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雪ちゃんの大冒険

作者: 入沙界南兎

 在る所に真っ白な子猫のぬいぐるみが居ました。

 ぬいぐるみは雪のように真っ白だったので雪ちゃんと名前を付けられました。

 名前を付けてくれたお母さんは猫がとても好きでしたが、ペット禁止のアパートで暮らしていたので猫が飼えなかったのです。

 ある時、おもちゃ屋で雪ちゃんを見つけ、それはたいそう気に入って雪ちゃんを買って帰ったそうです。

 お母さんは雪ちゃんをとても大切にしてくれ、本当の子供もにするように毎日、毎日、抱きしめながらいろいろな話をしてくらたのです。

 雪ちゃんはお母さんのお話を聞くのが大好きでした。

 いつかお母さんとお話をしたいなと思うようになりました。

 そしてある日、雪ちゃんは動けるようになったのです。




「わっ、凄い。ボク、動けるぞ」

 雪ちゃんはゆっくりと立ち上がるとよろけながら一歩、また一歩と歩きます。

 最初はうまくいきませんでしたが、歩く内にだんだん上手になり、ついには部屋を一周歩いて回れるようになりました。

「やった、部屋を一周したぞ。エッヘン」

 雪ちゃんは自慢するように両手を腰に当てます。

「おや、何の音だ?」

 雪ちゃんは変な音が聞こえたので音の方に耳を動かします。

「大変だ、遅刻、遅刻」

 小さな女の子の声が聞こえてきました。

 音の方を見ると、金髪のふわふわの頭にウサギの耳を付けた、青いエプロンドレスの女の子がポケットから出した懐中時計を見ながら走っている姿が見えました。

 その女の子は部屋の壁にある小さなドアを開けると、その中へ飛び込みます。

「あんな所にドアなんて在ったかな?」

 雪ちゃんは首を捻りながらドアに近寄り、中を覗きます。

 中には下に続く真っ暗な穴があるだけでした。

「えい!」

 いきなり後ろから押され、雪ちゃんは穴の中に転がり落ちました。

 落ちる瞬間、雪ちゃんが見たのはドアの中に消えた赤いエプロンドレスのあの女の子でした。

「いってらっしゃぁぁぁい」

 女の子は手を振って雪ちゃんを見送りました。





 雪ちゃんは暗い穴の中をゆっくりと落ちていきます。

 穴は本当に深く、かなり落ちたはずなのにまるで底が見えてきません。

「この穴、どこまで続いているんだろう」

 雪ちゃんは少し不安になってきました。

「あっ」

 下の方に小さな光の点を見つけました。

 光の点はどんどん大きくなり、ついには雪ちゃんを飲み込む程の大きさになりました。

 光の中を突き抜けると、下は青空です。

 雪ちゃんは青空に向かってどんどん落ちていきました。

 空に浮かんでいる雲を突き抜けて止まると、今度は地面に向かって落ち始めます。

 落ちるに従ってスピードが上がっていきます。

 

 ドンドン ドンドン


 下の方に広場があり、その広場に大勢の人が集まっているのが見えました。

 雪ちゃんはその広場に向かってもの凄い早さで落ちていきます。

 もう広場の地面に当たると思い、雪ちゃんが目をつぶると下から風が吹いてきて雪ちゃんの身体からだをふわっと持ち上げると広場にゆっくりと着地させてくれました。





「おおっ」

 広場にいた人たちが一斉に拍手しました。

 雪ちゃんは照れながら、改めて周りを見回します。

 周りにいる人たちはお母さんと同じ人間ではありませんでした。

 背中の羽て飛んでいる人、お花の顔にお花のドレスを着た人、二本足で歩く木の人など様々です。

「妖精の国にようこそ」

 背中に羽の生えた小さな人が雪ちゃんに声をかけてきました。

「妖精の国?」

「そうよ、ここは妖精だけが入れる妖精の国なの」

「妖精だけが入れる国?」

「そう、妖精だけが入れる国」

 (だったらボクは何故ここに入れたんだろう?)

 雪ちゃんは不思議に思いました。

「あなたがここに入れたのは、あなたが妖精になったからよ」

 まるで雪ちゃんの心を読んだかのように小さな妖精は説明してくれました。

「ぼ、ボクが妖精に」

 雪ちゃんは驚きました、だって、急に妖精になったなんて言われても信じられません。

「でもぬいぐるみなのに歩けるし、お話も出来るでしょ?」

 言われてみれば確かにそうです。

「誰かにとっても愛されたぬいぐるみは、妖精になる事があるのよ」

「誰かに?」

 誰かにと言われて雪ちゃんは直ぐに判りました。

「お母さんだ、お母さんがボクを大事にしてくれたからボクは妖精になれたんだ。お母さん、ありがとう」

 雪ちゃんはお母さんに感謝の気持ちで一杯になりました。





諸君しょくん!」

 広場にとても大きな声が響きました。

「ひゃぁ」

 雪ちゃんは驚いて変な声を出して仕舞います。

「妖精王様よ、大事なお話があるってみんなを集めたの」

 広場の真ん中のステージに真っ白な髪に真っ白なひげの背の低いお爺さんが立っていました。

「魔物達がこの妖精の国に攻めて来るという知らせが入った」

 妖精王の言葉に広場にいた妖精達はみんな驚きます。

「そこでじゃ、魔物に対抗するために勇者を選びたいと思う」

 妖精王は手にした杖を天に掲げると、空が急に暗くなります。

 妖精達は驚いてみんな、空を見上げます。

 暗い空にスポットライトが一つ灯り、ぐるぐる回って妖精達を次々と照らし出してゆきました。

 ぐるぐる回っていたスポットライトは、雪ちゃんのところで止まったのです。

「おぉぉ、勇者は決まったぞ」

 王様の言葉に妖精達も喜びの雄叫びを上げます。

「さっ、勇者殿こちらへ」

 周りの妖精達に押されて雪ちゃんは妖精王の前に行きました。

「勇者の剣を」

 妖精達が剣を持ってきて雪ちゃんに手渡しました。

 その剣はぬいぐるみの雪ちゃんの手にあつらえたようにピッタリです。

「勇者殿のお供達よ!出ませい!」

 妖精王が勢いよく手を振ると、ステージの後ろの奈落がせり上がり七人の人影が。

「あっ、あれは」

 その七人は雪ちゃんがお母さんお部屋で見た小さい女の子と同じ顔をしていました。

「アリス・レッド」

「アリス・ブルー」

「アリス・グリーン」

「アリス・イエロー」

「アリス・オレンジ」

「アリス・ピンク」

「アリス・ホワイト」

 名乗りを上げるたびに、名前と同じ色の煙が噴き上がります。

「我ら、メイド戦隊アリス」

 最後に決めポーズを決めた瞬間、七色の煙が勢いよく噴き上がりました。

「さあ、勇者様参りましょう」

 七人のアリス達に押されて雪ちゃんは広場から近くの丘の上まで連れて行かれます。





 丘の上から下を見ると、見渡す限りの魔物の群れがいました。

 魔物達は直ぐ側まで攻めてきていたのです。

 その魔物の群れの先頭に巨大な人影が。

「あれが魔物のボス、閻魔大王です」

「あいつをやっつければ魔物達は逃げていきます」

 アリス達が説明してくれました。

「来たな勇者、わしが直々に相手をしてやろう。ふははははは」

 閻魔大王から一騎打ちを申し込まれました。

「行きましょう勇者様」

 アリス達に押されて雪ちゃんは閻魔大王の前まで来ました。

「お、大きい」

 閻魔大王は雪ちゃんの五倍以上の背丈があります。

「ふははははは、勇者よ、わしに弱点なぞ無いぞ」

 閻魔大王は笑いながらちらっと下を見て左足の親指をひょこひょこ動かします。

 でも雪ちゃんは閻魔大王の大きさに驚いて見ていません。

「もう一度言うぞ、わしに弱点は無いぞ」

 閻魔大王はもう一度言って、左の足の親指をひょこひょこ動かします。

 でもやっぱり雪ちゃんは見ていませんでした。

「勇者様、ゴ~~~~ッ」

 アリス達に後ろから勢いよく突き飛ばされ、雪ちゃんはヨロヨロと閻魔大王の近くまで歩み出ると倒れてしまいました。

 しかし、倒れた弾みに雪ちゃんの持っていた剣が閻魔大王の左足の親指に当たりました。

「うぉぉぉ、そこはわしの唯一の弱点じゃぁぁぁ。よくぞ見破った勇者ぁぁぁ」

 閻魔大王は雄叫びを上げて倒れます。

「やった、やりましたよ勇者様」

 アリス達が雪ちゃんに抱きついてきました。

 そして空に、

『雪ちゃん 誕生 おめでとう』

 と言う七色の文字が浮かび上がりました。

「わし、もう起きて良い?」

 倒れていた閻魔大王が起き上がりました。

 広場にいた妖精達が次々と駆けつけます。

 妖精達と魔物達が雪ちゃんを取り囲み、

「雪ちゃん、誕生おめでとう」

 と祝ってくれました。

 これは雪ちゃんが妖精になったお祝いのイベントだったのです。

 その後、しばらく妖精の国で過ごした雪ちゃんはお母さんのお部屋に戻りました。

 雪ちゃんが動けて話せるようになって、お母さんはすごく喜んでくれました。



 そして今日も雪ちゃんはお母さんのベッドでお昼寝。

 その雪ちゃんを枕にして七人のアリス達も一緒にお昼寝です。


                    (Copyright2023-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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