五話 1つの支柱 6つの柱
「こちらこそ、再びこの場にお呼びいただき、光栄の極みにございます。」
ベールの神が最奥の席に座り、水色の女の子がその後ろに立ったあとすぐに、ルベールが丁寧な挨拶をした。
ベールの神がその挨拶に頷いたのを確認したあと、すぐに言葉をつなげた。
「今回の議題についてですが、事前にお伝えいただいていたものの前に、こちらの人間について話し合いを行いたいのですが、よろしいでしょうか。」
先程までの態度とは打って変わり、ひたすら丁寧な言葉遣いを続けるルベール。
そのルベールの言葉に、ただ頷くだけのベールの神。
他の神々は、口を出さず音を立てず、静かに会話を聞いている。
会話というのもおかしな表現のように思った。
端から見れば、ルベールが一方的に話しかけているだけなのだから。
「まずこの人間ですが、道端に座り込んでいたところを、僕、ジニアとルベールが保護いたしました。召喚した神はいない模様。すでに目撃した下級神や中級神が数人います。」
ルベールに代わり、ジニアがあの時の状況を報告する。
かなり重大なこととして扱われようとしているように聞こえる。
ベールの神が後ろに立っている2人のうちの1人、躑躅色の髪の男の子に耳打ちした。
何故頑なにベールを外したり、話したりしないのだろうか。
そういう神なのか?
「失礼ですが、お人間様。お名前とご年齢、性別、どうやってここに来たのか、をお教えください。」
「えっ、俺?」
「ここには貴方様以外、人間はいらっしゃいません。」
至極まともな返しをされた。
そりゃそうだよな。
「名前は志水明楽。歳は17、見ての通り男で…どうやってここに来たかって言われても、死んで気がついたらここにいたって感じなんだけど………。」
「死んで気がついたら?それは本当?」
ジニアが不思議そうな顔できいてきた。
「うん、家族4人で車で出かけてて、途中トラックで………」
そこまで言って、俺は1つおかしな点があることに気づいた。
「3人は?」
「3人?」
次はルベールが聞き返した。
俺はそれに答えるより、この疑問の答えを探すのに夢中だった。
俺がここにいるのに、3人がいないのはおかしい。
一緒にいたのに、まさか俺だけここにこれて、他の3人は来れなかった……?
俺はちゃんと実体がある、だけど、ここに今いない3人は、どうなったんだ。
急に黙り込んだ俺を一旦放置することにしたのか、ルベールが話し始めた。
「なにやら、本人にも分からぬ事情があるようです。どう致しましょうか。」
ベールの神は、また男の子に耳打ちした。
「まず、皆様の見解が知りたいそうです。一度お話し合いください。」
それを聞き、すぐにカトレアが手を挙げた。
「私はすぐに元の場所に戻すのが良いと思うわ。だけど、一度死んだ自覚が本人にあるのなら、得策と言えないかしらね。」
「…私もそう思います。死者が蘇るというのは、現世では奇妙なこととして扱われるそうですから。」
黙っていた女性2人のうちの1人、大正ロマン軍服に黒いローブを羽織って、全身を黒く染めている赤い髪の女性が、今日初めて口を開いた。
よく見ると、さっきの軽敬語の男に色々な箇所が似ている。
兄弟…?
「クフェアがそう言うなら俺もそう思うっす。」
「アングレお前、すぐクフェアに合わせる癖そろそろやめろ。」
なるほど、女性の方がクフェア、男の方がアングレ、というらしい。
どちらも目や髪の色、髪の長さ、背丈まで似ているため、パっと見じゃ分かりづらい。
声と服は違っていて何とか聞き分け見分けがつく。
「僕はそれも踏まえて、まず入念に調べてからどうするか決める方が良いと思う。幸い、最近はみんな手隙気味らしいから。」
「手隙とは言っても、常任の仕事があるだろう。」
「でも暇でしょ?」
「人を暇人のように言うな。比較的全員多忙な身だ。」
ジニアはくすっと笑い、先程から一度も話していない女性の方を向いた。
「キュラスは大丈夫?」
「………。」
キュラスと呼ばれた薄い紫色の髪をした女性は、黙ったまま頷いた。
前髪で右目が隠れていて、口も真一文字に結んだままなので、顔から感情は読み取れない。
タメ口を使われているということは、地位は対等なはずだが、どうしてだろうか。
それを確認したジニアは、ベールの神に話しかけた。
「お聞きされた通りでございます。最終的な判断はすべて、ベルギア様にお任せ致します。」
「わかった、ありがとう。」
ようやくベールの神……ベルギアが声を出した。
2度目だが、やはりジニアより優しい声だと感じた。
改めて聞くと、男女どちらともとれる声をしている。
ベールは外さぬまま、話を続ける。
「明楽…と言ったかな、あなた。」
「え?あ、はい。そうだけど…。」
と言うと、ルベールの目が吊り上がった。
ルベール以外は顔をしかめたり、驚いたり、額に手を当てたり、様々だ。
「貴様、ベルギア様にそんな口を聞くとは何事だ!」
今にも掴みかからん勢いで聞いてくるルベール。
俺は何も分からずぽかっとしている。
するとベルギアはルベールに牽制するような形で掌を伸ばして、
「ルベール。良いから、許しなさい。」
と言い放った。
この状況でも、声は優しかった。
「…失礼しました。」
少しの間はあったが、激昂するルベールを一言で収めた。
俺に対して不満はあるようだが、素直に黙ったルベールを見たベルギアは、俺に向けて話を続ける。
「先に何も言わなくてごめんなさい。私は呼び捨てで良いよ。その代わり、私も呼び捨てにして良い?」
「わかった。じゃあ、ベルギア。」
ベールの奥でベルギアが微笑む。
顔は見えないが、そのように感じた。
「ありがとう。じゃあ本題。まず明楽、貴方はすぐには元の世界へ帰れない。」
「…え。」
きっぱりとした口調で、最悪な言葉が言い放たれた。




