表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/23

第5話 捨てるものはない


 僕が初めて一人で作ったご飯⋯⋯フキゲン豆のスープは、塩で味つけしただけ。豆の苦酸っぱさを塩でごまかした味だ。リリーの情報では栄養豊富なんだけど美味しくはない。はじめはリリーの冗談かと思ってたよ。


「フキゲン豆は、本来保存用に煎って貯めておくものよ。スープは香味と合わせて飲むと眠気覚ましになるの」


 食料豊富な山でフキゲン豆だけを食べる事は少ない。嵐や吹雪で狩りに出れない日が続いた時のために、肉や魚も干して保存するのが本来の形になる。豆や調味料がなくなる前に、僕は他の食材を確保しないといけなかった。


 ご飯を食べた後は、またお水を汲んで、薪に使う枝を拾いに行く。飲み水だけではなく、お風呂やトイレにも水は必要だからだ。


「貯水槽にも水を貯めてね。レンのいた世界のようなお風呂やトイレが使えるようにって、カルミアが改造してたから」


 トイレだけは重要みたいだ。錬生術師のカルミアさまが開発した浄化用スライムのゴーレム粘体人形(スマイリー)君が、綺麗に掃除をしてくれるんだって。以前の僕は⋯⋯。


「レン。過去を思い出して湿っぽくなっても、過去の自分は救えないんだよ」


 リリーが頭を撫でてくれたので僕は落ち着くことが出来た。口が悪いなぁと思うけれど、優しい妖精だった。


「だいたい廃村のトイレなんて悲惨だよ。レンなんて、落ちたら助からないよ」


 田舎の村や集落のトイレは幼い子供には危険な事があるみたい。川に設置されたものや、肥料用に貯める専用の場所でも、だいたい排出口は大きくて落ちると危ない。


 トイレを使う時のためにロープを持って手に巻き付ける事もあるようだ。でも暗い時はどこにあるのかわからから、あまり役に立たないよね。


「大変なんだね⋯⋯異世界でも」


「人形の身体なんだから魔力供給のみにするか、排泄時にそのまま魔晶石化して、汚さない仕組みにすればいいのにね」


 僕の身体は聖霊人形(ニューマ・ノイド)という作られた身体なのに、人にかなり近い性能だ。だから便利さも不便さも、人の感覚と変わらない。人が人を作るのって凄いのは僕にだってわかるのに、あの人は何故か不便さを残した。


「レンの場合は普通の人の暮らしを味わいたいから、その身体で正解だったよね」


 水を汲むのも火を起こすのも大変だ。でも身体が思ったように動くので、僕は楽しかった。


「面白いね、レンは。作業している時は文句言いたそうだったのに」


「そ、それは重くて辛いからだよ。でもさ、僕がお水いっぱいの桶を運べたんだから嬉しいんだよ」


「アタシはどのみち無理だからわからない感覚だよ」


「そっか、ごめん」


「謝らないで大丈夫よ。あの狂った錬生術師(マッドアルケミスト)が、アタシ用の人型人形も作ってくれるから」


 リリーの身体を完成させるために、僕から出来る素材が必要らしい。いずれ錬生術師の彼女から仕組みを話してくれるとリリーがカラカラと笑う。


 色々と教えてくれるリリーのためにも、僕は頑張ろうと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ