い人だよね? シャンさんも怖い人??
僕が疑問に思っていると、リリーが飛んで来て、シャンさんとの間に割って入った。
「シャン、ラズク村の施設は出来たの?」
「まだニャ。もともとあったものを取り壊して使えるから、作るのは早いニャ」
「それならもう少しマシな調味料も届きそうね」
「それは任せるニャ」
「頼むよ〜。育ち盛りにはエイヨーが大事だからさ」
魔王さまと聞いてもリリーは驚かず、シャンさんと普通に話している。きっと、マオさんって名前の人なのかも。
僕たちのいる山小屋から山の麓へ向かうと、人のいなくなった集落があるってリリーが言っていたっけ。流通がどうとかも言っていた。シャンさんはその準備に駆り出されて大変だとボヤいていた。
調味料の話をしていたから、リリーは買うつもりのかな。育ち盛りには栄養が大事だって、僕の身体は聖霊人形なのに育つの?
学校へ行くまでの間、食べてゆくのは大事だ。それに僕は生きてゆく術を学び、入学資金も稼がないといけない。
「ニャに、商人どもの移動が始まれば稼ぎも問題ないニャ。それよりリリーと資源を守るために、見回りを頼むニャ」
僕は忙しいシャンさんに替わって山小屋付近の管理を、あらためて任された。
「ルーネ様からラゴラ戦士を。ラナ様からは蛙戦士を派遣してもらったから大丈夫よ。基本的にレンとアタシたちで見回るし」
僕が答えるより早く答えたリリーが、何故か勝ち誇り得意げだ。なんか戦士を派遣って言っていたけど怖くないのか不安だった。
「そうニャのか。でもカルミアは頭はいいけど忘れっぽいから、催促忘れない方が賢明ニャ」
リリーの得意そうな顔を見て、シャンさんは軽くリリーへと忠告をしてくれた。この人たちのカルミアさんへの評価がいまいち僕にはわからないや。