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83 混迷を深める戦場

 リブラ平原の戦場は、つい先程までサマル王国軍の圧勝かと思われた戦況が、たった一体の真っ赤なゴーレムの出現により大きくその様子を変えようとしていた。


「あ、あれは、スペンサー伯爵のゴーレムでは?」

 多脚ゴーレムの客室から戦場を眺めていたメアリーがつぶやく。

 多脚ゴーレムは、サマル王国軍の指揮所の後方にあるが、その脚を伸ばしてかなり上空から戦場を見下ろしていた。


「ジェローム博士! 急いでエドワードのとこに行かなきゃならないから、このゴーレムの客室を地面に降ろして!」

「おいおい、メアリー落ち着け。今から戦場にいるエドワードの所へなど行けないぜ。」

 大きな声を上げるメアリーをマーティンがなだめている。


『バババッシュゥー!』


 突然、戦場に聞きなれない音が響いたかと思うと、カサンドラ共和国軍の真っ赤なゴーレムから複数の炎の玉が空に向けて飛び出した。


 炎の玉は空に放物線を描くと、サマル王国軍のゴーレム達に向けて飛来する。

 パワー型のゴーレムは空に向けて巨大な盾を掲げたが、降り注ぐ炎の玉はゴーレム全体を炎に包んでいく。

 今の一撃で、戦場のあちこちで火の手が上がっている。


「一刻を争うの! 今すぐに降ろしてー!」


 メアリーの叫びが伝声管から聞こえた俺は、多脚ゴーレムの脚をたたんで客室を地面に降ろした。

「御使様、よろしいのですか?」

「あれがスペンサー伯爵のゴーレムなら、サラ達も逃げるという事はできないだろう。どんな方法があるか分からんが、とりあえず俺達だけで相談する必要があるからな。」


 多脚ゴーレムの客室が地面に降りると、真っ先にメアリーが飛び出した。

 それをマーティン、テッド、ニキ、セバスの順に追いかけて行く。

「メアリー、待てー!」

「やれやれ厄介な事になったぜ。」

「俺も行くよー。待ってくれよ!」

「私もお供します。」


 俺は客室にメアリー達が居なくなったのを見届けて、操縦席室を出て客室に姿を現した。

「リュウ様、あれはお父様のゴーレムです! どうしてあれがここに…」


「本当にあの真っ赤なゴーレムは、サラのお父さんのゴーレムなのか?」

「ああ、あれは間違いなくご領主様の、炎の勇者のゴーレムだぜ。しかし、そうすると中にいるのは…」

 ディエゴが考え込むように俯くと、サラが「お父様です!」と大きな声で言う。


「しかし、中に乗っている人までは分からないからな。そうと決まった訳では…」

『ドドーン!』

 俺がそう言いかけたところで、戦場の方からひときわ大きな音が響いて、巨大な火柱が上がっている。


「…分かった。あれは話に聞く炎の勇者の暴れっぷりだな。あの赤いゴーレムはサラのお父さんが操縦しているという前提で作戦を立てよう。」


………


 サマル王国軍の指揮所に到着したメアリー達は、火の海となった戦場をぼうぜんと眺めるウィリアムス伯爵が目に入った。


「ウィリアムス伯爵! あれはスペンサー伯爵の炎の勇者のゴーレムです。直ちに退却を!」

「…まさか、こんな所で炎の勇者にふたたび会えるとはな。しかも敵として…、どういう事だ…」

 ウィリアムス伯爵は、心ここに在らずといった風で、メアリーの言葉も耳に入らない様子だ。


 メアリーが戦場に目を向けると、すでに両陣営のゴーレムは後方に下がり、戦場の真ん中にはサラのお父さんであるスペンサー伯爵が操縦する炎の勇者と、親友のエドワードが操縦する大地の勇者が向かい合っていた。


「二人ともやめてー!」

 指揮所にメアリーの悲痛な叫びがむなしく響き渡った。


………


 エドワードは、なぜこの戦場に炎の勇者であるスペンサー伯爵が現れたのか、混乱していた。

 操縦者の姿は見えないが、これまでの闘いを見れば、スペンサー伯爵であるのは明らかである。


「スペンサー伯爵! 僕です、エドワードです。サラくんとは学園で一緒だったエドワードです。直ちに戦闘を止めてください!」

 エドワードがゴーレムの外部拡声器でスペンサー伯爵のゴーレムに呼びかけると、伯爵のゴーレムは動きを止めた。

 辺りはもうもうと黒煙が上がり、あちこちで草原を炎が焼いている。


「エドワード、その大地の勇者のゴーレムを見てもしかしてと思ったが…。立派になったものだ。」

 スペンサー伯爵は、昔を懐かしむように答えるものの、構えた大砲のような魔銃砲の銃口はエドワードに向けたままである。


「なぜ僕だと分かって銃を向けるのですか? 僕と伯爵が闘う理由は無いはずだ。」

「確かに私もエドワード君と闘う理由は無い。むしろサラの友人として感謝しているくらいだ。」


「だったらなぜ?」

「なぜ? 私は10年前の戦争ですべてを失った。その戦争を指揮したのは、サマル王国の王都から来た武官だ。私が和平の使者としてカサンドラに向かっていたにもかかわらずだ。これは復讐であり、私の滅びの道なのだよ。」


「伯爵、何か誤解があるのではないですか? 話し合えば、きっと誤解は解けるはずです!」

「ははは…。もう10年間も繰り返しあの日のことを考えたよ。そして出た答えは…この世界のすべてを許さない、私も含めた…すべての滅びなのだ!」


 伯爵のゴーレムが魔銃砲の引き金を引くと、その大砲のような銃口から大きな炎の玉が飛び出していく。

『バシュッ!』


 エドワードは、迫り来る炎の玉を前に「なぜだー!」と絶叫すると、ゴーレムの両手を地面に叩きつけた。


『ドゴーン!』


 エドワードのゴーレムの前に、巨大な壁が地面から伸びてきて、炎の玉がその壁にぶつかって消える。


『ゴウ!』

 伯爵のゴーレムは、ジェット噴射音を上げながら、エドワードのゴーレムが生み出した壁を右に避けると、ふたたび引き金を引いた。

『バシュッ!』


 エドワードのゴーレムは、すんでのところで炎の玉を避けると、そのまま地面をゴロゴロと転がっていく。

 しかし、全体に丸みを帯びた姿のエドワードのゴーレムは、すぐに立ち上がるとその右手を地面に叩き付けた。


『ドゴーン! ドドドー!』


 伯爵のゴーレムは、地面から伸びてくるトゲを空に飛び上がって避ける。

「ははは! いいぞエドワード、その調子だ。勇者の闘いはこうでなくてはな。」


 伯爵のゴーレムは、やや前傾姿勢になると、その背中の長い筒から一斉に八つの炎の玉が空に向けて飛び出してきた。

『バババッシュゥー!』


 エドワードのゴーレムは、空から降り注ぐ炎の玉を、地面を転がるようにして避けていく。

「くそー! やはり強い!」


「ははは、逃げてばかりでは闘いにならないぞ。」

 伯爵のゴーレムが、その手に持つ魔銃砲に付いているスイッチを押すと『ガシャ』という音と共に、銃口の横に空気の吸入口のようなものができる。

「今度は火と風魔法を練り込んだ特大だよ。」


 伯爵のゴーレムの銃口の前には、直径三メートルはありそうな炎の玉がふくらんでいく。


『ドッシュゥー!』


 伯爵のゴーレムが仰反のけぞる程の勢いで放たれた炎の玉は、大地をえぐりながらエドワードのゴーレムへと向かって行く。


 エドワードのゴーレムは、ふたたびその両手を地面に叩きつけた。


『ドゴーン!』


 エドワードのゴーレムの前に、巨大な壁が地面から伸びてくるが、巨大な炎の玉がその壁にぶつかって辺りを火の海にする。

 エドワードの視界は炎と壁に遮られて、伯爵のゴーレムを完全に見失ってしまった。


『キュイーン!』

 いつの間にか、伯爵のゴーレムは風魔法で壁の上に飛び上がって、その銃口をエドワードに向けていた。


「終わりだ!」


 エドワードは、真上から向けられた銃口を避けるすべが無い。


『カチン』


 確かに伯爵のゴーレムは引き金を引いたが、その銃口からは炎の玉は出なかった。


「どうやら魔石切れのようだな。次はこうはいかないから、覚悟する事だ。」


 伯爵のゴーレムがカサンドラ共和国側の指揮所へと引き上げて行くと、エドワードはどっと操縦席のシートに背中を預けた。

 全身からは滝のような汗が噴き出てくる。

「助かった…。」


………


 俺たちは、炎の勇者と大地の勇者の闘いの様子を、戦場の端から眺めていた。端とはいえ、辺りの草原には火がついて燃えている。

 しかし、全員がゴードン工房特製のゴーレムに搭乗しており、少々の炎なら何も問題ない。


 戦場では大地の勇者が炎の勇者に押される展開となっていた。

 大地の勇者のゴーレムには、以前ジェミナイで会った冒険者のエドワードが搭乗しているのだろう。

 なんとか持ちこたえてくれ。


 すると、炎の勇者のゴーレムが突然カサンドラ共和国側の指揮所に向かいだした。


「魔石が切れたようだぞ。皆んな行くぞー!」

 俺がゴーレムの無線機で皆に呼びかけると「オウ!」という声が返ってきた。


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