白昼霧
いつも見ていた
お気に入りの桜が
切られて切り株になってしまった。
多分、一番の古木だったのかも。
しょうがないな。
最後なんて、
ちょっと、
おどろおどろしいホラー感さえ漂っていて、
命を燃やして咲いている感じ。
ものすごい、おじいさんが
普段は車椅子だけど
ハアハアいいながら杖ついて
目的の場所に向かって執念で歩くイメージが近い。
「キレイ!」
なんて
気安く言える感じではなかった。
私が
この桜を気に入ったのは
中学生の頃。
美術部という名の
帰宅部に入っていた私。
先生と生徒の
とりあえず学校がやれと言ってるから
やったことにして一刻も早く家に帰ろう!
という目的も合致していて、
かなり、
居心地良き部活動となっていた。
そんなある日、
学校側が実態を知ってしまったのか、
他の部員によるタレこみがあったのか、
学校側の引き締めが強くなる。
なるべく穏便にすませたい平和主義な美術部。
方向性が平行線な人と関わりたくない。
その一心から、全員とりあえず従う。
時間までいる事になる。
漫画読んだり絵を描いたり。
学校側のスパイらしき人(先生)が来たら、
漫画に紙を乗せて、なぞり書きのフリをする。
先生も「どう?」なんて顧問感をだした演技をしたりしてストレスフルな日々を送っていた。
そんなある日、
先生が先にねをあげる。
「桜がキレイだから観察にいきましょう」
桜を見に行くと本当に綺麗だった。
1本だけ
異様に綺麗な桜が奥にあって
私は見とれていた。
気付くと
皆、遠くに行って遊んでいる。
しばらく見ていると、
一人の女の子が話しかけてきた。
透き通る真っ白な肌に、
薄い色をしたサラサラの長い髪の毛、
シンプルだけど整った凄くキレイな顔をしていた。
年は私より上の学年だと
すぐにわかった。
来る時いなかったけど、
美術部ですか?と聞いたら、
後から来たと話した。
ちなみに美術部は幽霊部員だらけ。
なるほどね。と疑問はわかず。
その謎の先輩は
「見て!」
と言うと小石を桜に向かって投げた。
大きく横に広がった
満開の桜の花びらが
ピンクの雪を降らせたように
風に舞い上がった。
ものすごい量の花びらに
私と先輩は、
石を投げる度に、
その桜吹雪の中に入って
一緒に笑いながら、
ひたすらクルクルとまわっていた。
ちょっと狂気な光景。
途中に先輩のクラスを聞こうとしたら気位が高いのか無言で睨まれた。あまり聞ける雰囲気ではなかった。私が調子にのって馴れ馴れしくすると空気がピリとした。なんか、キツくてちょっと嫌だなと感じた。
そして、気が付くと日が落ち始め
雲ひとつない綺麗な青空が
夕焼け色に変わっている事に気が付いた。
先生の呼ぶ声。
先輩はいなくなっていた。
他の人に聞いても誰も知らなかった。
ちょっと不思議な人だったから、
荷物なかったし直帰かな?と
この間までは思っていた。
その後も
あの桜吹雪が忘れられなくて、
毎年見に行くのに、
あんなにキレイな
桜吹雪には出会えなかった。
先輩にも会えなかった。
桜も謎の先輩も、
あれが最初で最後だった。
上の子にも桜吹雪が見せたくて、
毎年、しつこく連れて行っていた。
石を投げる話もしていた。
のに見せられなかった。
私は、とんだ嘘つきみたいになったまま、
桜は切り株になってしまった。
切り株を見た夜。
不思議な夢を見た。
自分の足の薬指の爪のわきに、
茶色の枝のような物がでていた。
よく巻き爪になっちゃうようなところ。
あらあら、遊んでたから枝が入ってしまったのかな?と指で取ろうと引っ張ると
ズルっ
「えっ?!」
枝が長く繋がっている。
いや、枝じゃない。
桜のつぼみの先端と枝だった。
怖いと思いながら
大変だとひっぱる。
桜のつぼみがついた
小枝がでてきた。
まだ、繋がっていると
どんどん引っ張ると
私の足の中が空っぽで
枝がそこに続き
引っ張っていたのが
いつしか、枝が上に向かって伸び始め、
気がづくと足先以外が
土の中に、
土に埋もれている。
体を見ようとして目が覚めた。
起きると
私の足の爪には、うっすら黒い線ができていた。
当時は、
メラノーマのせいで悪夢をみたに違いない!
体の不思議!
と慌てて皮膚科に行くと問題ないと言われた。
※メラノーマ 皮膚のガン
しつこい私は3軒の皮膚科に行った。
全て問題なし。
体の不思議ではなかった。
かもしれない。