銭形警部
川のそばにいた。
ただ、いつくるか分からない死を聞く日を待っていたくない。
こんな必要とされない命でも無駄にしたくない。
湿気で白んだ空気に花火がキラキラしていた。
1年たった。
モネの展覧会。
行きたいな。
子供にも見せてあげたい。
でも、一人でじっくり見たい気持ちもある。
子供は自分から行くようになってからでも。
と頭をよぎる。
いつまた日本で見られるか分からない作品もあるかも。
やっぱり、行けたら子供も連れて行こう。
来年もやるだろうな。
いつからか、ここから先を考えるのをやめるようになった。
来年の行きたい場所をつくる事は怖い事でしかなかった。
もし、また急に目前に死をぶら下げられたら。
未来の予定は、その時の生きる糧にはならない。
残された者にとっては、ただの絶望感や悲しみの材料にしかならない。
そして、子供の友達のお母さんに子育ての考え方について驚かれる事が多い。
それは、多分、大人になってから、それしか考えていないから。
いつも、成人した後を想像しながら接している。
今どんなに模範的でも、優等生でも、言う事を聞かなくても、癇癪を起こしても、そんな事はどうでもいい。
私がいなくなった場合に、一人で立てる強さや柔軟さや優しさを良心を手にいれるための材料になりそうなら受けいれる。
お雛祭り、クリスマス、節分、お正月、誕生日、子供の日、ハロウィン
それらをしまう時に、毎回、子供への手紙をコッソリ一緒に入れていた。
いつから、それをしなくなった。
子供達は大丈夫。
強く育てたつもり。
命がけで育ててきた。
口は上手くないから沢山の事を見せてきた。
これからも。
見せていきたい。
多分、戦争は近々なくなる。
だれから見ても無駄だから。
非合理的だから。
今まで残っていた事が不思議なくらい。
戦争だからということで処理できてしまう概念が今まさに変わる時なのだと思う。
今起こっている事は、戦争ではなく、何者かによる殺人事件。犯罪にすぎない。
銭形警部のインターポールが出るべき犯罪。
人種や国境なんて、もはやないのだから。
インターポールみたいな共有システム的なものではなくて、しっかりとした倫理に沿った実際に動く警察組織がそろそろ必要だと思う。
実行犯達も被害者。
恐喝により、人殺しをさせられ、心に回復し難い深い深い傷を負わされた被害者。
洗濯板が洗濯機
釜が電気釜
電話が携帯
テレビがyoutubeやiPadに
目も見えない赤ちゃんが
2年で歩き、3年で話し、4年でジャンプして、5年でトイレに自分からいき会話ができるように、
変わったのだから同じことだと思う。
あの日がなかったかのように。
10月国境なき医師団の医師がまた亡くなった。
「最後まで生き残った人が、何があったかを伝えてください。私たちは自分にできることをした」
「私たちを忘れないで」
優秀なドクターがまた戦地で亡くなった。
最後まで運び出せない患者と一緒にいた。
ホワイトボードに書かれた殴りがきのような遺言。
「私達を忘れないで」
私には、
「私達が命がけで守った良心を次世代まで繋げて。良心を忘れないで」
と書いているように感じた。
もし、私の読みが当たって、こういう悲しい事がなくなり、最後なら、いつ消えるか分からない私が行くべきだとも思った。
子供がいるのに?そう思う人もいるかもしれない。
ヌジャイラさんには3人の子供がいた。
サハールさんは結婚する予定だった。
2人は1か月も家族に会えないまま亡くなった。
最後の言葉も一個人ではなく。
世の中が素晴らしいものになるようなメッセージを選んだ。
子供がいないから、とかお父さんだから、お母さんだからとかではない。
亡くなったのは、誰かの大切な人。
同じ地球に住む人間。
勘違いなのか
私が高額な募金をする姿を見て夫は言っていた。
「どうせ、誰かのおこづかいになる」
綺麗事が嫌いで現実をシビアに見る夫の鋭い指摘だと思う。
頭がいいのだと思う。
こういう賢さがなかった私に、夫は、一度引いてみる知識をくれた。
宗教やっているわけじゃないけど。
神様が合わせてくれた人なんだなと思う。
その時は、
「もしかしたら、そうかもしれないけど、
少しでも役に立つならいいじゃないか、渡さなかったら1銭もいかないんだよ?!誰かが大変な思いをして代わりにやってくれてるよ」
と言っていた。
ただ、実際に調べて分かったのは戦地に行けるのは優秀な人だけ。
一人で乗り越え自分の身を守り人を助ける事ができる圧倒的な知識量・判断力・体力・行動力が必要になる。
尚且つ、現地へは自腹でいく。
こんな人達が戦地にいる。
どんなに今から努力しても、私なんかが容易く代われるものではない。
丁度、ユニセフから電話がきた。
お金しかできない、しかも、こんなに少し。
そんな私にありがとうと繰り返し言う。
お金しかできなくてごめんなさいと謝る私。
私にできる事は何か。
きっと何かある。少しでもないよりはいいはず。
「なんで、私達を見て見ないふりをするの?!なんで助けてくれないの?!」
泣きながらパニックになりながら必死に訴える女の子
飛行機の音にパッと不安に満たされた表情をしながら、しきりに母を探す幼児。
マザーテレサ
百人の人のことを考えて立ち止まるより目の前にいる人を救いなさい。
だけど、私は、今、目の前に映し出された人を救いたい。
自分の子供すら幸せにできないくせに。
昔から汚い仕事や歯車のような人が嫌がる仕事が嫌じゃなかったし引き受けてきた。
働き初めてしまえば上を目指すだけ。
人には、それぞれ、生まれ持った役割があるんじゃないかと思う。
だから今みたいに孤独になりやすかったのかもしれない。
私の居場所はそういう所なのかもしれない。
私なりのやり方を早く考えなくちゃ。
なのに進めない。
また一つ好きな事が、嫌いな事になってしまった。
できるようになった事ができない事になってしまった。
悲しい気持ち。
嫌な思い出や嫌な気持ちになるものは、捨てていくといい。
目に入らなければよい。
また、一つ捨てないと。
もう、あの気持ちには戻らないと目に入る嫌な思い出を沢山の物を能力を捨ててきた。
なんだろう。
気がついた。
突然現れたあの人がまるでスーパーマンみたいに、
一つずつ、嫌いになってしまった事を好きな事に戻していく。
一つずつ、前よりも綺麗で美しいものに変えていく。
根気強く強く変えていく。
変える事ができるなんて思わなかった。
嬉しくて毎日、綺麗なものを眺めていた。
傷が癒えていく。
たとえ、それが仮のものでも。
戦地にいる子達にも本物の同じ気持ちを経験させてあげたい。
私の経験した感情豊かな悲しい経験すら、この子達は糧にできるだろう。
私はもう充分。
他の人の分まで貰うわけにはいかない。
この人の生まれもった役割は、きっと、こういう事。
キラキラした場所を輝かせ続ける。
綺麗な場所で色んな人を迎える。
ふと、でも、こんなに変えて大丈夫なのだろうか。
心配になってきた。
もらってばっかりだと気がついた。
私は、いつも、もらうばかり。
きっとヘトヘトに疲れてしまっている。
ごめんなさい。
心配なのに何もできない。
私には権利、能力すらない。
何かを言える立場にもいない。
そしてまた。
昨晩、私に初めてできたママ友の話をしていた。
話の途中に、いきなり夫に「で、嫌われたんだあ」
と言われた。
針が刺さる。
好きだった相手が、
今までも、私を傷つけるために言っていたなんて。
その事実が私を苦しめる。
急に泣きたい気持ちに襲われるようになった。
外に出られなくなった。
とにかく体が重い。
用意ができない。
ただ音楽を聞いている。
気をとり直そうと、また、やり始めたSNS。
昔、知人から紹介してもらったサックス奏者のJAZライブが知人の家の近くであるのがわかった。
「久々に誘ってみようかな。」
と夫に言う。
「どうせ、断られるよ。LINEも無視かもね。」
吐き捨てた。
怖くてLINEができなくなった。
今までも、何人の友達と連絡を撮らなくなっただろうか。
最近露骨になってきた。
それか気付くようになっただけなのか。
一日中針がつきささる。
まるで痛みで私が言葉を吐くのを期待するかのように。
朝、夫が早く起きてきた。
私の背後にくる。
散々針を刺したのに。
何なんだろうか。怒りと悲しさが込み上げる。
さっと避けるように逃げる私。
何度も避けていると、
背後から抱きつかれ逃げられなくなった。
前なら、そのまま言いなりだった。
すっとでてきた。
傷つけないように冗談ぽく
「性処理の道具にしないで。」
図星だったよう。
普通怒るか悲しむところだろう。
話し合いもない。
やめて、普段通りになった。
また傷が広がる。思い出す。
辛い。
早くこれがない所にいきたい。
2文字がでそうだった。
私には、今、夫が高校生くらいの男の子にしか見えない。
その子が、知的問題のある母を世話しながら、学校にくる様子を想像してしまう。
そして、私は、この男の子を大切にしなくてはいけない。
でも、子供の顔も浮かぶ。
この男の子は罪を犯した。
その代償がないと子供達は幸せには、なれないだろう。
今2文字を言うのは子供達に対して、あまりにも無責任だと思った。
そして、この男の子が私の訴えを理解してくれることはない。
変になったのは私のせいだと言わんばかりの態度。
私と同じような人が沢山いる。
やっと自由になったのに体と心はボロボロで。
過労死みたい。
すべなく、ひっそり死んでいくお母さんを何人もみおくった。
いま、ここは針のムシロで。
暗くて。
大切な子供がいるのに。
守らないといけないのに。
スヤスヤ眠る子供。
可愛い、大切なものなのに。
この子達を守れるのは私しかいないのに。
体が動かない。
動けない。
前みたいに笑いかけてあげられない。
頭が回らないし、
大切なもの達が、
言葉をはけばはくだけ、
どんどん離れていってしまう。
私が吐き出した言葉は傷つけてしまう。
ムシロからでたら、夫に言うべき言葉を言葉がわかる子供にぶつけてしまうかもしれない。
針のむしろの中で、がんじがらめになって身動きが取れなくなってしまった。




