傷
少年には左手の人差し指の付け根に大きな傷跡がある。
少年が幼稚園の頃に受けた傷だ。
園児は幼稚園が終わって迎えが来るまで、広場で年少から年長までの全員が、芋を洗うように所狭しと遊ぶのだ。
その中に、唯一園児たちが羨望の眼差しで奪い合いをする、木製の一人乗りの玩具の車があった。
誰かが運転席に乗ると数人で押して、次々と交代で乗り手が変わると言う遊びが流行っていた。
年中だった少年も、もちろん参加していたが、たまたま少年は押すのではなく、その車を止めるという行為をしてしまった。
丁度、車の後ろに鉤型の金具が出ていたのでそれを掴んで前進しないようにしたのだ。
運悪く、押し手が全員身体のぬ一回り大きな年上の園児ばかりだったために、その車が一気に加速してしまった。
同時に、少年の左手に握られていた鉤型の金具が人差し指の付け根に刺さり数メートル引きづられていったのだった。
少年の悲鳴でその車は止まったが掌は真っ赤な血で染まり、担任の先生に背負われて病院に運ばれ何針か縫った傷である。
今、考えると少年はよく怪我をしたものだった。
剃刀で目的もなく縄を切ろうと思い自分の指を切って縫ったり、友達と石の投げ合いをして相手の石が少年の頭に当たって血塗れになったり、小さな川を飛び切れずに顔から砂利の上に落ちたりした。
最後の川はバチが当たったのかもしれない。
当時は家から出る生ゴミなどは、ナイロン袋に入れて町内で設置してある蓋のある鉄製のゴミ箱まで捨てに行かなければならなかった。
当然、その仕事は子供たちに託される。
しかし、その鉄製のゴミ箱の蓋が汚くて重いのだ。
いつの日か、少年はそのラグビーボールくらいある生ゴミの袋を目の前にあるゴミ箱に入れずに、理由もなく手前の川に投げ捨てていた。いくつもいくつも何日も何日も。
後日、とうとう川が塞がれ町内で問題になった。
母親から真っ先に疑われた少年だったが、もちろん黙っていた。
多分、この行為がのちに川に落ちると言う結末を生んだのだろうか。




