第7話 来訪者
カゴいっぱいの荷物と共に、僕とリリーは無事に山小屋へと戻って来た。ヘトヘトになってしまって、すぐにでも横になりたい。
でも⋯⋯採って来たものを片付けて処理して、夕食の支度をして、水浴びで汚れを落としたり歯だって磨かないといけない。一つでも怠けると、明日の自分が困ることになるんだ。
「専門ギルドのありがたみが、わかるってものよね〜」
大きな山や森の近くには狩猟ギルドがあるそうだ。海や川なら船乗り組合い、馬車や大工さんの集まりなど、人が集まる所には店から発展してギルドというものが必要になるらしい。
母の物語で聞いた、僕の知る冒険者ギルドもある。この世界では他のギルドのそうした仕事をまとめたようなものみたい。冒険者になるのは依頼をこなしながら、自分に向いた仕事を探すためにもなるのだ。
「レンにもわかる? 現実はキビシーのよ」
小さな妖精に世の中の知識があるのが不思議だったけど、リリーは見かけよりずっと長く生きているのかもしれない。そんな事を思った瞬間頭をポカッとはたかれた。
「その茸⋯⋯オミットとモノグサ草は隣の部屋の机に適当に広げて干しておいていいわ。レンの食べる茸は、軽く汚れを払うのよ」
防虫防菌効果のあるオミットや麻痺効果のあるモノグサ草は、干した後、粉状にしてから他の薬草などと混ぜて使う。手をかけることで役に立つ素材なので変な名前だけど売れ筋だとリリーが胸を張って言った。
僕の食用茸は、煮たり焼いたりして食べる事が出来る。茸を焼くための串は、トガの枝を集めておいた。トガの木は皮が固く、枝先が尖っているため衣服を破き肌を傷つける危険な植物だ。
茸はリリーが食べられる種類を教えてくれた。間違えて食べると死んじゃうよ〜と脅されたので、見分けるまで大変だったよ。
「トガの木のギザギザの葉は、あまり役に立たないのよね。これがギンバの葉なら高く売れるのにさ」
ギンバの葉は、別名シルバーリーフといわれるそうだ。緑がかった葉を銀の糸で縫い込んだような葉っぱだ。リリーが混ざっていたギザギザのトガの葉を見て教えてくれた。
ギンバの葉なら鉄のように硬く銀のように輝く繊維が採れるから、高級な衣服の裁縫用の糸として、貴族の間で人気なんだとか。
「そのアマミダケは焼いちゃ駄目よ。スープに入れた方が美味しいからね」
アマミダケは、ほんのり甘さを感じる茸。スープに入れて煮るとコクが増す。何だか料理人になったみたいだ。包丁は使ってないんだけどね。
「レンに刃物なんて生意気よ」
リリーが気を遣ってくれて、簡単に出来るものから教えている。採集でナイフの扱い方に慣れて、手に切り傷がなくなるまでは調理しようなんて考えなくていいと、冗談まじりに言われた。
最初は大変だった採集作業も、水汲みと同じで毎日のように続けていると身体が慣れて来るものだ。
「メヌの皮を剥けるなら、調理も出来るわね」
ヌメヌメしたお芋の皮をナイフで剥いても切り傷を負わなくなった。ナイフの扱いも最初より上手くなった自信はある。リリーの指導のもと、僕は調理を行うようになった。
「⋯⋯美味しいよ、リリー」
「やったわね、レン」
リリーが小さな手をかかげで迫るので、僕は自分の手を合わせて、パチンとハイタッチをする。
アマミダケとメヌの実と、ダシヌカ菜やフキゲン豆の簡単な料理。優しい甘さが美味しかった。
道具は山小屋の厨房に一通り揃っている。初めての事ばかり体験する中で、元々この山小屋の管理をしていた噂の猫人族、シャン・マウさんがやって来た。