第5話 捨てるものはない
僕が初めて一人で作ったご飯⋯⋯フキゲン豆のスープは、塩で味つけしただけ。豆の苦酸っぱさを塩でごまかした味だ。リリーの情報では栄養豊富なんだけど美味しくはない。はじめはリリーの冗談かと思ってたよ。
「フキゲン豆は、本来保存用に煎って貯めておくものよ。スープは香味と合わせて飲むと眠気覚ましになるの」
食料豊富な山でフキゲン豆だけを食べる事は少ない。嵐や吹雪で狩りに出れない日が続いた時のために、肉や魚も干して保存するのが本来の形になる。豆や調味料がなくなる前に、僕は他の食材を確保しないといけなかった。
ご飯を食べた後は、またお水を汲んで、薪に使う枝を拾いに行く。飲み水だけではなく、お風呂やトイレにも水は必要だからだ。
「貯水槽にも水を貯めてね。レンのいた世界のようなお風呂やトイレが使えるようにって、カルミアが改造してたから」
トイレだけは重要みたいだ。錬生術師のカルミアさまが開発した浄化用スライムのゴーレム粘体人形君が、綺麗に掃除をしてくれるんだって。以前の僕は⋯⋯。
「レン。過去を思い出して湿っぽくなっても、過去の自分は救えないんだよ」
リリーが頭を撫でてくれたので僕は落ち着くことが出来た。口が悪いなぁと思うけれど、優しい妖精だった。
「だいたい廃村のトイレなんて悲惨だよ。レンなんて、落ちたら助からないよ」
田舎の村や集落のトイレは幼い子供には危険な事があるみたい。川に設置されたものや、肥料用に貯める専用の場所でも、だいたい排出口は大きくて落ちると危ない。
トイレを使う時のためにロープを持って手に巻き付ける事もあるようだ。でも暗い時はどこにあるのかわからから、あまり役に立たないよね。
「大変なんだね⋯⋯異世界でも」
「人形の身体なんだから魔力供給のみにするか、排泄時にそのまま魔晶石化して、汚さない仕組みにすればいいのにね」
僕の身体は聖霊人形という作られた身体なのに、人にかなり近い性能だ。だから便利さも不便さも、人の感覚と変わらない。人が人を作るのって凄いのは僕にだってわかるのに、あの人は何故か不便さを残した。
「レンの場合は普通の人の暮らしを味わいたいから、その身体で正解だったよね」
水を汲むのも火を起こすのも大変だ。でも身体が思ったように動くので、僕は楽しかった。
「面白いね、レンは。作業している時は文句言いたそうだったのに」
「そ、それは重くて辛いからだよ。でもさ、僕がお水いっぱいの桶を運べたんだから嬉しいんだよ」
「アタシはどのみち無理だからわからない感覚だよ」
「そっか、ごめん」
「謝らないで大丈夫よ。あの狂った錬生術師が、アタシ用の人型人形も作ってくれるから」
リリーの身体を完成させるために、僕から出来る素材が必要らしい。いずれ錬生術師の彼女から仕組みを話してくれるとリリーがカラカラと笑う。
色々と教えてくれるリリーのためにも、僕は頑張ろうと思った。