暴力
もう一人の
小学生の娘に
鼻をかむように言った
娘は体感異常なのか
めったに鼻をかまない
今日はかんでくれた
とほっとした私は
片っぽずつかむんだよ
と声をかけてしまった
緊張が足りなかった。
娘は激怒し
ティッシュを床と私に投げつけ
お前がひろえ!
と私を足蹴りしながら
怒鳴りだした。
さらに
「お前死ねよ」
と私を蹴ってきた。
一瞬、落ちついたかと
思うと今度は
私の二の腕の内側両方を
ものすごい力でつねってきた。
息が止まるような痛さだった。
取っ組み合いになってしまった。
なんとか
蹴るのをやめさせて
座らせることができた。
床にあぐらをかいた娘は、
「恨んでやる」
充血した目に涙をため
下からすくいあげるような目
ギリギリと歯を食いしばりながら、
「バカにしやがって、
何様だと思ってるんだ
許さないからな」
としきりにがなる。
昔、TVかなんかで見たことがある。
人が恨んでいる時に
下からすくいあげるような目を
するらしい。
本当に恨んでいるんだな
と冷静になりながら
何年か前にはじめて
夫が私にしたのと
同じ顔だなと思い出した。
夫が携帯を手に様子を見にきたのが、
廊下に見えた。
私から隠れているようだった。
はじめてだった。
しばらくして
やや落ちつくと
部屋に入ってきた。
娘を一人にするように
私は夫とリビングに戻った。
引き剥がしてくれて
有難く感じた。
でも酷い癇癪が始まってから
すでに5年も経っていた。
何できてくれたのだろうか?
と疑問がわく。
私の腕や体には、
無数のアザとみみず腫れが
できていた。
正気になろうと
皿を洗いはじめた私。
夫は、
何事もなかったかのように
自分がやられたかのような
困った顔をしたあと
すぅっと昼寝をはじめた。
真新しいアザがある腕に
赤くなった手形のようなミミズ腫れに
娘の苦悩をみたようで
こんな小さな子に
こんなものを
背負わせてしまった。
私は何をしているんだろう
ぎゅっと抱きしめてやればよかった
何をしているんだ。
この騒ぎが聞こえないかのように一人遊ぶ下の子。
異常だという事がわからなくなってしまった、
下の子。
私は、このまま
この子の側にいていいのだろうか?
私だから合わないのかもしれない。
もう一緒に住まないほうがよいのかもしれない。
私は自分のした選択の責任を。
子供達に対して責任を取らなくてはいけない。
流れた水の量に比例しない
なかなか洗い終わらない皿たち
懺悔と疑問が押し寄せる
スヤスヤ
眠る夫の顔を見ると
喉の奥がギュウとなった。
ギュウとなるたび
水をゴクンと飲んだ。
ああ、
この人は自分が困らせられた事に困ったんだ。
本当の意味で
今、あった出来事が何であったかとか、
色々な複雑な感情や意味を含んでいる事、
それ自体が分からないのだろう。
説明しても分かる事はなく。
今までどおり、
一般的で無難で模範的な無感情な
態度や反応をするのだろう。
そして、なんで悲しんでいるのだろう?
何で自分は分からないんだろうか、
変なのかなと悲しむか、
逆に一般的ではない事を言うな、
困らせるな変なヤツだと怒るかの
どちらかに違いなく。
言えない。
言う意味がない。
言う事自体がこの人には酷な事なんだ。
私は酷い事をする事になってしまう。
きっと、この人も娘と同じ様に苦しんでいる。
夫の子供時代を想像した。
可哀想だと思った。
私は、どうしたらよいのだろうか。
何度も何度も何度も何度も
沢山の水を飲み込んだ。
そして
いつものように落ちついた。
急に遊びに行くと言う娘。
私は娘に
ごめんね。
とギュッと抱きしめることしか出来なかった。
そして
さっきまでの出来事がなかったかのように
懸命に明るく振る舞う娘が
ゲーム機をとって〜と夫に甘える。
娘なりに苦しんでいる。
とまた喉がギュウとなった。
夫はチッと舌打ちをして、
歯を食いしばり口角を下げ
まるで「お前がやれよ。」というような、
凄く迷惑をかけられたような、
表情を私に見せた後にゲーム機を娘に渡した。
言わなくてよかった。
娘にこの顔が見えなくてよかった。
また水をゴクンと飲んだ。