四話 9人の役者
2人に入れられた屋敷は、中も立派なものだった。
だが想像していた豪華絢爛なものではなく、どちらかというと落ち着いている。
部屋数は多く、ドアが一定の間隔で設置されていて、ドアの装飾や色は異なる。
それも、そこまで豪華でないものがほとんどだ。
創造神とはどのような人間…いや、神なのだろうか。
考えている間も、中へ中へと連れて行かれる。
お偉い様の屋敷なのに、召使いのような者は見当たらない。
そもそも少ない、いないのであれば、こんなに部屋は要らないだろうに。
すると、ジニアが大きめの扉の前に立ち止まった。
「ここだね、入ろうか。ええっと…そういえば名前は?」
「あ、言い忘れてた。俺の名前は志水明楽。一応17歳。」
「17?!てっきり、12くらいかと……。」
「さらっと失礼なこと言うなよ。」
癪だがよく言われる。
慣れてはいるが一応イラつく。
「じゃあ明楽くん、入ろうか。」
「なんで俺まで…?!」
「いいからいいから。」
と言いながらジニアはコンコンと扉を叩き、すぐに開く。
ノックの意味……とは思うが、許されるのだろう。
「遅れた、すまな__」
ルベールがジニアや俺より先に入り、挨拶をしようとした。
軽めの口調なため、まだ偉い神…創造神はいないようだ。
だが、その瞬間勢いよく誰かがルベールに抱きついた。
「ルベール〜!!!!!遅かったじゃな〜い!!!って…あら?」
「うるさい重い邪魔だ退けろ!!」
「も〜つれないわね。で、後ろにいるのは?どっちの殿方?」
言いながら俺を指さすのは、紫色の髪に、丁寧なメイクとドレスがよく似合う、麗しい女性だ。
ルベールに怒鳴られているがそんなもの知ったこっちゃないとでも言うように抱きついたままだ。
殿方って……俺のことか?
「生憎、僕らにその趣味はないですよ。この子はたまたま拾ってきた人間の子どもです。」
「あらぁ〜、やっぱりそうなのね。人間なんて珍しい。」
「説明するから早く退けろこの馬鹿!!」
…こうなると、ルベールが不憫なように見えてきた。
先程までは静かで真面目そうな固い男という印象だったが、それがだんだんと崩れていく。
「失礼ですが、カトレア様、ルベール様、ジニア様。それと、お人間様。一度ご着席ください。御三方がお待ちです。」
「うわぁ!!?」
「すみません、驚かせてしまったようですね。」
急に後ろから声が聞こえた。
ぱっと見ると、先程までいなかったはずの場所に、躑躅色の髪をした、巫女服を着た男の子がいた。
男の子といっても、多分俺より背が高い。
羨ましい。
「ごめんねクトル。」
「いえ、楽しそうでしたので、声を掛けるか少々迷ってしまいました。」
「これが楽しそうに見えるか?」
「私は楽しいわよ♪」
「うるさい。」
会話を聞きながら中に入ると、3人がテーブルの前に座っていた。
1人は男性、2人は女性のようだ。
座れと言われたが、何処に座るべきか分からない。
突っ立っていると、そのうちに話していた3人は迷わず座り、男の子…クトルと呼ばれていた子は最奥の席の後ろに立った。
「明楽くんも座りなよ。椅子は…ないから、ここに座るかい?」
「お前は何処に座るんだ。」
「申し訳有りません、今持って参ります。」
そう言い、男の子は何処かに行ってしまった。
ジニアはそれを見て渋々席に座り直した。
「そ、れ、で、この子は?」
「先程も言った通り、たまたま拾った人間の子どもです。」
「多分何でいるのかって意味っすよ。ジニアさん。」
先に座っていた男が横から会話に入ってきた。
赤い髪と大正ロマン軍服が目立つ。
ジニアをさん付けしながらも軽めの敬語を使っているところを見ると、気安い性格なんだろうか。
「うーん…そのあたりはわからないな。誰かが召喚したわけでもなさそうだし……。」
「はぁ?!それ、大問題じゃないっすか!!」
「…いつものことながらうるさいな。」
そこそこの声量だったからか、ボソリとルベールが呟いた。
そこで丁度ドアが開き、さっき出て行った男の子が入ってきた。
ノックの音が聞こえなかったのは、おそらく赤髪の男の声にかき消されたからだろう。
手には椅子を持っており、すっと俺の近くに寄ってきた。
「失礼します、椅子をお持ちしました。」
「あっ、ありがとう。えっと…。」
「クトルとお呼びください。」
「クトル、ありがとう。」
「いえ、なんてこと有りません。」
クトルが持ってきてくれた椅子に座ると、またノックが聞こえてきた。
まだいるのだろうかとそちらを見てみると、次は礼儀正しくドアが開く前に、快活な女の子の声が聞こえてきた。
「創造神様がお見えになりました〜!」
その声で、先程まで絶え間なく聞こえていた話し声が止み、途端に静かになった。
クトルもいつの間にか部屋を出る前の場所に移動している。
声が止んだのを合図に、ドアが開く。
そこには、巫女服を着た水色髪の女の子と、ベールで顔を隠した、創造神らしき神が立っていた。
ベールを被った方が、ゆっくりと部屋の中を見渡す。
俺を見た瞬間、ベールの奥の影が一瞬、目を見開いたように見えた。
男女どちらが着ても違和感のないタイプの漢服を着ていて、服装や立ち姿から性別は分からない。
顔を元の位置に戻し、ベールに手をかけた。
外すのかと思ったが、隣にいる女の子が袖を引いて止めた。
以上一連の動きはたおやかだった。
その間、誰一人声を出さず、動かず、ただ見つめていた。
ベールの君が、口を開いた。
「みんな、元気で何よりだ。今日は集まってくれてありがとう。」
この場の誰よりも優しく、何よりも静かな声が、鼓膜を揺らした。




