残虐性
読者の皆さんも経験がお有りだと思うが、幼少の頃は虫などに対して、大なり小なり躊躇もなく残酷な行為をしていたのではなかろうか。
少年も例外ではなかった。
蝉やチョウチョ、トンボやバッタ等は手っ取り早い餌食だった。
基本的な事だが、捕まえて一本ずつ手足を取り、暫く眺めて解放するのだ。
少年は淡々と思う。
もう2度と木や植物や花に止まって汁や蜜を吸う事は出来ないだろうな。
また、他の昆虫を捕まえて食べる事も出来ないだろうな、と。
しかし、不思議に罪悪感のない少年は、様々な趣向を凝らして殺戮を繰り返した。
例えば、揮発性の高い油を毛虫にかけて、そのまま50cmくらい離れた所まで一本の油の道を引く。
そして、その位置からマッチで油に点火する。
映画のように火が毛虫まで走っていき、ボッと毛虫に火がつき燃えあがる。悶えながら死んでいくその様を少年は無表情で見ていた。
また、夏になると、子供たちは山にカブト虫やクワガタを良く捕りに行ったものだ。
しかし、少年はあまり興味を示さなかった。
なんとなく、皆がやっているからと言う流れでクワガタを数匹、捕まえて虫かごに入れて暫くは餌を与えて飼っていが、興味は直ぐに失せていた。
気がつくと、夏の夜のお楽しみの、鮮やかに火花が飛び散る手持ち花火を手にして、ほくそ笑んだ。
10匹近いクワガタを一箇所に集めて、花火の先端に火をつけ、勢いよく飛び散る火花をクワガタに向けて発射するのだ。
クワガタは、みるみるうちに銀色に染まり動かなくなる。中には焼け焦げ手足もなくなり、その原形さえハッキリしないものもいた。
何のためにそんな事をするのか少年にも分からなかった。
また、草むらで遊ぶのが好きな少年は、そこで幾何学的な女郎蜘蛛の立派な巣を見つける。
そして、その巣に捕まえた蝶々を貼り付けるのだ。
蝶々がもがく振動で獲物が罠に掛かったと勘違いした蜘蛛が素早く寄ってくる。
蝶々が蜘蛛の糸でグルグル巻きにされミイラの様な姿になるのを長い間、少年は静かに見ていた。
蝉の背中に鉛筆を刺したり、蛙の口に爆竹を入れて爆発させたりして木っ端微塵にするのは、もはや少年にとっては日常茶飯事だった気がする。
悦楽に近いものを感じていたのか、少し病んでいたのかもしれない。




