八話 観世水晶と家族
「お前とお前の家族の様子を確認する」と言ったルベールの後ろを歩いて数分。
ルベールが急に立ち止まった。
「いだっ。」
「……鈍臭いのか何なのか…。」
また背中にぶつかったが、2回目はいくかと踏ん張る。
こいつ本当に気ぃ使えよ年下だとしても!!
少し苛立ちながらもルベールの隣に移動する。
「これだ。」
とルベールが指を差した先にあったのは、宙に浮かぶ紫色の水晶玉だった。
バレーボールくらいの大きさで、周りにはこれを保護するように布の仕切りが垂れ下がっている。
「綺麗。」
「これを使って現世の様子を確認する。見ていろ。」
そう言い、水晶に右手をかざす。
呪文などは唱えず、目を瞑って念じているように見える。
すると、水晶の周りに淡い光の線が回り、中には靄がかかり始めた。
ルベールの周りも心なしか少しだけ光っているように見える。
中の靄も光り始め、急に襲ってきた眩しさに思わず目を逸らした。
「…見ろ。」
そう言われ、光を警戒しながらもう一度水晶に目を向ける。
___水晶には、白い寝台に眠る、3人の家族の姿があった。
「みんなっ…!!」
「お前の家族だな。」
「うん、間違いない。俺の家族だ。」
水晶に張り付く勢いで見入っていたら、落ち着けと言うかのようにルベールが後ろ襟ぐりを引っ張ってきた。
猫か。
「お前の家族は生きている。心肺に大きな異常なし。意識だけが不明。この様子だと、明日には親のどちらかが目を覚ますだろう。妹…か?そっちはもう少し時間が掛かるが、いずれ目は覚める。無事ではないが、死ぬことはない。」
「!…よかっ、た…………。」
ルベールの言葉に安堵し、力が抜けたのか地面にしゃがみ込んでしまう。
俺の家は4人家族だ。
父さん、母さん、4つ下の妹、そして俺。
妹は中2、俺は高3。
忙しくなる前にみんなで遠くに出かけようと言ってくれる優しい人たちだ。
そんなことを思い出していると、ルベールがまた口を開く。
「…お前は、死んだ扱いだそうだ。」
「やっぱ、そっか。」
「あっさりしているな。」
だって、覚えてる。
俺は死んだ。
そもそも俺が座っていたのは助手席。
トラックに真横から突っ込まれて、死なないほうがおかしいだろう。
3人が生きていたのもほぼ奇跡だ。
3人が生きる代償として俺が死に、こっちに来たのだろうか。
「ますます、帰るのが難しいな。」
「…!」
さっきのクフェアの発言を思い出す。
俺は死人で、家族は生人。
俺はもう、帰れないかもしれない。
帰郷自体が、危険になるかもしれない。
「それについては、少し考える。お前らの指示に従う。」
「やはり意外だ。17なら、年相応の感情がそれなりにあるだろう。」
それに関しては言えることは一つだけ。
「俺、昔から周りより落ち着いたガキだったんだ。楽しいことは好きだから色々はっちゃけはするけど、大体の物事は達観して見れちゃう。」
「そうか。」
夜泣きもあまりしなかったと聞く。
物心ついたときにはすでに、友達の行動が不思議で仕方なかった。
だけど楽しいことや面白いことは好きで、そうしてる間は年相応に見えてただろう。
少し、さみしくはあったが。
俺はこの性格が嫌いだ。
ただみんなで何も考えずに馬鹿して笑ってみたかった。
そうするみんなが、とても楽しそうに見えたから。
「良いことだな。」
「…え。」
「その能力はいずれお前の役に立つ。第一、お前がここに来ても変な騒ぎになっていないのは、お前が状況を冷静に見て、下手に動かなかったからが理由の一つだ。」
「………。」
確かに、俺がここに来たのは異例の事態。
ただでさえ珍しいという人間がそこら辺をウロウロしていたら大なり小なり騒ぎになったり噂が立ったりしていただろう。
下手したら、ベルギアや六大神のみんなが何らかの疑いをかけられていたかもしれない。
それがなかったのがこの性格のおかげなら…。
「まぁ、いいかな。」
小さな声で呟いた。
「なんか言ったか?」
「いや。何でもない。」
もう一度水晶の中を覗き込み、3人の無事を再度確認する。
絶対いつか感謝を伝えようと思いながら、3人に届かぬ想いを馳せてみた。




