お受験とタライ
皆めちゃくちゃ勉強をしている。
モードが完全に変わっていて引く。
自分の偏差値すら知らなかった私は、模試を申し込んだ。
結果は散々だった。
とりあえず、仲がよかったBLを愛する友達が通っている塾に行く事にした。
そこはマニアックな塾で、雑居ビルの一室で、
パチスロが好きそうなおじさんがやっていた。
生徒は8人だけ。
しかも、授業中は隣の消費者金融の取立ての電話の声を聞きながら。
たまに、先生の話を聞いていたつもりが
いつのまにか途中から頭の中が借金の理由に同情する店員の話にすり替わってて、先生の話は全く聞こえてなくって、ヤバイと思ったら、先生を含め皆、消費者金融の電話を聞いていたり。
ゆるくてよかった。
そのおじさん先生は何者なのか分からないけど、教えるのがとにかくうまく。
来ている子達も、どうやら、遠方からわざわざ来ていることがわかった。
しかも、皆、異常なお金持ち。
確かに、私の友達も、一緒にデパートに行くときは、まず特別なフロアに行ってから付き添いの人がくっついてくるスタイルだった。
そして大量のBLマンガを買っていた。
なんか、特殊な階級な人達に有名な塾だったのだろうか。
今でもよく分からない。
ミステリアスすぎる。
おじさん先生は、テスト向けの勉強方法を知らなかった私に勉強の方法を教えてくれた。
ある程度なれたら、自走できるようになり塾をやめた。
50だった偏差値は、なんとか一部だけ70超えになった。
一部だけ。
ある日、幼馴染の文武両道なパーフェクト女子に廊下で話しかけられる。
国語がいくら頑張っても上手くいかない。
上がらない。今回もできたと思ったのに。
と珍しく落ちこんで、なぜか私に不安を吐露してきた。
確か一年生の時にも、男子に嫌な事言ってくるやつがいるから困っている。と相談されて。
で、その男子どうやら、パーフェクト女子と仲良くなりたかったらしく。
私の登場でパニックになったのか、
グレーのスチールの四角い大きなゴミ箱を横にして高く持ち上げると一応女子の私の頭の上に思いっきり振り下ろしてきた。
コントのタライみたいな音がした。
とか思いだしつつ。
一回痛い目にあってるくせに
パーフェクト女子に頼られ、また、ちょっと気分をよくした男子中学生みたいな私。
「私も今回はよく分からなかったよ!!
ぜんぜん!」
無責任にも、口からでまかせを言って励ましていた。
そこに、ウキウキの昭和初期オヤジ先生の登場!
「おい!ダリー!テスト凄いじゃん!よくできてた!難しいとこもできてたし!どうした?!」
「そう!!!一部だけ!!できたんですよ!」
うまくいった!そう思ったのに。
「はっ?何言ってんだ?98点だったぞ。」
空気を読まない昭和初期オヤジ先生がとどめの一発をお見舞いしていなくなった。
パーフェクト女子無言。
何故だか一緒に帰る。
いつもの庭園。
ここで、バイバイ。
のはずが。
「先生、98点って言ってたよ。ダリー出来なかったって言ってたじゃん。」
「先生、勘違いしてるんじゃない?」
と嘘に嘘を重ねた
その時
ガツ!
オデコに硬い何かが当たった。
当たったところが、ジンワリ暖かくなっていく。
パーフェクト女子は
硬いものが入ったバックを持って、
バイバイも言わずに走って行った。
たんこぶができた。
ちょっとだけ、血もでた。
けど、別の場所が一番痛かった。
また、いらん嘘をついてしまった。
タライより痛いわ。
BL女子に借りた最終話まである5冊セットのBL漫画。
読んだけど10ページが限界だった。
落ちだけ読んで、さっさと少年漫画に戻った。
読んだよ。と嘘を言って返した。
BL女子は、BL読みすぎだからか、何を思ったのか昭和初期オヤジ先生と私をくっつけようと日々励んでいた。
廊下で3人で話をしている時に、私のうなじのホクロがいいとか気持ちが悪い事を言って、オヤジ先生を間接的に誘惑しようと攻めていた。
鈍いオヤジ先生は「はあ?ホクロ?はあ?」となっていた。私も、攻め所がないから今度はパーツで攻めてきたな。
とBL女子の奇想天外な発言を楽しみに見まもっていた。
ある日の夏。
BL女子が行くプールは某都心老舗ホテルのプール。二人でプカプカ浮かんで遊んでいた。
飽きた私達は溺れさせあう。という遊びを始めた。
こんなプールは中学生がくるプールじゃない。
ボーイ的な人がオシャレな感じに注意してきた。
確か
レディなんだから、レディらしく。
みたいな感じ。
そんなレディ達は、大人しくプールサイドでBLの話といかにしてイケてない女子中学生が鈍い昭和初期オヤジ先生を落とすのかのゲスい話をする事にした。
女を意識させるために、髪おろしてみたらどうかな?いや、風紀指導の担当だから結べって注意されるだけじゃない?じゃ、派手な下着を着て、水に透けさせてみたら?もうすぐ冬で水をどうやってかぶるの?先生がきたら、水道でワザと指でせんして、ああ!みたいな感じか、牛乳を自分にぶっかけるとか?他の人に露出狂だと思われるし臭い。ゲラゲラ笑いながら、そんなくだらない話を何時間もしていた。
ちなみに、二人とも、もちろん本気で落とす気などさらさらない。好きでもなかった。
多分、イケてる子達は彼氏ができたり、別れたりあったのだと思われる。
私達は、死ぬほど、ご縁がなかった。
そんな感じで緊張感なく中学生最後の夏が終わった。
変な時期にフランスから転校生がきた。
めちゃくちゃ面白い子で一気に仲良くなった。
受験生なのに、覚えにくい英語をフランス語ぽくして笑わせてくれたり。自分がイジメにあった時に返り討ちにした話とか、とにかく面白かった。
そして、とても、しっかりしていた。
受験した学校も何故だか同じで、
試験中に後の席にいた彼女から、消しゴムに笑ってしまうような事を書いたメモがはさまれたものが、何回も渡された。
バレたら相当大変な事になるな。
と感じたが面白さに抗えず。
私も負けじと咳払いをさそう事を書いて後の席に置いた。
とにかく、狂っていて面白かった。
受験は別に志もなく、ど真ん中で家から適度に近い無難な学校に入った。
ちなみに、先生は、絶対に私は受からないからと必至に止めてきた。
私は大丈夫大丈夫!と静止を振り切って受験していた。
なんで、こんなに自信があったのかというと。
模試の結果は学校経由で返されるから。
パーフェクト女子対策の一貫で、完全に分かる一部はマークしないで答案を提出していた。
結局、転校生と私は一緒の高校に行った。
BL女子は、9月に海外の学校に行く事になった。
親友は別の高校に。
熱情の彼女は誰もが知っている学校に。
そんな進路が決まった時。
ピンポン!
私と姉と父親みたいな会社のおじさんの3人でいた。母が仕事で遅くなるから子守できてくれていた。
私がドアを開けた。
小さな頃から、ずっと泊まりあいっこをしていた
彼が立っていた。
彼のお母さんもシングルマザーで幼い頃はよく一緒にいた。
いわゆる幼馴染。
小さな頃の写真は彼が沢山写っていた。
彼は凄くひょうきんで、私もお調子もので、当時流行っていたTV番組の俺たちひょうきん族のたけちゃんマンの真似を二人でしまくっていた。
すこぶる明るい性格だった。
私は、見た目の雰囲気の違いに気付きながらも2年ぶりの再会のほうがとにかく嬉しくて
「どうしたの!?カラオケぶり!元気?音楽まだ好きなの?なんかジャンル変えた?
あっそうだ!○○(私を男だと思っていたイカつい幼馴染)に、ダリーにばーか!って伝言しとけって言ったでしょ!!」
とまだ何も言ってない彼に矢継ぎ早に質問をした。
いつもの元気がない。
見た事がない表情だった。
おかしい。
気がつくと、おじさんが後ろに立っていた。
彼は小さい時に遊んでもらった事があった。
彼の顔が一瞬ゆるんだ。
あ、おじさんがいてよかった!
なんか作ってくれた夕飯、変だったし最近酒びたりで面倒くさいけど。
いてよかった!
そう思った。
おじさんは、私を守るように、動作で私を自分の後にさげた。
奥の部屋に入ってなさい。と言われた。
彼に何が起こってしまったのかは分からないけれど、彼のトラブルを解決してくれるのだろうと安心した。
おじさんは、とにかく凄く頭のキレる人だった。
毎日会社に出入りしていた私はその事をよく知っていた。
安心したのも束の間だった。
ばたん。
割とすぐ、静かに彼は帰った。
意味がわからなかった。
しばらくすると入れ替わりで母が帰ってきた。
私が彼がきたことを母にいうと、おじさんと母が話しだした。
「なんで、帰したのよっ!!」
あまり、感情的にならない母が声を荒げ怒って泣いていた。はじめてみた。
「何かあったら、お互いの子供を助ける。って約束をしてたのよ。だから、あの子はそれだけを頼りにきたのに。見た目があんなでも子供なのに」
しょんぼりした、おじさんも出て行った。
本質を捉えるのが得意なはずの、おじさんらしくない行動だった。
その後、母が色々と電話を忙しくしていた。
彼と連絡がとれたようだった。
幼馴染の私が何か聞いてはいけない気がして事情は聞かなかった。
ただ一つ、私が分かっているのは。
役所は彼を見た目で判断した。
本当に助けのいる子供を切り捨てた。
知ったかぶりの身勝手な懲罰的行為で無実の子供を冷たくあしらい逆に傷つけた。
大人が何も知らない子供を。
助けを得る時。
信頼を得るように振る舞わなくてはいけない。
服装も。
それができる人間に、助けはいらない。




