両方が若葉マーク
結婚式の後。
二人で暮らしはじめた。
なぜだか。、ずっと雨ばかりだった。
慣れない家。
陸の孤島と言われる場所。
街灯もほとんどない。
バスにすら慣れていない私。
自転車もない。
本当に孤島。
私はパート先で新店舗ができ、立ち上げのお手伝いで遠方に移動することになった。
働きっぱなし。
さらに慣れない家事に毎日クタクタだった。
結婚式で貯蓄は底をつきかけていた。
体力に自信なんて、なかったけど働く事は楽しかったし、やめられなかった。
彼も同窓会だなんだと昔の友達と忙しくしていて
週末は二日酔いで終わっていた。
憧れの新婚生活からは掛け離れていた。
私は、ゆっくりご飯とかしながら、くだらないお話をしたりしたかったけど、してもらえる事はなかった。
かわりに誰々の奥さんの実家がお金持ちで、毎週旅行に行っている。
誰誰さんは、正社員だったから出産後もお金がもらえる。
同級生の〇〇さんは、どこで働いているんだってさ!
会社の人は奥さんの実家がお金持ちだから、色々とお金をだしてくれるらしい。
という私にはない条件をもつ誰かの話をされる毎日。
普通の楽しい話をしてくれる事はなかった。
悪い気がして、ますます、シフトを増やす私。
朝晩の食事づくりに、お弁当のおまけつき。
節約で洗濯にお風呂の残り湯を使っていた。
お風呂から洗濯機までが遠かった。
毎日一人バケツリレー。
彼は楽しくTVを見ている。
終わりかけに大丈夫かあ?と聞くと
変わるよ。とカッコよく2杯。
「・・・・ありがとう。」
そしてある日
足元に水が落ちていて、思いっきり転ぶ。
腰から落ちてしまった。
見ていた彼、大丈夫か?今のすごかったよ。
と。
大丈夫じゃない。
なぜか立てない。
シフトで病院にはいけなかった。
それに、尾てい骨骨折に似ていた。
同じなら、出来ることないし、
そのうち治るだろうと、
いつもどおりに、生活し続けていた。
その後、彼から腰について聞かれることはなかった。
腰が曲がったまま働く私を見ていた
察しのよい既婚者の男性社員が話かけてきた。
おばあちゃんみたいになってるよ。
結婚したばっかりだよね。
大丈夫?家事とかさ、慣れてないから
大変なんじゃない?
と心配してくれた。
男性だから気にならないのかと思っていた。
違うんだな。と初めて気がついた。
奥さんは良い人と結婚したね。
きっと素敵な人なんだろうな。とか考えながら、
余裕です!と
おばあちゃん風に言ってみた。
いつもの休憩室。
前は、家で休憩したいな。
と居心地悪く思っていたのに。
いまは、ここが一番快適に感じる。
温かいし。座っていられるし。
まわりの話も他愛無い。
しばらく間があいたら離婚しよう。
お互いに傷の浅いうちに。
変な女と結婚しちゃったね。で終わるだろう。
そう考えていた。
クリスマス。
クリスマスが好きな私。
張り切って虚しい、飾りに、ワインに、ケーキに、豪華な食事達。
テンションが通常モードの彼。
クリスマスだしねと義務感。
たった1回。
あっさり妊娠した。
ツワリが酷くてすぐに妊娠もわかった。
検査ができる期間の前にはわかっていた。
完全に異物として、体が私に知らせている。
まともに食事すらとれていなかった。
胃も空っぽで胃液すら出なくて血を吐いた。
歩いて5分のスーパーでさえ着いたらトイレに直行だった。
ずっと布団で寝られなくてリビングで寝ていた。
雨の日は、外で、何かのジリジリという電子音がしていた。
そんな音が、聞こえるくらいの静けさ。
彼は今日も同窓会。
一緒に住むようになってから毎週のようにいない。
12時になったのに帰ってこない。
電話したら、まだ飲んでるから、朝帰る。
後から楽しそうな声。
「彼女さん?」「子供できたんだよ」「えー!結婚してたの?早く帰ってあげなくていいの?」という女の人や男の人の話す声。
「帰ってあげなよー!」
どこか嬉しそうな女の人の声。
何回目だろう。
慣れない。
無意味に静かなこの家。
歩く人の声もしない。
足音も。
気持ち悪い。
今、何かあったら私一人で病院にいくのか。
119だっけ?110だっけ?
そもそも、救急車呼んでもいいのかな?
ずっと運転をしていなかった。
一人では、運転をした事がなかった。
いつも、飲みに行くとすぐ寝る人だから。
迎えに行ってみるか?
という軽い気持ちだった。
野暮な邪魔はしたくないタイプだから、
なんで、そんな事したのか、わからないけど。
車に乗っていた。
意外にもすんなり目黒通り。
ゆっくり、進んだ。
多分、大迷惑。
雨が酷くなってきた。
とろとろと運転していく。
ところが、雨が尋常じゃない降り方になってきてしまった。
ワイパーが全くきかない。
道路が川。
運転がうまい下手の話ではなくなってしまった。
慌ててはじに寄せた。
視界が悪い。
ぶつかられたらどうしよう。
あかちゃん。
これは、マズイ。
慌てて、あの人に電話をした。
「そっか、大変だし迎えに来なくていいよ。
大丈夫。じゃあね。」
うしろで、笑う声と。
だれかに何か言って忙しそうなあの人。
帰りたいけど。
帰れないんだよ。
自分のせいなんだけどさ。
面倒くさいものを、
角を立てずに追っ払うかのように。
まるで、どうでもよい見ず知らずの人に絡まれたみたいな。
わかっていたけど、
急に、とてつもなく悲しくなった。
しばらくすると雨が弱くなった。
やけくそ気味に、迎えに行った。
酔っ払いを乗せて帰った。
雨は嘘みたいに上がっていた。
チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、
静まりかえるリビング。
時計の針の音だけがなっていた。
まるでお腹の赤ちゃんが大きくなっていく音みたいだった。
誰もなでてくれないお腹をなでて。
初めて話しかけてみた。
涙がでた。




