六話 元の世界へ帰るには
飲み込み難い言葉を、ゆっくり咀嚼し、理解し、けれど俺は一瞬フリーズした。
だが、もう一度理解した内容を思い返す。
「帰れない…?なんで、だって来ることが出来たなら帰ることだって…」
「うん。通常ならそう。だけど明楽の場合は特殊で、来た方法と理由が分からない。現世で明楽がどうなったのか、どういう扱いになっているのか。これらを詳しく調べないと、帰れないし帰ること自体が危険になる。」
帰ること自体が危険になる。
その意味が分からず、またフリーズしていると、クフェアが説明してくれた。
「…貴方の話によると、貴方は死んだのでしょう。現世では、死人が蘇るなんて気味の悪いこととしか扱われない。死んだはずの貴方が突然何事もなかったかのように現れたら、どうなるでしょうか。」
「そういうこと。勿論強制的に帰すことも出来るけれど、リスクが高すぎる。」
そっか…。
何となく大事な部分だけを理解し、俺はベルギアに向き直った。
「わかった。じゃあ、俺はどうすれば良い?」
「…意外だな、もっと騒ぐと思ったが。」
ルベールがさらっと失礼なことを言う。
それに同調するように、にこにこ顔のカトレアが頷く。
俺、そんな情けない男に見えるか?
「明楽は、六大神の屋敷を転々として生活してほしい。その間私達は、貴方が元の世界へ帰る方法を探す。できるだけ早く。」
「六大神?」
何となく察せるような気がするが、一応聞いておく。
「うん。ここにいる6人のことだよ。みんな私よりもすごい神だよ。ちなみに、クトルとイオラは精霊。言い忘れてたかな。」
「ベルギア様それ皮肉っすよ。」
「え、ほんと?ごめんアングレ。」
精霊。
そういえば会ったとき、ジニアが「ここは神や精霊が住まう、異界”ベルギア”。」と言っていた。
精霊と神の区別は、付きそうで付かないが、この2人の場合、薄々分かっていたような気がする。
「屋敷を転々と…と言っても、同性のほうがお互い気負わないと思うから…クフェアと一緒に住んでるアングレ以外の"3人"にお願いしたい。」
「承知しました。」
ジニアが答える。
何となく聞いていたが、ふと思い返して、不思議な点があることに気づいた。
「3人?2人じゃないのか?」
すると、一瞬シン…となった後、笑い声に包まれた。
アングレ、ジニア、ルベール、カトレアが声を出して笑っており、ベルギアとクフェアは目を閉じて微笑んでいる。
キュラスもほんの少し、口元が緩んでいるように見える。
俺はその笑いの意味が分からず、頭に疑問符を浮かべていた。
「そうだよね、そう思うよね。僕らは慣れてるから…あははっ。」
「っすよね!俺も最初そうだったっすから!」
「…ふふ、最近は聞いてなかったので…久々に聞くと面白いですね。」
なんで笑われてるのかわからない。
だって数えても女性は3人、男も3人しかいない。
「どういうこと?俺、なんか変なこと言った?え?」
「言われてるぞ?カトレア。」
ルベールが小突きながらカトレアに言う。
カトレアはまだ笑っていて、若干ツボっているように見える。
「カトレア?」
「あっはははは…!ごめんなさいね、ちょっとツボに………ふふふ…!」
ようやく落ち着いてきて、一息ついたカトレアが、胸に手を当てて言う。
「明楽ちゃん。私、男よ?」
「……………は?!」
俺の反応を見てまたルベールが「くく…っ」と笑っている。
「マジで?!カトレアが?!どっからどう見ても女性……声も全然低くないし…!!」
「声はこのウィッグのお陰。元を辿るとキュラスのお陰ね。ウィッグを被ったら声が変わるようにしてもらったのよ。」
そこまでされたらわかるわけがない。
そもそもの女装もかなりクオリティが高い。
普通に夜出歩いてたらナンパされそう。
「ちなみにこいつ、女装やめたらただの筋肉だぞ。」
「失礼ね〜。そんな筋骨隆々とはしてないわよ。」
中身を知ってるからみんな笑っていたのか。
そんな違うのか…?
「話を戻すよ。ふふ。」
まだ笑いの余韻が残っているのか、軽く笑いながら言ったベルギア。
みんな微笑みながら話を聞く姿勢に入る。
「ということだから、明楽はジニア、ルベール、カトレアの屋敷に世話になっていてほしい。3人は、話し合って空いてる日をそれぞれで共有しておいてくれ。細かいところも任せるけど、あまり上級神以外には言わないでおいてほしい。」
「御意に。」
ルベールが返事をし、他の2人も座ったまま礼をした。
ベルギアがそれを確認し、前を向く。
「じゃあ、他の議題について話し合おうか。明楽は悪いけど、別室で待っていてくれ。クトル、案内お願い。」
「はい。行きましょう、志水明楽様。」
クトルが俺のところに来て礼をしながら言った。
そんなかしこまった態度は、平民の俺は苦手なので、慌て気味に言う。
「明楽でいいよ!クトル…くん?」
「承知しました、では明楽さんで。僕もクトルで構いません。」
「わかった。」
「では行きましょうか。皆様、失礼致します。」
言ったあとドアに向かって歩く。
俺も席を立ち、クトルの後ろをついていく。
「明楽。」
ベルギアに呼び止められ、ぱっと後ろを向く。
「また話そう。」
当たり前のようなことを言われ、不思議に思いながらも、
「勿論。俺で良ければ。」
と言うと、ベルギアは驚いたあと笑った。
クトルがドアを開き、俺に先に出ろと手で示す。
それに従い廊下に出る。
「ついてきてください。客間に案内致します。」
「ありがとう。」
クトルのあとをついていきながら、さっきのベルギアの言葉と、3人について考えていた。




