十一話 良くない夢と神との食事
「_____明楽は昔からそうだよね。」
そう言って、心を見透かすような目で俺を見つめてくる、大切な友達。
見慣れた小道で2人、立ち止まって話をしている。
何も言い返せない俺と、何かを諦めることを選んだ君。
俺は何を言いたかったのだろうか。
君は何を求めていたのだろうか。
この記憶は、今もなお俺を蝕み続ける。
「起きろ。」
「あだぁっ?!」
短い言葉と額に落ちてきた手刀で一気に目が覚める。
先程まで見ていた光景が恐ろしいほどの早さで消えていき、代わりに目の前に映るのは平然とした顔のルベール。
…まずい、寝てた。
「俺、どんくらい寝てた…?」
「長くても32分だ。飯ができたぞ。」
「ありがとう。てか起こし方どうにかなんなかったのか?」
「起こしただけでも有り難いと思え。」
まだじんじんと痛みを主張する額を軽く抑えながら起き上がる。
そのうちにもルベールは俺を置いて部屋から出ていこうとする。
癖なのか?人を置いていくの。
だとしたら悪癖すぎる。
「…おい今失礼なこと考えただろ。」
「気の所為ってことにしてくれ。」
半分すっとぼけて誤魔化しルベールの後を追う。
階段を降りると、ほのかに漂う粉物の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
なんだろうな…
パンかピザか?
時間的に1から作れはしないと思うが、元々屋敷にあったのかもしれない。
日本の料理が存在するならお好み焼きとかも有り得るけどソースらしき匂いはしないし…。
そう思いながらリビングを抜け、ダイニングキッチンに行くと、すでにルベールが椅子に座ろうとしていた。
テーブルを挟んで反対側には空いた椅子、テーブルの上には2人分の皿。
そして肝心な皿の上には…
「…パンケーキ?」
まるで絵に描いたかのような、驚くほど綺麗でボリュームのあるパンケーキがあった。
一皿だけでも腹は十分満たされるだろうに、ルベールの前にはそれがもう一皿。
イメージと真逆の様子に呆然としてしまった。
「なんだ。早く食わねば冷めるぞ。」
「あ、いや食べはするんだけど…意外で。」
「よく言われる。」
そう言いながら平然と食事を始めるルベール。
俺は向かいの席に座り、手を合わせカトラリーを手に取る。
試しに刺してみると、見た目通りふわふわで柔らかく、沈み込みながら切れていった。
ふとルベールはどう食べているのか気になり、ちらりとバレない程度に見てみた。
「………美味い。がやはりシロップはもう少し甘くても…。」
何も見なかったことにしてやろうかな。
周りが少しほわほわしているように見える。
実際本人も少し微笑んでいる。
小声で言ってるつもりなんだろうが普通に聞こえた。
ルベールって意外にも…
「甘党?」
「甘党…というと、確か特別甘いものを好む人間に言うものか?」
「あ、そうそう。ルベールって甘党なんだなと思って。」
現世でしか浸透してない言葉もあるようだ。
よく考えると、食事をしない神や精霊もいるらしいからなと勝手に納得。
「おそらく私はそれに当てはまるだろう。毎食甘いものでも飽きずに生きていけると思っている。まぁ、私がこれを好むと知るものは少ないがな。」
「なんか意外だ。てっきりちゃんとバランスよく食べろっていう方かと。」
「カトレアには言われたな。」
性格だけで好みを想像するのは違うかと思いながら言うだけ言ってみた。
さて、会話に夢中で一口も食べていないパンケーキをそろそろ食べてみようか。
そう思い一口大に切ったパンケーキをフォークに刺し口に運ぶ。
歯がいらないのではと疑うほど柔らかく甘い生地。
それに合う少しだけ甘さ控えめのシロップと生クリーム。
口いっぱいに広がるほどよい甘みがとてつもない幸福感を味わわせる。
飲み込んだあとも余韻が残り、それを感じながら出た言葉がこれだ。
「美味しい。」
「だろう?」
薄っぺらい感想だが、ルベールは心なしか満足そうだ。
これをルベールが…と思うとギャップに少し笑ってしまいそうになるが、下手なお店より断然美味しい。
これはハマる…ともう一口食べてみる。
くどくならない上に、テーブルには味変のジャムも置いてある。
多幸感に包まれながら、神との食事をリラックスして楽しんだ。




