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白昼夢  作者: ダリー
待合室
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待合室

都会から遠く離れたところにある病院

ここは、都会から離れていてどんなに急いでも2時間以上かかる。

移動が苦手な私もさすがにスムーズに来られるようになった。

慣れた手つきで受付と採血をすませていく。

はじめの頃は心配した姉夫婦がいつもついて来てくれた。

今も、ついてこようとしてくれる。

仕事を休みレンタカーまでしようとしてしまう。

だから、今はわざと適当ににごしている。

いつも、事後報告だから軽く心配される。

私は恵まれている。

家で結果を心配して待つ母もいる。


待合室で一人結果をまつ。

子供が小さなときは、ベビーカーできていた。

いつも悲しかった。

再発を恐れ悲しかったわけではない。

心配をしてくれる人間が親族以外にはいないという事が寂しく悲しかった。

自分のどうしようもなさを突きつけられているようだった。


クタクタになり家につくと、いつもどおりに夕飯を作ったり、家を一日中あける事でできなかったルーチンをこなす。


夕飯。

夫は何も聞いてこない。

いつも、気を使っているから、私が話すまで聞かないのかなと淡い思いを抱きながら。

自分から話す事を辞めてみた。

朝に話したはずだけど。

微かな期待。

あまり話さない夫が少し嬉しそうに言った。


最近、中学の時の友達にさ、会社帰りにやたら会うんだよ!

なかなか、ないよな!

と嬉しそう。

友達が好きな人だから嬉しいんだな。

単純に滅多に見られない夫の嬉しそうな表情が凄く嬉しかった。

同じ時間でそんな場所ってさ、たしかに珍しいよね!よかったね!

そうだよな!

と珍しく会話がはずむ。


気がつくと寝る時間になっていた。


たまたま、面白い出来事があったから。

忘れちゃたのかもな。

仕事してると大事な事が飛ぶ事あるよね。


何と言わないまま。

一年が経ち、また、私は待合室で1人待っていた。

まだ生きていていいのか、答えを待っていた。

本当はどうしようもなく不安で寂しくて。

見渡すと一人は私だけだった。

露骨に見てくるお年寄りもいた。

そんな時は、いつも、何かに負けないように気にしていない素振りをしながら、あえて真っ直ぐ前をみて堂々と歩き、自信がある人のフリをする。

フリをする。

自信なんてあるわけがない。

自分の存在を気にする人なんて、いないんだから。


高いから普段はいかないスターバックスが院内にあった。

そのコーヒーだけを楽しみにカフェに来たような気持ちでやり過ごす。

なんて寂しい時間。自分を騙して馬鹿みたいだ。


帰ってから走って子供を迎えに行った。

夕飯、何も聞かれなかった。

もういつも通り。

いなかった事すら気がついていない。


その次の時も、

行くよ。

と言った日も何もなかった。


次の検査の結果よりも孤独な待ち時間が

自分で自分を追い詰めるような

耐えがたい時間だった。


彼は優しくしてくれる友人も沢山。

私は心配する人もいない。

きっと、だから、彼のやっている事は、普通なんだろう。

私が過敏になっているだけなんだろう。


ある日、たまたまついていたドラマをみながら皿を洗っていた。

話がどんなだかも分からないドラマ。

子供がいる主婦で、あえて夫に言わずに、死に至る病気の検査結果を病院の待合室で一人待つというシーン。

暗い絶望感漂うものだった。

たしか、それを知った夫役が、

次回は俺も行くから教えてくれ

と妻役に言う。

妻はこういう時も1人で行くような人だ。

という夫役の心の声がナレーションされた。


ああ、私の感覚が普通だったのか。

もはや、自分の事なのに、それすら自分で判断する事ができなくなっていた。

常に彼が望むように多数派を意識して生きるようになっていた。

いつも、

友達の彼女ならやるらしいよ。誰々さんも言ってるよ!

私がやりたいという事が許可される事はなかった。


そして、夫がやたら偶然会うと言っていたお友達は、自分の事を肉食女子だからと名乗り、彼の大好きな皆から印象がよいタイプの女性だった。

彼が私もよく知る先輩と飲みに行くようになっていた。

私はクタクタだったけど夫も疲れてるだろうと、服まで買って送り出していた。

何故か彼女のフェイスブックには、夫が先輩と行ったお店と同じ店の写真が載せられていた。

後日、先輩に家に来てもらったら、人のいいその先輩は気まずそうなはれない顔をずっとしていた。そして、故意に話さないようにしているのを感じた。

そういう事なのかな。

と思ったけど疲れ過ぎていて、これ以上は何も出来なくなってしまった。


逆にもっと、目立たないように変な事をしないように息を殺して、嫌がらせをされている会社に馴染めないのは自分が変だから。

身なりがだらしないからかも。

と対策を講じていると、夫にキモいと言われる。


今思えば、思考回路が狂いはじめていた。

私には、それを指摘してくれる人間なんて1人もいなかった。

こんなやつに、関わりたいと思う人間はいなかった。


この頃、言われた事をすぐ忘れてしまうようになる。

階段を登るだけで息が切れ、頻繁な耳鳴りとめまい。


あまりにひどく、夫に言ってみた。


更年期じゃないか?

うちのお母さんも、あんた更年期じゃないか?て

年とってるから。って言ってたよ。


私にとっては、夫だけが唯一の自分と関わろうとしてくれた存在だった。

病院に行った。笑われた。

万一があるかもと検査してもらったら問題はなかった。

さらに笑われた。

お医者さんにまで、バカにされて笑われた。

そうですよね。

と私は馬鹿みたいにヘラヘラ笑った。



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