表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白昼夢  作者: ダリー
戦闘能力を増やす
46/54

カメレオンは弟子になった

4月

私は外語スクールで働きだした。

甘く見ていた。


リーダーの女性がめちゃくちゃ仕事ができる人だった。

オーナーの助手に近い感じだった。

さながら兄弟子。


大学の時の外資系企業でバリバリ働く友人に雰囲気が似ていた。

小さなスクールなのに実力が凄く。

噂を聞いたのか立地なのか、

通常のスクールの子供達にプラスして有名人や医師やエリートサラリーマンまできていた。

きっと彼女とオーナーの責任感が創り出したもの。

もちろん、先生達も一流だった。

プロそのもの。

チェーンにはない細かいフォロー。


またまた一流の中に、出来損ないのカメレオンの私。

英語でつまづく。


大学の友達が台湾からの留学生で時々英語で話をしていた。

たまに、彼女の台湾の友達が日本に来たときも混ぜてもらって英語で話をしていた。


少しわかるかも。

いや、いけます!

とオーナーと面接で話した。

今思えばヤバイ。

うそ。


多分オーナーはわかっていたと思う。

何故なら、まあ、ここは教室だし、皆先生だから。

と最後に言っていた。

やる気採用。


全然、いけなかった。

必要な言葉が違いすぎた。


実際にはそんな風には言わないよ。

が凄く多い。

しかも、電話で話さないといけない事も多い。

さらに、なんと先輩。事情を聞いたのか、超絶スパルタ。

兄弟子による可愛がり。

見せてくれと言っても、自分で調べないと身につかないからといって、一切、話してる様子を見せてくれない。

学ぶは真似ぶじゃダメですか。

と聞いたら怒られる。

得意のカメレオン作戦が効かない。

全く言い回しが盗めない。

忙しすぎて、話しているところが見られない。

レッスンを受ける時間なんてない。

加えて、当時は、今ほど当たり前じゃなかった、パソコン作業がそこに追加されてくる。


小さい子の時間は、そのお世話でワーワーとあっという間に過ぎていく。

つぎは油断すると、受付の中まで入ってきちゃう思春期反抗期の中学生の対応。

ずっと、しゃべっている。

懐いてくれて凄く可愛いけど作業ができない。

さらには、やたら、机を消毒したがる強面の先生。イギリス人なのに、たまにヤンキーみたいになっちゃう先生。

やたらと、おにぎりの具の言い方や調理法を知りたがるアメリカの青年。

何も手伝わない動かない何かの勉強を穏やかにしている美人の同期。そして、何故か彼女の日は何も起こらない。ミステリアス同期。

すご腕で優しいけどクセ強先生とお仲間。

愛すべき素敵すぎるメンツ。

できるわけがない。

あまりにも遠回り。


想像してもらいたい。

今みたいにインスタもYOUTUBEもネットもない時代。


本と辞書しかサンプルがない。

音声サンプルが少ない。

しかも、本もピッタリな業界のものはない。


クタクタで、本屋に頻繁に行く余裕もなかった。

本じゃニュアンスもわからない。

業務用語を覚えるにしても、聞かせてもらえない。

とにかく、それっぽい事を言って、直してもらって一つずつ覚えていくしかなかった。

でも先生達が本当にあったかくて忙しくてプリプリしていても、絶対に直してくれたり、あとから教えてくれた。


一般人は義務教育を信じるしかないんですけど。

無駄な時間を、過ごさせないでほしい。


上手くいかないたびに、心の中で何回も

義務教育に対してクレームをいれた。

わかってはいたけど、入試や学校で1番をとる事の無意味さ、中庸(ちゅうよう)が1番という何かの教えをぼんやり噛み締める毎日だった。


そんな中、歳の近いエリートサラリーマンの男性が見かねたのか声をかけてくれた。

それから、レッスン前の待ち時間に

こうしたら?や

大きな企業だとパソコンは今このぐらい進んでいるから活用するべきで勉強した方がよいなど、広くアドバイスをくれるようになった。

英語も最低限だいたい必要な文章がわかってきたから、そこから、パソコンも勉強するようになった。


たまに企業の研修など営業的なものも入ってきた。学生時代の営業と洋服屋のノルマでみっちりテクニック的なものは教え込まれていたし、教室のスペック的にも自信があったり、相手のニーズにもあったため簡単に契約はとれた。

多分、唯一の役に立てる部分だった。

営業や接客は、本当に経験しておいてよかったし、教えてくれた方に感謝しかない。


相変わらず、先輩は英語は教えてくれない。

でも、私が生きていく上で必要な事を凄く的確に、変なまわりくどい言い方はしないでハッキリと話してくれた。

多分、日本人にはない感覚。

今の状況をうまくまわす事より、今後の私を考えてくれた。

それが私には凄く新鮮で、初めて接する外国の考え方ができる大人な人だった。

そして、彼女をはじめ、先生も生徒さんも、みんながいつも何かを楽しそうに勉強をしていた。


仕事だから言うべき事は歳上だろうが、偉かろうが、円滑にするためにはハッキリと言う。

そのせいか、日本人の先生は面食らっていた。

そして、現実をシビアにみていた。


一番、強烈だったのは、


世の中には、はっきりと言って言うことを聞いてもらえる人と、いくら正しい事を言っても話を聞いてもらえない人が存在していて。

ダリーさんの場合は、後者になりやすい。

相手がつついてくる。話が通らないなどになる。

相手は人を見て態度を変えてくる。

ようは舐められる。見た目や声や目線などがあるかもしれない。

だから、ダリーさんなりに伝わる方法を考えたほうがいい。

私のやり方はあわない。

だから真似する必要はないのか!と

そこで、はじめて、真意が分かった。


思いあたる節がありすぎた。

これは未だに治せてないし、どうしたらいいかの答えもでていない。

でも、私のモヤモヤをはっきり口にして、理解してくれる人がいる事自体が凄く嬉しかった。

その場を取り繕うだけの言葉は欲しくなかった。

そのアドバイスは、私にとって、すごく、的確だった。私がもう一カ国語いきたい。と無謀な事を言った時も先輩だけは笑わないで、いや、いけるかもしれない。実際、そういう人もいるし。と私より真剣に考えてくれた。

今も言ってくれた時の事を昨日のように思いだす。


ちなみにオーナーは大雑把に見えるようで、あまり、生徒さんの父兄には印象が良くなかった。

オーナーに苦情めいた事を言う人までいた。

じつは、いつも、相手の立場や一人一人のその後をきめ細かく考えていた。印象が悪かった父兄のお子さんの事も、凄く考えていた。


私の事もよく考えてくれた。

言いづらい事も言ってくれた。

私は昔から、なんだか言葉使いが丁寧すぎだった。

ようは丁度良い感じに崩すのがなんだか面倒で、馴れ馴れしく思われたくないのもあって、誰に対しても、とりあえず丁寧な話し方をしていた。

ひっくり返すと、誰に対しても適当だったのだと思う。


ある日、オーナーが


ダリーさん、あなた言葉使いは、丁寧で綺麗だわ。

企業の方も褒めていたわ。

だけどね、使いわけないと慇懃(いんぎん)無礼(ぶれい)という言葉があるのだけど、いわゆる嫌みに聞こえてしまう。


恋人と別れるときに、

tired of you.「あなたに飽きた(疲れた)」

ていうのよ。

疲れさせてしまう。

上手くやりなさい。


と言われた。

その通りだと思った。

オーナーは厳しい事でも、褒めるような前置きをしたり例えたり。

今、目の前で話している相手が理解できるように。

その人に合わせた伝え方や気配りができる繊細なお母さんみたいな人。


私に、

あなた!カメレオンみたいな人ね!

と言ったのもオーナーだった。

私の特技を見つけた事を嬉しそうにキラキラした目で言ってくれた。

そういう人。


でも、なぜか、何も知らないのに、ちょっとバカにする人もいて、嫌だなと思っていた。

あの大ざっぱな振る舞いは、きめ細かい配慮に比重がいっているからなのにな。

振る舞い方だけで判断する人って思っているよりも多いなと感じた。

オーナーはこういう人達と戦ってきたのだなと、そのバイタリティに圧倒された。

でも、今ならこういう人達も何も見えてないからで言ったら分かってくれるはずで。

だれかが間に1人入って

嫌な気持ちにさせてすみません、そう見えますよね。ちゃんと考えてますよ!集中してるからあんなですけど。

と言ってくれる人が、いれば皆凄くパッピーだっただろうなと自分の力量不足を感じる。

その後も2人からの的確なアドバイスは続いた。


私生活では、その間に私のジェンダーの偏見から勘違いをさせてしまって、悲しい思いをさせてしまったり。とか仕事以外でも色々やらかしてしまったけど、仕事には大分なれて2年が経っていた。


ある日エリートサラリーマンが、やっぱり、もうちょっと規模の大きなところで働く経験もした方がいいんじゃない?と小さな声で言ってきた。

私も薄々勘づいていた。

考えてる事は一緒だったと思う。

パソコンが代わりにできる仕事が多い。


せめてもの誠意で正直に話をした。

もっと規模が大きなところも経験してみたい。

まだ、まだ、ヒヨッコの私を分かっているオーナーは、まだまだ、勉強する事があるんじゃないか。

と言って予想外の難色を示した。

もしくは、言い方が変で真意が伝わらなかったのか。

少し怒っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ