表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白昼夢  作者: ダリー
ドリームタイム
51/54

白朝夢

最近、また朝に不思議な夢をみる。

なんて白々(しらじら)しい、朝に見る夢。

忘れないうちに。


火の中に蛾が飛び込む

いっきに燃え上がり

ヒラヒラと、まるで火の蝶みたいに一瞬だけ舞う。

花火のようでもある。

でも、その形は曖昧。

蝶だと思うのは

最初からそれを眺めていた私だけなのかもしれない。

ただの大きな灰が一瞬舞い上がっただけにも見える。

自分でも予想しなかったタイミングに、

うまく羽が広げきれないままに、いびつに燃えあがる。

羽の変わりに炎が扇子のように広がり、長い袖をヒラヒラさせて蝶が舞うように踊る。

体だけがポトリと落ちる。

それは体とは言えないのかもしれない。

焼けのこってしまった黒い小さな(かたまり)

きれいな羽は風ですすとなり跡形(あとかた)もない。

体だけが、ただの(ほこり)や土みたいに汚く(あと)を残す。


「さっ、やんだらその(すき)に帰りましょうか。」


と立ち上がった。

なのに

雨のカーテンは、答えるみたいに、ますます、濃い色のカーテンになる。


横に置いてあったものを見たのか背を向けた。

後ろから背の高い何かが、(おお)(かぶ)さるみたいに強く包みこんできた。



常盤(ときわ)

永遠の松 変わらない鮮やかな葉」



そう聞こえた。


(十六夜(いざよい)の月)


思ったのか。

言ったのか。


()は火の中に月があると思って、

月に行けると思って飛び込んだのでしょうね。」



体を右にまわしながら、

何も知らずに火に飛び込んでいく蛾が頭をきょらいする。


相手の事など何一つ考えていない。

自分の事すら考えていない。

考える事を止めた。

かわりに、ただ舞い踊る蝶らしき火の粉が頭に浮かぶ。


心臓の鼓動(こどう)を聞きたくて胸に耳をあてた。

紙のように張り感のある服が分厚くて(はば)む。

聞こえないかわりに、リズミカルな振動だけが指先に聞こえてきた。手をペタっと当てた。

反対の手の平を自分の心臓の音にあてた。

目を(つぶ)り、人間が奏でる声以外の心地よい自然の音を聴く。

早鐘の音が次第に和音になり、小さく遠くゆっくりになっていく。

音の数が減って、かすかな途切れ途切れな音になるまで音を手の平から聴いた。


目が覚めた。

意味がわからない言葉だけを忘れないうちに調べる。


常盤(ときわ):永久不変な岩。

転じて永久不変なものの例えにつかわれる。

冬も緑色で枯れない常緑樹の松などとあわせる。

常盤なる松など。


十六夜(いざよい)の月:満月の次の日の月。

前日よりも少し遅れた時間に出るところがためらいながら、出てくるようであるというふうに見立てられる。

音は、躊躇(ちゅうちょ)、ためらい、の動詞「いざよう」からきたらしい。


不思議な夢だった。

白々(しらじら)しい、朝に見る夢。


母に死の影がいつかくる事を実感しながら、

白々しい夢をみる私を名前すら忘れてしまった

昔の文豪が言ったかもしれない言葉が慰める。


あなたの死を前に、あなた以外の事を考えるくらい強くなってもいいですか。


たまたま通りかかった親切な今の文豪が見かねたのか枯葉に毛布をそっとかける。

毛布を頭まで被り包みこんだら安心した。

不安だったんだ。

と気がついた。


また落ちつかない。

落ちつけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ