知能検査
中学校も半ばになった頃、学年一斉に知能検査なるものが行われた。
どのくらい知能指数が有るのかを測定するペーパーのIQテストだ。
小学校の時にもやった記憶があるが、結果は本人には知らされないシステムになっていたようだ。
少年も、漏れずにそれを受ける事になった。
図形、時計、数字など、違うものを選べとか、法則に合った数字を選べとか、簡単なものだった。
少年は、早く終わらせて机に落書きをしながら、時間ギリギリまで全員が終わるのを待っていた。
学力試験と違って、成績には関係ないので少年にとっては問題なかった。
因みに、成績の方はと言うと、授業を真面目に聞くだけで、いつも上位10〜20番の位置にいた。
前に書いたように、家に帰っても勉強する環境になかったので、致し方なかったのかもしれない。
ある日、下校している時に後ろから、厳しい中田先生に名前を呼ばれた。
「お母さん、仕事からいつ帰ってくる。話があるんだけど。」
と、何かやったかなと思ったが、心当たりがなかったので、素直に母親の帰宅時間を教えた。
「じゃ、その頃電話するね。」
と、いつになく笑顔で戻って行った。
その夜、何やら母親と中田先生は後日、会う約束をしていたようだ。
数日後、母親が嬉しそうに少年に話しかけてきた。
「あんた、頭がいいらしいよ。知能指数が141あるってよ。」
「もっと勉強したら凄い事になるってよ。」
と、誇らしげに話していたが、少年は相槌を打つだけだった。
どうやら、中田先生が母親に伝えたかったのは、少年には素晴らしい能力があるのだから、親御さんがもっと教育に力を入れて、環境を整え良い学校に進学させたら、凄く伸びる可能性を秘めていると言う事のようだった。
「末は博士か大臣か。」
と、いう希望も、出鱈目な父親と教育をあまり受けていない母親に成す術もなく、その話は終わった。