ジュウシマツ
ある日の放課後、少年は余り遊んだことのない年上の友達数名といた。
その中の小汚い、同級生には嫌われていると思われるひとりの石川という奴に、給食室の裏の方に内緒で連れて行かれた。
そこにはガラスで作られた小さな温室があった。
何を栽培していたかは記憶にないが、異様に暖かかった記憶がある。
「いいか、今から見せる物の事は絶対人に言うなよ。」
と、釘をさされ、少年は頷いた。
すると、石川は温室の奥から大事そうに両手で丸いものをそっと持ってきた。
よく見るとワラを編んで作られた小鳥の巣、壺巣だった。
その巣の奥に小さな丸い卵が数個並んでいた。
石川は卵を孵化させる為に温室の隅に壺巣を隠していたのだった。
「これは、ジュウシマツの卵だ。もう少しで孵るよ。産まれたら、また、教えてやるからな。」
と、得意げに話す姿が滑稽だった。
因みに、ジュウシマツとは十姉妹という和名があり、大変穏和な性格で、明治~昭和にかけて全国的に人気になり、どこでもペットとして飼育されていた小鳥だ。
石川は、直ぐにその壺巣を元の位置に戻し、少年を温室から追い出した。
「いいか、絶対に秘密だからな。」
と、再度、念を押され解散した。
少年は帰路についたが、何故かその壺巣が気になり、ひとりで温室に戻って行った。
ドキドキしながら隠し場所から壺巣を取り出して奥を覗き込んだ。小さな卵が可愛く並んでいた。
少年の衝動は抑えきれず、その中のひとつを摘んでみた。
グシャっと潰れてしまった。こんなに脆い物なのかと、他の卵もつついてみた。グシャ、グシャと次から次へと潰れていった。
気づくと全部の卵が潰れて黄身と白身が出ていた。
少年は何もなかったように壺巣を元に戻し帰宅した。
次の日、石川から問い詰められたがシラを切った少年だった。
正直に言ったら馬鹿を見ると少し前に身を持って経験していたからだ。




