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IQ141のトリセツ  作者: オバケのボス
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屑な父と厳格な母

 ここで、少年の家庭環境について少し触れておこう。

 少年の父親は決して人に誇れる人間ではなかった。

飲む打つ買うの三拍子揃った典型的な昔ながらの一人親方と呼ばれる職人だった。

毎日、仕事には行くのだが、少しばかり計算が不得意なようで、いつも赤字だった。また、先に金を使うから支払いが追いつかないと言う自転車操業をいつもやっていた。

父親は材料費や人件費などの支払いが出来ないと言うと祖母に無心していた。

毎夜毎夜、自分が遊んだ飲み代さえもだ。

幼少の頃から父親に甘かった祖母は、祖父の退職金など相当ため込んでいたが、殆ど、このだらしない男に食われてしまった。

 その癖、酒が入ると父親は、

「ワシは経営者だ。社長だ。わしを超える職人はいない。」

と、いつも吹聴し井の中の蛙のような生き方をしていた。

 挙げ句の果てに、そのケツを拭くのはいつも祖母や母親だった。

因みに少年は父親が祖母の鞄から金を抜くのを何度も見ている。

 一方、正反対の母親はと言うと、曲がったことの嫌いなガチガチの公務員の祖父を持つ長女だった。祖父が厳しかった家庭に育った母親はなんでも父親でなく祖父に相談していた。

父親の愚行の反動によって、母親はいつも少年に祖父の受け売りで、

「目立った事をしては駄目。」

「髪型や服装は校則で決められた事を守りなさい。」

「ローラースケートは危険だから、そんな友達とは遊ばないようにね。」

「モデルガンは不良が持つものだから買わないでね。」

と、毎日管理され、少年は息苦しい幼少期を何年か送った。

 その後、祖母が死んで、金蔓が無くなってからも父親の生活は変わらなかった。

 とうとう母親が工場で働き出して、少年と2つ年下の妹を育てていった。

 今度は、祖母の代わりに父親の飲み屋のツケや材料費なども母親が建て替えていた。

 それにも拘わらずに、毎日毎日、夜の場末のスナックで浴びるように飲んで酔っ払って帰ってきて来て、暴れる父親の姿を少年はよく見ていた。

怖がる妹と一緒に布団に潜り込んでガラスが割れる音を聞くのも稀ではなかった。

よく休みの日に、庭の草刈りをしている母親の側に行って遊んでいると、

「まるお、父ちゃんみたいな人間になったら駄目よ。」

と、目に涙を溜めて言われた事が何度かある。

少年は子供ながらに納得して父親が嫌いになっていった。

 上乗せをする様に父親は女癖も悪かった。

若いピチピチした女と遊ぶのではなく、BBAを連れて歩くのだ。

家には金を入れない癖に、虚栄心の強い父親は女にも散財していた。

 いつの日か少年は父親が家に帰ってこない方がいいと思いはじめたのだった。

 特に、雨の日は嫌だった。

雨の日は職人仲間が集まり安酒で朝から宴会が始まる。

タダ酒を振る舞うから碌な連中しか集まらない。

勿論、母親は工場で仕事だ。

 ある日、少年が学校から帰ると酔っ払いが、

「ええか、にいちゃん。人間はな・・・。」

と、説法を垂れてきていた。こんな連中から人生や世の中の話を聞いても一銭の得にもならない。少年はこの屑どもめ、お前らみたいな人間には絶対にならないと、いつも心の中で叫んでいたものだ。

 また、夜には、父親は知らない女を、取替え引替えよく家に連れて帰って来ていた。

母親に、

「ビールを出せ。」とか、

「客が来ているんだ。肴を出せ。」

と、酔って大声で言うのだ。

流石に母親も怒って風呂に入ったりするが、残された少年と妹は気不味い。

仕方なく、勝手に父親らが一杯やっていると、その女が急に少年と妹に百円札を1枚ずつくれたのだ。女の気持ちも分からないわけではない。少し嬉しくなった少年はそれを持って母親へ報告しに風呂場へ向かった。

鬼のような形相で、

「そんなもん、返しておいでっ。」

と、母親から怒られ、渋々、女に返した経験も少年にはあった。

毎日、堕落した父親と真面目が故に常に怒っている母親の狭間で、生活していた少年の中で何かが弾けた。

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