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86 最後の決戦

 回転を止めない黒い魔法陣、次々に大地から噴き出してくる黒い液体。

 ダリル神父の勝ち誇った笑い声を聞きながら、俺は激しいめまいに襲われ、意識が遠のいていった。



「ターゲットの捕捉に成功しました。離脱します。」


 頭の中に聞き覚えのある女性の声が響いてきた。


「距離一メートル…」


 そうだ、これは最初のキャンプ場で遭遇した宇宙船の女性の声だ。


「二メートル…」


 いつの間にか俺は黒いゴーレムの上に浮かんで、戦場を見下ろしていた。

 景色には、全体に薄くモヤがかかっているように見えて、音は無く、すべてがゆっくりと動いている。


 しかも不思議な事に、ゴーレムの中に搭乗している人が透けて見えている。

 近くの白いゴーレムには、高笑いをするダリル神父の姿が見えて、周りの白や黒のゴーレムの中には神父達やスケルトン兵士達も見えている。


 そしてすぐ下の俺のゴーレムには、俺が搭乗しているのが見える。


「三メートル…」


 そのカウントで、俺は幽霊のように肉体から三メートル程浮いているのに気付く。

 俺は意識だけの存在となり、さらに上昇しているようだ。


 そうか…、俺は役目を終えてしまったのだな。

 しかも失敗して…。


「四メートル…」


 遠くを見渡すと、サマル王国の指揮所付近では、ディエゴ達の指示が間に合ったのか皆ゴーレムに搭乗して、地上の作業員達を持ち上げている。


 そこには、メアリー達の姿も。

 ニキのゴーレムの背にはセバスもいて、多脚ゴーレムの方を指差している。


 多脚ゴーレムが客室を下げて、そこに作業員達を放り込んでいるようだ。


「五メートル…」


 皆んなすまない…。

 ニキ、必ず無事にバッカ親方の下に送り届けると約束したのに…



 本当にすまない。



 俺は五メートルでカウントが止まったのに気がついた。

 下を見ると、ゴーレムの中の俺がもそりと動き出してドキリとする。


 ゴーレムの中の俺は、ゴーレムの操縦桿を握ると、モニターで周りの様子を確認しているようだ。

 そして、「ふむ、そうはさせんぞ!」と言うと、竜神の槍をふたたび黒い魔法陣の真ん中に突き刺した。


 すると、黒い魔法陣の上に白い魔法陣が浮かび上がり、時計回りに回転を始める。

 そして、みるみるうちに黒い津波の流れがゆるやかになっていくではないか。

 『ドドドー!』と噴き出していた黒い液体は、『ゴボリ、ゴボリ』と音を立てながら、ついには止まってしまった。


 黒い液体の流出が止まるのと同時に黒と白の魔法陣も役目を終えて消えてなくなり、それまで地面を覆っていた黒い液体も地面に染みるように消えて無くなっていく。


 この俺の姿をした奴は、いったい誰なんだ? 


 俺がその正体を疑問に思っていると、ゴーレムに搭乗しているもう一人の俺が空中に浮かぶ俺の方を見上げニヤリと笑う。

 そして、意識が途絶えたように静かにうなだれていった。



 そうか、そこに居たんだな!


 確かに宇宙人から、竜神の魂の一部が入り込んでいるって聞いていたが、ずっと俺の中に居たんだ!


「四メートル…」


 今度はカウントダウンが始まる。

 俺の意識は、元の体に向かって降下しているようだ。


「三メートル…」


 俺を見上げてニヤリと笑ったのは、後は任せるぞ、という意味か。


「二メートル…」

 ああ、やってやるよ! もう一度チャンスをもらったんだからな。


「一メートル…ターゲット解放します。」


 皆んな戻ってきたぜ! ここからが本番だ!



「ど、どう言う事だ? 竜神の怒りはどこにいった!」

 ダリル神父が叫んでいる。


「竜神様は怒って無かったようだな。」

 俺がゴーレムの肩を回しながら答えると「貴様かー!」という怒りの咆哮が聞こえてきた。


「やはり一番の障害は貴様達だったんだ。邪魔ばかりしやがって、楽に死ねると思うなよ! ぶっ殺してやる!」

「ようやく本性が出たようだな。神父と保安官の対決とは見ものだが、今度は必ず俺達が勝つ!」


 ダリル神父の白いゴーレムは槍を、俺の黒いゴーレムは剣を構えて対峙たいじしており、他の場所でも白と黒のゴーレムが一対一の対決の様相となっていた。


「さっきの技は驚いたが、もう次は通用せんぞ! この槍で串刺しにしてやる!」

 ダリル神父の白いゴーレムは、槍を両手で掴んで構えると、風魔法を起動して少しゴーレムを浮かしている。


 こちらもゴーレムの剣を八相に構え風魔法を起動して横に移動すると、ダリル神父のゴーレムもこちらの動きについてくる。


『ボボボッ!』


 ダリル神父の白いゴーレムが、次々に槍の突きを繰り出してくるが、俺は風魔法による移動によりギリギリのところをかわす。


「ちょこまかと逃げおって!」

 ダリル神父は、怒りにまかせて突きを放ってくる。

 リーチの差を考えると、槍と剣では明らかに槍の方が優っており、このまま逃げるだけでは攻撃など不可能だ。


 いつもの俺なら冷静に相手の攻撃をかわして、隙をうかがうというやり方であるが、今の俺はそんな気持ちになれなかった。


 一度はダメだと思ったところから、竜神様のお陰でチャンスをもらえたんだ。

 頭からはアドレナリンが、全身からは魔力が噴き出しているのを感じるぜ。


「逃げてばかりじゃないぜ!」

 俺は、ダリル神父のゴーレムに向けて強く一歩を踏み出すと、ゴーレムの足の裏から土魔法を放つ。


『ドン! ドン! ドン!』


 ディエゴ達のハンマーのように、ダリル神父のゴーレムに向かって地面からトゲが伸びていく。


「何だと!?」

 ダリル神父のゴーレムは、慌てて風魔法を使い飛び上がってトゲをかわす。


 俺のゴーレムは、もはや全身に魔力が渦巻いており、どこからでも魔法を放つ事が可能な気がする。

 俺はすぐに風魔法でダリル神父のゴーレムに肉薄して剣で斬りつけるが、ダリル神父も槍を振り回してかわしていく。


「まさか、こんなマネができるとはな。雑魚だとあなどっていたか。」

 ダリル神父はそう言うと、ストレージから魔銃砲を取り出してゴーレムの左手に持った。


 チッ、火魔法まで使えるのか。

 余計にふところに入りにくくなった。


…リュウ、槍を持った奴と戦うには、槍の穂先をかわして懐に入る必要がある…

 レツゴの言葉が思い出される。

 分かっちゃいるが、右手に槍、左手に魔銃砲を持たれた相手の懐に飛び込むなんて、難易度高いぜ。


「さあ、殺し合いを再開しようじゃないか? もう私に隙はないがね。」


『ドドドー!』

 ダリル神父のゴーレムの持つ魔銃砲から、火の玉が連続で飛んでくる。


「うぉーっ。」

 俺は、火の玉を横飛びでかわすと、今度は槍が突き入れられる。


『ギャリーン!』


 ダリル神父の突きを、ギリギリで剣で弾くものの、どうも後手後手になってしまう。

 攻撃の手数が足りないのか。

 向こうは、火、水、風、土魔法が使えるのに対して、こっちは風、土、光、闇魔法で、今のところ光と闇魔法に攻撃方法があるのか分からない。


「ヒャハハハッ! もう万策尽きたようだな。大人しく死ね!」

 再びダリル神父のゴーレムから、魔銃砲と突きの連続攻撃が繰り出されるが、土魔法のトゲ攻撃と風魔法による移動で、何とか逃れて距離を稼ぐ。


 このままではジリ貧である。


…リュウ、死中に活ありと言う言葉がある…


 こんな時なのに、レツゴの言葉が浮かんでくる。

 確か、絶望的な状況の中にこそ勝利の道があるという意味だったか。

 よし!


「レツゴ、死中にある勝利の道を見つけてやるぜ!」

 俺はゴーレムをダリル神父のゴーレムに向けると、ストレージから盾を出して左手に持ち、風魔法を全開にして突撃を開始する。


「ようやく向かって来たか。燃えてしまえ!」


 ダリル神父のゴーレムの魔銃砲から、火の玉が飛んでくる。

 俺はゴーレムの盾で火の玉を受け止めつつ、突進して行き双方の距離を縮めていく。


 あと少しで相手の槍の間合いに入る。俺のゴーレムの剣はとどかない。

 ここから死中だ!


「死ねー!」

「ここだー!」


 ダリル神父のゴーレムから槍が突き入れられるタイミングで、俺はゴーレムの足から土魔法を発動して巨大な土壁を双方のゴーレムの間に地面から伸ばした。


『ドゴーン!』


 巨大な土壁にダリル神父は槍を突き入れ、俺は反対側から盾を構えたままゴーレムの左肩で押し込むように激突すると、巨大な土壁は粉々に砕け散った。

 俺は盾を捨て、剣を八相の構えから剣先をダリル神父のゴーレムに向ける。


「何だと!?」

 ダリル神父のゴーレムは、俺が土壁の上から乗り越えてくると予想して魔銃砲を上に向けていた。


「竜神剣 秘太刀! 」


『ドン、ドン、ドン!』


 三段突きの一突き目は、驚いて棒立ちとなっているダリル神父のゴーレムの魔銃砲を持つ左手に、二突き目は槍を持った右手に、そして最後の突きを白いゴーレムの胴体の真ん中に突き入れた。


「いけー!」


 俺は、白いゴーレムに突き立てた剣を押し込むと、操縦桿そうじゅうかんの右手にある電撃が流れるボタンを押し込む。


『ガガーン!』


 雷が落ちたような音と共に、操縦席のモニター類の電気が落ちて、真っ暗闇になった。


 真っ暗な操縦席で俺の荒い呼吸だけが、やたらと大きく聞こえる。


 勝ったのか?

 それとも…

 これでダメなら、ダリル神父がこの隙を逃すはずはあるまい。

 正直やり切ったと思う。

 今の俺にこれ以上は無いと思えるくらい、足掻あがいてみせた。


 そして数秒後、操縦席のモニター類の電源が復旧すると、目の前の白いゴーレムは動きを止めて煙を上げていた。


「ふーっ、…終わったな。」

 俺は操縦席に背中を預けると、大きく息を吐いた。


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