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最終章 プラチナ

膨太からのプロポーズをうけた、ゆきは一晩考えて

膨太の奥さんになる事を決める。


初めて体を結んだ膨太とゆきは優しく愛し合うのであった。


一方、空は癌になり、自分は死んだと手紙を書いて

膨太とゆきに渡して欲しいと弟の星に託す。



      最終章  プラチナ



数日が経ち、ゆきは熱っぽさが続いていた


 膨太「風邪じゃないのか」

 ゆき「少し休んでもいいかな?」

 その日辺りからゆきは毎日吐いていた〝もしして…〟ゆきは胸騒ぎがした


 膨太「何かおかしいぞ、明日病院に行こう?」

 ゆき「うん、病院行くから明日私、店休むね」

翌日ゆきは病院へ向かった、内科ではなく、産婦人科へ。


 〝おめでとうございます、妊娠していますよ〟と看護師から写真を渡され、自分のお腹に小さな命が見えた。〝可愛い〟ゆきは写真をカバンにしまい家へ帰った


 膨太「どうだった?ちゃんと薬飲んで寝ろよ?」

 ゆき「うん、そうするね」

膨太に妊娠した事をゆきは言えなかった〝もしかして…空の子…〟ゆきのつわりは日に日に酷くなった

 膨太「薬飲んでるのか?別の病院に行ってみよう」

 ゆき「大丈夫だよ」

 膨太「そうは見えないから行くぞ」

 ゆき「大丈夫!」とゆきは貧血で足がふらついた、ゆきは思わずお腹手をあてた

 膨太「ゆき…もしかして、妊娠したの?赤ちゃんいるのか?」

ゆきは何もいえずうつむき、小さくうなずいた


 膨太「やったぁー!」とゆきを抱きしめた

 膨太「どうして言わなかったんだ?俺がいらないと言うと思ったか?そうだ、早く婚姻届出さなきゃな!」とゆきのお腹に優しく手をあてた


 ゆき「そうじゃないの、そうじゃなくて…膨太の子か、空の子か分からないの」


膨太は目を瞑り上を見ておおきなため息をついた


 膨太「俺の子に決まってるだろ」

 ゆき「でも、もし…」

 膨太「俺の子だから、空の子でも俺の子だから」

ゆきは赤ちゃんの写真を膨太に見せた

 膨太「何かよく分からないけど、こっちが頭でこっちがお尻か?この二つはいつくっつくんだ?」

 ゆき「二つとも頭だと思う、…双子だって…」

 膨太「最高、最高じゃん!」と大笑いして喜んだ。


 ゆきと膨太は婚姻届を出し、二人は夫婦になった。ゆきは幼い頃からの夢であった結婚式を北海道で挙げた、雪のような真っ白なドレスを着て

 膨太「世界一男前の奥さんは宇宙一綺麗だ」

 ゆき「ありがとう」

二人の結婚を、ゆきの両親を初め、春ちゃん、拓眞、かつての職場の人たち、彩乃もみんな二人を祝福した。

柔らかでキラキラ光る雪のような眩しさで幸せいっぱいな式だった。



 プラチナで二人は夫婦としてパン屋を営む柔らかな時間は幸せそのものだった、ゆきのお腹は二人分と言う事もあり、みるみるうちに大きく膨らんでいった。ゆきは毎日、家の近くの神社へ行き、無事に産まれてくれる事をを祈った、そしてもう一つ天国の空へ手を合わせていた。

 ゆきは定期検診の待合室の棚に置かれていた、臍帯血のパンフレットを手にした

〝臍帯血で助かる命〟ゆきは空の死をきっかけに臍帯血バンクに登録をした


 数ヶ月後ゆきのお腹はかなり大きくなっていた、そしていつものようにパンを作っているとゆきは〝じゅわぁ〝と暖かいお湯が足をつたうのを感じた

 ゆき「膨太、破水しちゃった」

 膨太「えっ、まだ予定日、一ヶ月も先だろ?」

 ゆき「あっ…凄い動いてる、この子達もう出たいみたい」

 膨太「出たいみたいって、とりあえず病院だな、電話か?荷物は?」と膨太は慌てた

 ゆき「痛い…あぁ痛いなぁ」

 膨太「わわわ分かった、すぐに行こう」


二人は車に乗り病院へ向かった。


ゆきの陣痛は二十時間を過ぎていた

膨太はソワソワしながらゆきの背中をさすったり手を握った、先生が病室へ来てゆきの様子を見た

「予定よりも早いですが大丈夫でしょう、分娩室にいきます、子宮口が七センチほど開きました、産まれますよ、お父さん」


 膨太「はははい」

ゆきはそのまま分娩室へ行く

北海道からゆきの両親も着て皆で赤ちゃんが産まれるのをドキドキしながら待った

すると「ぎゃーおぎゃぁ」と可愛らしい声が聞こえてきた、分娩室の前で膨太は思わず立ち尽くした

「お父さんとご家族の方はどうぞ」

助産師が生まれたての小さな赤ちゃんを膨太に抱かせた

「2400グラムの可愛い女の子ですよ」

膨太は初めて抱く我が子が力いっぱい泣く姿に、自然と涙がこぼれた、その瞬間分娩室は騒がしくなった

「畑中さん、畑中さんしっかり!」

助産師はゆきに呼びかけるがゆきは反応がない

「先生呼んできて、すぐに」

助産師はゆきの腹に乗りお腹を押していた、すると小さな声で

「おぎゃーおぎゃぁ」と泣くもう一人の赤ちゃんが産まれた、ゆきはそのまま気を失なった

 膨太「妻は大丈夫なんですか?」

助産師は笑顔で「大丈夫ですよ」と膨太の肩を叩いた

そして後から産まれた子は1540グラムの低体重の為すぐに保育器に入れられた、膨太は保育器の中の信じられないくらいに小さな我が子の手に静かに触れ、そっと話をかけた

 膨太「頑張ったな、お父さんが守ってやるからな」

保育器の中の小さな命は膨太の言葉に応えるかのように膨太の手をしっかりと握った、膨太の目には涙が溢れていた、とそんな膨太の背中をゆきが優しくさすった

 膨太「ゆき、大丈夫なのか?」

 ゆき「出産に疲れて気を失うなんて私かっこ悪いね…」

 膨太「点滴までつけて、まだ休んでないと」

 ゆき「早く赤ちゃんに会いたくて」

ゆきは初めて見るもう一人の我に子にしっかりとした生命の息吹を感じた

 膨太「俺の手をさっき握ったんだ」

 ゆき「可愛い女の子ね」

 膨太「名前決めた! しずく、畑中雫だ!」

 ゆき「しずく?」

 膨太「あぁ、暖かい陽に照らされた雪の雫の光のようにキラキラして見えないか」

 ゆき「雫ちゃんか、この小さな手もいつか手話で私とお話してくれるのね」

 膨太「もう一人の赤ちゃんもだ、名前は…」

 ゆき「小麦。もう一人の赤ちゃんの名前は、小麦、そう決めたの」

 膨太「パン屋の娘が小麦か、膨らむ太郎くらい単純だな」

 ゆき「さっき、小麦を抱いてお乳をあげた時、いい香りがしたの。それはまるで膨太と過ごしてる時に感じた香り、パンを作って笑ってる幸せな香りと同じに感じた、

柔らかな小麦に包まれてる時間。だから小麦」

 膨太「ゆき!ありがとう、こんなに可愛らしい娘を二人も産んでくれて、ありがとう。ゆき、よく頑張ったな、お疲れさま」とゆきの頭をなでた。



 ゆきが入院中、小麦も雫も何も異常は無く順調に育ってくれていた。

 ゆきが退院を控えた五日目の朝、ゆきは診察中に先生に深刻な顔で「お話があります」と言われ、小さく産まれた雫に何かあるのではないかと不安にかられた、ゆきは紙に〝赤ちゃんに何かありましたか?〟と書くと先生はゆっくりと話し出した。


先生「今回はお子さんの臍帯血の提供というかたちでいいのですね?」

 ゆき「この臍帯血で助かる命があるのなら、使って欲しいんです」と紙に書いた

 先生「分かりました、そこで…小麦ちゃんと雫ちゃんの血液型を調べたところ、

小麦ちゃんは、O型rhプラス、雫ちゃんはAB型rhマイナスでした。ゆきさんの血液型はA型rhプラス、膨太さんの血液型はO型rhプラスなので、AB型のお子さんは産まれません、少なくとも雫ちゃんは旦那さんの子ではないでしょう」

その言葉はゆきが最も恐れていた言葉だった

 ゆき「二人は双子なんですよ?」ゆきは震える手でペンを走らせた

 先生「性行為を排卵期に複数の方と性行為をした場合に、このようなケースで妊娠され、出産された例は世界でもあります、DNA鑑定をしますか?いずれ分かることです、旦那さまに相談されてはいかがですか?それと、雫ちゃんは大変珍しい血液型です、臍帯血は将来、雫ちゃんが病気をした時に保存しておきませんか?」

 ゆき「時間をくれません…か?」

 ゆきは全身の力がぬけ落ちた

 そのまま小麦をだき保育器からまだ出てない雫の所へ歩いた

ゆきは二人の我が子を見つめ、〝ごめんなさい、ごめんなさい〟と泣き続けた、その姿に看護婦たちは耳の聞こえないゆきに駆け寄り背中をさすってゆきを落ち着かせた、しばらくして仕事の合間をぬってきた膨太は小麦を抱き、小麦にメロメロになっていた、その横で抜け殻のような顔でゆきは自分の手を強く握りしめた

 ゆき「膨太…私達親子のDNA鑑定しよう」

 膨太「どうして?小麦と雫の足についてるピンクのタグの事か?」

 ゆき「えっ…」

 膨太「他の家族の赤ちゃんにはタグに血液型が書いてあるのに、うちの子達だけタグの裏に血液型が書いてあるもんな」

ゆきは全く気付いていなかった、思わず膨太が抱いていた小麦の足のタグの裏を見た

 ゆき「膨太…ごめんなさい…」

 膨太「何で謝るんだ?何型だとか関係ないだろ」

 ゆき「でも、私知りたいの…小麦も空の…」

 膨太「A型とAB型からは、O型は産まれないよ、ゆきが俺と空以外に、誰かとそういう事したなら別だけどな…」

 ゆき「それじゃ…小麦は膨太の子なのね…」ゆきは泣き出した

 膨太「雫も俺の子だ」

 ゆき「膨太…」

 膨太「初めて雫に触れた時、雫は俺の手をしっかりと握ったんだ、親子だなって思ったよ、幸せすぎて涙がでたんだぜ、いいか、ゆき、しっかりしろよ、小麦も雫も嫁にはやらない、もう、ゆきの事をかまってやれないかもな」と笑った

 嘘なに一つついてない膨太の言葉と表情にゆきは膨太に抱き泣いた

 膨太「お母さんの方が泣き虫ですねぇー」と膨太は小麦に話かけた

 ほどなく、ゆきと小麦は退院し、膨太とゆきは小麦と共に病院にいる雫に母乳を毎日届けた、やっと保育器から出た雫を膨太は愛おしそうに抱いた

 膨太「明日はうちに帰れるからなぁ、あと一日我慢してなぁ」と雫に話をかけた。


 ゆきは臍帯血を将来、雫の為に保存する事を決めた、お乳をいっぱい飲んだ小麦は膨太に抱かれあやされていた、ゆきは搾乳した母乳ではなく、雫に初めて自分の体から直接お乳をあげる事ができ涙が溢れた。

その姿に看護婦も微笑んで見ていた、するとその中にいた初めて見る看護婦がゆきに話をかけた

「良かったですね、私は今日から産婦人科に移動になってきました」

ゆきは笑顔で会釈をした、するとその看護婦は雫の足についているタグを見て

「AB型マイナスなの?珍しいわね、私、昨日まで血液内科にいたんです、そこにもAB型マイナスの患者さんがいて、なかなか出会う事が無いから驚いちゃった、ごめんなさい」

ゆきは笑顔で首を振った

ゆきは雫にお乳をあげてから雫を看護婦に渡した〝明日一緒に帰ろうね〟と心の中で話をかけた。

 ゆきは看護婦の言葉が何となく気にかかり、一人で血液内科に足を運ぶ、無菌室の〝ここからは出入り禁止〟と書かれた札の横に患者の名前が書かれていた、ゆきはそれを見て愕然とする、患者の名前は〝風波空〟と書かれていた、〝嘘でしょ…〟とそこへ星が来てゆきを見て驚く

 星「何で、ゆきさんが…」

ゆきは星の姿を見て、このガラス越しのカーテンの向こうには空が生きている。と理解した。

 星は何も言わず中に入り少しだけ中からカーテンを開けた、そこには病気と戦う変わり果てた空が横たわっていた、ゆきは両手で口をふさいだ〝空…〟ゆきは声にならぬ声で

「そら、しなないで」と泣崩れながら、その場を去った、泣きながら病院内をふらついていると膨太がゆきを見つけ、かけよった

 膨太「どうした、急にいなくなるから焦ったぞ、何泣いてる?雫の事まだ気にしてんのか? 雫も俺の子だって言っただろ?」

 ゆき「そうじゃないの…」

 膨太「うん?」

 ゆき「空が………」

 膨太「空がどうした?」

 ゆき「いるの…」

 膨太「うん??」

 ゆき「空が生きてるの、この病院に入院してる」

 膨太「…なわけないだろ」と困惑したゆきと膨太に向かって星が静かに歩いてきた

 星「すいませんでした、兄はまだ生きています、あの手紙は兄があえて膨太さんとゆきさんに宛てたものです」

 膨太「意味が分からないんだよな、空は生きてんのか?」

 星「生きてますが、抗がん剤も合わず、骨髄も見つからず…」

膨太は小麦をゆきに渡して半信半疑で血液内科へ行くと、ガラス越しに今にも息絶えそうに病気と戦う空の姿を見て膨太はガラスに拳をあて聞こえるはずもない空に話をした

 膨太「俺な、お父ちゃんになったんだ、可愛い女の子でさぁ、しかも双子なんだ…名前は雫と小麦って言うんだ……あぁあ、ふざけんなよ、そら、そら、空、2回もお前を死なせねぇ、必ず生きて元気になって一発ぶん殴らせろ」と泣きじゃくった。




 ー 一年後 ー


 雫と小麦はすくすくと元気に育っていた、プラチナでは赤ちゃんでも食べられるアレルギー対応の〝あかパン〟を出したり、人気のパン屋になっていた。

膨太とゆきは子育てをしながらパンを焼き家族四人、暖かく生活していた。

 そんな日常のある日、膨太は雫のある事に気が付く、小麦は名前を呼ぶと振り向くが雫は何度名前を呼んでも振り向かず、大きな物音にも反応してないようだった、雫は1歳児検診で聴覚がほぼない事が分かった、その日から膨太は雫に〝パ パ〟と分かりやすく唇を見せて話をかけたり、ほっぺたに唇をあて話しかけ、振動を伝えたりした。

 ゆきは雫に聴覚がないのは自分のせいだ、遺伝してしまったと落ち込んでいた、初めての出産に加え、双子の育児、鳴き声が聞こえない為、いつ何時も子供達に神経を向け、ゆきは軽度の産後鬱になっていた。

 膨太は泣いてばかりのゆきを優しく励まし、時に別人のように暴れて膨太にあたり散らしすゆきにも膨太は溢れる優しさと愛で家族を支え続けた、膨太は紛れもなく強く広い心の父であり夫であった。

 ゆきは膨太の支えのおかげで徐々に笑顔を取り戻し、耳の聞こえない母親が耳の聞こえない子を育てる事への不安を抱え、ゆきは小麦を膨太に預け、雫を連れて北海道の両親に会いに行った、ゆきは雫に聴覚が無い事を母に打ち明けた。

 ゆきの母は雫を抱き懐かしそうに見つめ

「雫はゆきにそっくりね、優しくていい子に育ってくれるわ」

その言葉と表情はかつて自分の子に聴覚がないと言われても我が子を愛し頑張って育てた〝母〟がいた、その姿を見たゆきは〝私はこの人の子、私の親〟なんだと安心した。

 ゆき「私、雫と散歩してくる」

ゆきは雫を抱き懐かしい町並みを歩いた。

 いつだって私は幸せだったのは愛されてたからだと、ゆきは家族という音に気付いた、膨太の顔ばかり思い出し歩いていると、ふと風波商店の前で足が止まった。

 風と共に走馬灯のように空との学生時代の思い出が蘇るゆき、流れる時間の中で風波商店だけは、あの日のままにたたずんでいた。誰もいないはずの商店のシャッターが開いた、ゆきは〝お爺ちゃん〟といるはずも無い姿を期待した、シャッターを開け商店から出てきたのはお爺ちゃんではなく、空だった

 ゆき「空…」

 空「ゆき…」二人は言葉を交わさずに、ただ立っていた

 ゆき「何…してるの?」

 空「この店売ろうか考えてたら、シャッター開けたくなって」

 ゆき「体調は?」

 空「元気だよ、誰かがくれた臍帯血のおかげで新しい人生をもらったよ、本当に感謝してる、大切に生きなきゃな」

 ゆき「あの…あのお仕事は…」

 空「星が俺を解放してくれた…星は産まれてからずっとこの世界で生きてきたからって、親父に空として生きたいって言ってくれたんだ、俺が星になれば元々関係のない世界の奴だからって、親父を説得してくれたんだ…だから二度と会わない約束で縁を切った」すると雫が泣き出した

 空「抱いてもいい?」

空は雫を抱き、血の繋がった娘とは知らずに雫をあやした、雫はすぐに泣き止んだ

 空「名前は?」

 ゆき「…雫」

 空「いい名前だなぁ、雫はゆきそっくりだな」

 ゆき「この子、耳が聞こえないの」

 空「そうか、ますますゆきに似てるんだなぁ」

娘とは知らずに雫を抱く空の姿にゆきは思った、〝貴方の娘で、貴方がお父さんよ〟壊れる思いだった。



 ゆきは東京に帰り北海道で空に会った事で話があると膨太に相談をした

 ゆき「雫を空に育ててもらいたい」

 膨太「…何言ってるんだ?ダメに決まってる、なんで自分の娘を他の奴に育ててもらわなきゃならないんだ?」

 ゆき「もしも…膨太が空の立場だったら?雫の立場だったら?」

 膨太「ゆきは北海道で暮らすか?小麦はどうする?空と一緒に…」

 ゆき「私は膨太を愛してる、私は膨太の奥さん、雫も小麦も愛してる」

 膨太「じゃあ、なんなんだよ…」と膨太は壁を殴った

 ゆき「子供は必ず大人になる、本当は違う人が父親だと分かった時に傷付くのは雫だと思う…そして本当の父親を知りたがると思う」

 膨太「言わなきゃいいだろ!雫をわざわざ母親のいない子にする事ないだろう」

 ゆき「成長して学校で血液型の事や授業で、小麦だけがお父さんの子だって分かる事になる、…どれだけ傷付くか…」

 膨太「絶対に俺が育てる、雫も小麦も俺の子だ、可愛い俺の娘なんだ」

 ゆき「分かってる、自分の子を母親のいない子にしてしまう事、姉妹を切り離してしまう事も、全部分かってる」

 膨太「だったら、何でだよ!」

膨太は家を飛び出し夜道をただ、ひたすら歩いた、歩いても歩いても今頃、家で雫と小麦が夜泣きをしてないか、おむつを濡らしてはいないか、考えるのは子供達の事ばかり、気がつけば家の回りをグルグルと歩いているだけだった。

その時、家から鳴き声が聞こえ膨太は急いで家に入ると雫が泣いていた、ゆきは鳴き声に気付かずに小麦と泣いている雫の横で眠っていた、膨太はゆきを起こさなぬよう、そっと雫を抱き上げた、膨太に抱かれた雫は安心したのか膨太の顔を見て笑った、膨太の顔は涙でいっぱいだった。

 膨太「雫?お父さんじゃダメか?」

膨太は雫を朝まで抱きしめ離さなかった、やがて朝日が昇り膨太は雫を見つめ決意をする…〝雫を空に会わせるか〟膨太は店を休みにした

 膨太「ゆき?雫と散歩にでかけるな」

 ゆき「分かった、気をつけてね」

膨太が雫を連れて北海道へ行く事をゆきは気付きながらも深くは聞かずに膨太と雫を送り出した。


 


 


  ここはいつだって静かで、ほのかに肌寒くて緑や黄色、透き通る水色、遠くを見れば白く、町並みは優しく佇む森には風が吹く。


 膨太は空に会いに風波商店を訪ねた

 膨太「おぉい、膨太だぞー」

空は外から聞こえてくる膨太の声に戸惑い、お驚きながら外へ出た

 空「膨太…どうして」

 膨太「いやぁさ、一発ぶん殴りにな」と空を一発ぶん殴った

 膨太「死んだって嘘ついたから。話があるんだ、空…」

膨太は雫が空の子である事、ゆきが雫を空に育てて欲しいと言ってる事を全て告げた、空は膨太に抱かれた雫を見て自分と血の繋がった娘だと知り涙が溢れた

 膨太「雫はな、ゆきにそっくりだ、美人で可愛くて泣き虫だ、血液型はABrh

マイナスだ」

 空「AB…rhマイナス…」

 膨太「娘を娘だと知って抱いてみるか?」

膨太は〝愛情〟それだけを思い、空に雫を手渡した

 空「膨太は…それでいいのか?」

 膨太「俺はこのままずっと、雫を俺の娘として育てたい…」

膨太は肩で息をする程泣いていた

 膨太「でも、俺の気持ちは俺の我がままで、雫の事考えてやれてないんじゃないかって…」

 空「雫の父親は膨太だよ…だけど、許されるなら、雫を育てたい」

 膨太「そう言うと思った、俺が空でもそう言うからな…まるでもう娘を嫁がせる気分だ…」



ー 数週間後 ー


 膨太とゆきは雫を空に渡しに北海道へ


 膨太「ゆき?ゆきの手から雫を渡してはいけない、母親が自分の子を決して離してはいけない、だから雫は俺の手から空に渡す」

そう言って膨太は雫と二人で空のもとへ向かった、ゆきは雫に雪の結晶のキーホルダーを持たせ、一度だけ頬に触れ娘の体温を感じてから手をそっと離し雫を送り出した。


 風波商店の前で別れと始まりが繋がる時間がきてしまった


 膨太「突然両親がいなくなったら一日中、夜通し泣き続けるだろう」

 雫のあやし方、好きな本、好きな食べ物、嫌いな食べ物…雫の事がびっしりと書かれたノートを空に渡した。

そして、膨太は押しつぶされる気持ちをこらえ、雫を空に渡す


 膨太「今日から、このおじちゃんが雫のお父さんだ」

膨太は空の肩に手をあて、二人は固くうなずいた。

膨太は最後に雫の頬を優しくそっと撫でて、今にも崩れて泣きそうで、雫を抱きしめたまま連れ去りたい気持ちを抑え、振り向かず歩いた。

その時、「ぱ、ぱ、」と雫が膨太を呼んだ…ずっと教えてた聞こえるはずもない言葉を、初めて雫は言葉にして声に出したのだ、何度も繰り返し「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ」と。

膨太は立ち止まり雫を見ようとしたが、手を力いっぱいに握りしめて歩いた、膨太は角を曲がってすぐに崩れ落ち、立ち上がれないほど泣いた

 膨太「ごめんな、ごめんな…俺は振り向いちゃいけないんだ…パパじゃないんだよ…もう、パパじゃ…」




 ー3年後ー


 東京。


 膨太とゆきは子育てに追われながらもプラチナパンでいつもと変わらず生活をし小麦はすっかり大きくなっていた

 小麦「お父さん?小麦が大きくなったらパン屋さんを継ぐの!パパ大好き」

 膨太「小麦が作るパン屋さんか、楽しみだな」

 ゆき「膨太?小麦?お母さんのお腹に赤ちゃんが来たよ」

 膨太「…やったぁぁぁ!」





 ー3年後ー


 北海道。


 雫はおとなしくて優しい女の子に成長していた、小さな手で話す姿は愛くるしさで溢れていた


 雫「パパ?お花どうぞ」」

 空「この花はスノードロップって言うんだ、雪のしずくって意味。

   花言葉は 初恋 」

 雫「雫ね、大きくなったらパパと結婚するの、雪のような真っ白なドレスを着るの」

 空「そうか、愛してるよ」


                            ー完ー


特別とはなんだろう


それは初恋なのかも、しれない。


最後までお読み頂いた、方々は私にとって

特別です。

本当にありがとうございました。

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