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3-1



 ノースウッド大国に居候して三ヵ月が経った頃、王城の人たちの態度が見るからに軟化した。今までは庭先で出会っても無視。食材をとりに厨房に行ったら、あからさまに嫌な顔をして渋々食料を渡してきた──のだが、今では挨拶はしてくれるし、食材も新鮮な肉などをくれるようになった。


 庭で育てている白亜大麦も順調なので、春先には収穫できる。この白亜大麦は冬の多い地域にしか育成できず、肥料が重要となってくる。

 良い肥料(貝殻)を手に入れるため海に行きたいと言い出した時は、リクハルド様が酷く嫌な顔をしていたものだ。


 現地で貝殻拾いをしつつ、漁師を集めて金平糖を使った漁を説明したら一蹴されたけれど、リクハルド様の説得(脅し)で対応して貰ったのも懐かしいわ。翌日に大量の魚を捕れたので少しは警戒心が溶けたけど、「よそ者は早く出て行け」と言われたっけ。


『恩を仇で返すのが、この国の作法だとは知らなかった』


 リクハルド様が庇ってくれたのは驚いたけれど、嬉しかった。思えばあの頃からリクハルド様は、何かと気遣ってくれることが多くなったような気がする。

 スキンシップも増えて、頭を撫でたり、髪に触れたり……あとは、抱き上げることもあったかも?

 思い返すと好かれているような気がしなくもないような?


『はあ? この時期に釣りだ? 今何時だと思っている?』と言いながらも付き合ってくれる。何だかんだお人好しなところがいい。


『……お前、まさかとは思うが寝間着はないのか? というか服は? なんで頼まない!? この大馬鹿が! スリーサイズなんて見ていたら分かるだろうが! いいか、この時期にそんな薄着でいるな。あ? 俺は良いんだよ』なんて過保護な一面もあったわ。


『これ、美味いな。天才か』って、一言が嬉しくて、次も美味しいものを作りたいと思わせてくれる。重い荷物を抱えていると、ぶっきらぼうだけれど『ほら、運んでやるから手を出せ』とか、『これでも飲んでろ。温まる』って、気遣ってくれる。


 一日、一日一緒に居る時間が心地よくて、楽しくて、心がウキウキしっぱなしだ。

『お前軽すぎないか? 鹿肉いや猪を狩ってくるから、よく食えよ』とか言って本当に猪を狩ってきた時は驚いたわ。


 私の髪に触れることも増えたし、『香油を変えたか? コレも嫌いじゃないが、いつものも悪くない』なんて甘い言葉なんて反則だと思うの。

 ……世話好きの親戚みたいな? いや過保護な兄的な?

 最初は不機嫌だったけれど、今は「まったくしょうがない奴だ」という兄風を吹かせてくることが多いのよね。そう思うようにして、その感情の名前を私は気付かないフリをした。



 ***



 ここ数日間、リクハルド様は姿を見せなかった。私の護衛や世話役が面倒になったのかとおもったけれど、それは違って──。


 カラン、と家の扉が開いたと思ったら、全身血塗れで、青い顔をしたリクハルド様と同僚と思われる同じ軍服を着た者が。数名なだれ込んできた。


「リクハルド様!?」


 一軒家の中が一瞬にして野戦病院と化した。

 魔物の瘴気と毒を浴びていて、通常の治療はできないから、と病棟から受け入れ拒否されたという。


「なんて理不尽なの!?」


 みな大柄で強面だが、乱暴者でも犯罪者でもないのに、なんて扱いなのかしら!


「重症者はシーツを引いて寝かせて、軽傷の人は暖炉の傍に順番に座って、動ける人はお湯を沸かして、あと奧に包帯を用意しているのでとってきて!」


 私の指示にみな従ってくれたし、キビキビと動いてくれた。副官と名乗った優男のダミアン様が手伝ってくれたからだろう。白銀の髪に、女性のような美しい顔立ちで、黒の騎士服がよく似合っている。


「キャロライン嬢、魔物の瘴気と毒ですが……」

「大丈夫。この冬の時期の魔物なら、冬の薬草を調合すれば回復します。ただ薬草の数が少ないので薬草採取の際に、同行してくれる方がいると助かるのだけれど」

「キャロライン嬢ではなければ薬草採取ができないから、ですか?」

「(この人、頭が良い)そう。判別が難しい薬草があるの。……我が儘を言っているかもしれないけれど、協力してください」


 頭を下げると、ダミアン様や周囲の騎士達は驚きの声を上げていた。よそ者を嫌うのは分かっているけれど、今は非常事態だもの。私の謝罪で何とか──。


「頭を上げてください。貴女が頭を下げる必要はありません。むしろ私たちを助けようとしてくださる方からの頼みなら、喜んで手伝わせて頂きます」

「俺たちにも手伝わせてくれ!」

「俺も手伝えるぞ!」

「俺も! 俺も!」


 この国に来て、初めて《冬森の賢者》の知識があって良かったと思った。

 日頃から蓄えていた綺麗なシーツと、薬草に漬けておいた包帯で応急処置を施した。三日三晩、めまぐるしく過ぎて行ったと思う。

 その時の記憶は曖昧で、ひたすら薬を調合して包帯を取り替えて、傷ついた人たちの料理を食べさせていた。


「……っ」


 眉間に皺を寄せながら、痛みに耐えているリクハルド様が少しでもゆっくり休めるように、冬の霊草ミスルトーを取りに行ったこともあった。

 きっとこの時にはもう、リクハルド様のことが好きだったのだと思う。「死なないで」という思いで、枯れ木に青々と茂る霊草を持ち帰った。


「キャロライン嬢、ボスの容態は?」

「(リクハルド様、ボスなんだ!)……はい、瘴気や毒も引いたので、あと数日休めば大丈夫です」

「よかった。ボスに死なれたら、俺たち野垂れ死にするしかないしな」

「ボスじゃなくて団長だと何度言えば……」

「(リクハルド様、団長なのね!?)……あ、あの今日は治療も一段落したので、白冬ジャガイモを使った料理と、シチューにする予定ですが、作るのを手伝って貰えませんか?」


 ここ数日は非常食と温かなお茶などで凌いでいたが、そろそろ栄養のあるものを食べたほうがいいと思って提案してみた。重症者以外の騎士さんたちは快諾。

 その日は賑やかで、笑い声の絶えない時間となった。


 リクハルド様の容態が落ち着いたので、硬いシーツから彼の部屋のベッドに運んで貰った。包帯を取り替える際に、井戸水で湯を沸かしたものに、殺菌作用のあるハーブを浸けつつ、タオルで体を拭く。


 これは医療行為。これは医療行為……。

 やましい気持ちは、ちょっとしかないです!

 それでなくとも悩殺できそうなほどの色香を纏ったリクハルド様の裸となると、直視できそうにない。特に上半身の胸板は引き締まっていて、いくつもの傷痕が残っている。古いものにも瘴気が残っていたので、丁寧に体を拭いてから薬を塗って包帯を巻いた。


 いつも眉間に皺を寄せているのって、もしかして魔物の瘴気や毒の痛みに耐えていた?

 そう思って手当も終わった頃、気付けばベッド傍の椅子に座って眠ってしまった。離れがたくて、手を握ったまま少しでも長く一緒にいたいと思ってしまったのだ。


 途中で寒くて目が覚めたような気がしたけれど、次の瞬間には凍えた体がとても大きな何かに包まれて──心地よくなった。まるで大きな獣に包まれているよう。安心するし、好きな匂い。モフモフはしないけれど、温かいわ。


「このまま繋ぎ止められるなら──お前の全部を奪ってしまおうか」


 低く少し掠れていたけれど、色っぽい声にドキリとする。夢の中でその台詞は狡い。ああ、やっぱり、私はリクハルド様が好きなのだわ。そう自覚すると世界が一気に華やいだ。


 翌日、私は自室のベッドに寝かされていて、リクハルド様は起き上がれるほど回復していた。

 そして真っ先に叱られたのだ。


「怪我をした俺もあれだが、お前ちゃんと休んでいないだろう! 髪もこんなくしゃくしゃで!」

「ごめんなさい。お母様」

「誰が、オカアサマだ」

「じゃあ、兄様?」

「お前、わざとか」


 意味が分からず小首をかしげると「ああ、もう良い」と言って、今度は私のお世話をし出した。

 薬の調合は体力と根気そして集中力。私はこの作業が結構好きだったので、苦でも何でもなかった。それに薬を作っていれば、少なからず国に貢献していると安易に考えていたから。リクハルド様にポロッと口にしたら「そんなことする必要ない」と一蹴した。こっちはポンコツ聖女だから、できることを頑張っているのに。腹が立ったけれど、そっぽを向いたリクハルド様に言及する気になれずうやむやに。


 リクハルド様はそれ以降、私が無理をしないように、声を掛けることや食事や息抜きのお茶を用意することが増えた。


「ほら、少し休め。薬草が足りないのなら取ってきてやる」

「でも似たような薬草があるから、自分で見ないと」


 そう話せば、両手を広げて「なら現場まで足になってやる」と抱き上げて運ぶようになる。抱き上げられる時は心臓の音がうるさくて、リクハルド様に気付かれていないか冷や汗ものだったわ。


 勘違いしない。

 彼は任務で私と一緒にいるだけ。「好きだ」なんて告げたら任務に支障をきたすだろうし、ウザがられるし、そんなつもりはないって言われるわ。「ちょっと役に立ったからって調子に乗るな」って返事が容易に想像できる。できてしまう。

 でもほんの少しだけ自惚れてもいいのなら、リクハルド様の眼差しが柔らかくなったと思う。恋愛感情はない、友人のような存在ぐらいは許されるだろうか。

 ああ、でも春が来ればこの関係は終わる。

 終わってしまう。

 こんなに春が来ないでほしいと思ったのは初めてかも。



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