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蚯蚓鳴く夜に抱かれて  作者: 闇月夜
2/2

思い出のバス停


       「物語で双子を見たら、入れ替わりを疑うといい─」



山は古来より、神々が住まう場所として有名である。


【山岳信仰】


これは、山と認識出来る土地がある地域なら

全世界共通の概念であり、信仰だろう。


海にも、もちろん信仰はあるが

母なる場所、生命誕生の起源

として、近代では神々が治めている場所 というような認識は希薄になっているかもしれない。


海の幸を神に感謝したり、荒れ狂う波から神の怒りも連想させるが


陸から見える海は広大に見渡せ、何かが潜むという影がない


深海は未だ、未開のフロンティアだが

概念的には、もはや宇宙に近い

科学をもって挑む場所になっている気がする。


何が言いたいかといえば


「山は海より、妖怪とか怪物とか古い神がいそう」


という、私の偏見的感想である。



私がやって来たこの場所も、そんな深い深い山々の中にある村だった。



日本全国、都会といわれる地域も

少し離れれば山の中に入り、田んぼや畑に囲まれている。


高度成長期の頃


人々は次々に山を開発し、木を切り、川を汚すので

自然破壊をテーマにした作品が注目され

動植物を保護する言論が高まった


科学という神の発展に対する反発が、もっとも盛んであった。


2020年頃には、人々は科学にすっかり支配され

先進国では軒並み少子化が起こり、日本の人口は減退し

自然破壊の必要性が薄まり

小さなコミュニティは限界を迎え、山に再び飲み込まれるとは知らずに…



降りたバス停には

バス停とわかる、標識型の看板と小さなベンチがあった

これを、ベンチというのが正しいかはわからない

丸太を二つ、その上に太めの板が乗っているだけの木材だ。


すぐ側に、小屋がある

雨風を防ぐ場所だろう。


年代物のポスターが張ってある。


さらに、小屋からもう少しだけ離れた場所には

お地蔵さんがあった。


古き良き日本の風景といった感じがする。

私に学があれば、俳句を詠んでいたところだ

松尾芭蕉もこの土地には立ち寄っただろうか?


バス停の時刻表が載っている部分を見た

錆と汚れ、擦れに劣化で

何も読めない


そこに気持ちの良い風が吹いた

もう5月も終わりだ、日は充分に高い


ちょうど良い陽気だ、もう田植えも終わる頃だろうか



何をするでもなく、バス停からの田舎の風景を楽しんでいると

遠くから誰かが歩いてくるのがわかった


それを、ゆっくり眺めていると

若い娘さんと、老婆だとわかる


お孫さんとお祖母ちゃんだろうか


若い女性が私に気付くと、驚いた表情をしている

余所者が珍しい、という感じではなかった


次に一緒だった老婆が、急に走り出した

ヨタヨタしていて今にも転びそうだ

お嬢さんが慌てて声を掛ける。


「お兄ちゃん…!お兄ちゃ…!!」


おばあさんは、よろけながら私に掴みかかった


お兄ちゃん?


掴みかかったというよりは、倒れそうになったのを

私が抱きとめたというが正しい

老婆はそこから、私にしっかりとしがみつき泣きじゃくった


「お兄ちゃん!やっと…!!やっと会えた…!!」


どうやら、年齢的な認知症の方がだいぶ進んでしまったのだろう

戦争にいった御兄弟と間違っているのかもしれない


「ごめんなさい!お祖母ちゃん、ここで思い出の人を待つのが日課で!!」


駆け寄って来た若い娘さんが説明してくれた


やはり、昔 生き別れになった兄を想い

たまたま来た、若い男の私と勘違いしていたという訳だ。


さっきまで、涙を流していたおばあさんも

今は、ほけーっとして宙を眺めている。


私も心配なので、おばあさんを少し支えながら

家まで送ることにした



どうせ、私が向かう家もその方向の村にあるのだから…─



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