落ちる砂、霧の紅
「底面にキレイな石があるんだ。欲しいな」
その言葉を聞いて、
一緒に見たいのかな?と
今度は、蓮の底なし沼に
自ら飛びこんだ私。
泥の中に見つけたキレイな一つの石
「なんだこれだけか、もっとないの?」
「泥水だから、これくらいしか取れないよ」
「欲しかったのに、泳ぐの得意そうだったのに、
嘘ついたの?たったこれだけ?ひどい!」
その人は、石が沢山ないと不安になってしまうみたいだった。
申し訳なくなった私は、それから毎日、泥を拭って、できるだけキレイにして、
遠くのほうにいるその人に、泥がつかないように
石が見えるようにほうり投げていた。
最近、通るようになった、
鼻歌を歌いながら歩く人が今日も、通りがかった。
今日も、転んだ人を助けている。
その歌声が綺麗で。
ヘリにしがみつきながら、
沼に浮かぶ、ゆらゆらと揺れる月を眺めながら、
のんびりと聞いていた。
私に気がついた、その優しい人は、
泥が手につくのも気にしないで、
陸に上がれるくらいまで、
私を引き上げてくれた。
「ゆっくりで、大丈夫だから、
無理しないで家まで帰りなさい。」
私の手に握られたキレイな石達をみて
「ちゃんと、見つけてこられたのだから大丈夫。疲れてたら、無理しないで休んでから行きなさい。その方が早く着くから、石が沢山あるから大丈夫。」
と言ってくれた。
私は
「ありがとう」
と心からのお礼を言うと、
いつもみたいにヘラヘラ笑いながら、
その人を見送った。
そして、鼻歌が聞こえなくなると、私は沼に戻った。
また石を探し始めた。
散々、もがいたせいか、
足は痩せ細り、沼の中を移動するためだけの足になり、もう、とっくに歩く事ができなくなっていた。
肺に入った砂は抜けないだろう。
自分でもわかっていた。
そして、陸に上がろうとは、
そもそも思わなくなっていた。
ただ、この沼に落ちてしまった、
キラキラ光るこのキレイな沢山の石たちを、
一つ残らず全部拾いあげたい。
泥水を飲んで歩けなくなってもよいから、
キラキラの石でいっぱいの陸を見たいし
色んな人に見せたいな。
そう思っていた。
陸の人に見つからないように、
誤って泥をつけてしまわないように、
キラキラ光る石だけを、
見つけてもらえるように。
今日もせっせと石を拾う。
また太陽がのぼり紅い霧。
砂が落ちていく。