82 開戦前夜
・・・リュウ視点へ・・・
メアリーが多脚ゴーレムに戻ってきた。
俺は操縦席室に隠れているが、伝声管から客室の会話は聞こえてくる。
「今回の会談は全部仕組まれたものだったわ。この戦争には、いったいどんなワナが仕組まれているか分からない!」
メアリーが興奮気味に話すと、マーティンが冷静に質問する。
「それで、ウィリアムス伯爵達の考えは?」
「国家間の戦争などは、そんなものだと。むしろ局地戦にできた事を喜んでいたわ。」
すると今度は、ディエゴが質問する。
「局地戦との事だが、双方がどこかに指揮所を設置するんだろ?」
「ええ、カサンドラ側がその先の丘の上に、サマル側がこの宿営地の最前線寄りの場所よ。」
「双方がニキロメートル程しか離れてないな。その間での戦闘となると、戦場にはゴーレムが片方30体程しか出れない…」
ディエゴがアゴをさすりながらつぶやくと、ニキがすかさずディエゴに質問する。
「なぁ、指揮所って何だよ?」
「ああ、今の戦争ってゴーレム同士の戦闘だろ? 魔境でも無いこんな場所でゴーレムを動かすとなると魔石を大量に消費しちまう。そこで、ある程度戦ったらゴーレムを戦場から引き上げて魔石をセットする必要がある。」
ニキが頷くのを見てディエゴは話を続ける。
「指揮所は、戦場の指揮官達が指揮をとる事と、ゴーレムの魔石を交換する場所を兼ねていて、ここは攻撃しないというのが不文律となっているのさ。俺達も指揮所にいる限り安全だ。」
ディエゴに続いてマーティンも話しだす。
「つまり、指揮所をどこに据えるかで、戦場の大きさも決まるのさ。今回は双方の指揮所がニキロメートル程しか離れてないから、だいたい直径ニキロの円の中が戦場となり、そこで戦闘できるゴーレムの数も自ずと決まる訳だ。」
ディエゴとマーティンの説明を聞いていたメアリーが話をまとめる。
「こうなった以上、私達にできる事は無い。明日10時頃から戦闘開始だ。私達は指揮所後方で待機する。無事に終結すれば良いが…。」
………
ニューヨークで昼間の仕事を終えると、俺は急いでゴードン工房にやって来た。
異世界からは、サラとディエゴだけ呼び戻している。
「いよいよ戦争する事になったか。できれば回避したかったがのう。」
ゴードンがため息混じりに言うと、その場にいた全員がやれやれといった表情になる。
「まあ、こうなっては仕方がない。俺達はメアリー達を全力でサポートするだけだ。もし不測の事態に陥ったら、メアリー達だけでも多脚ゴーレムに乗せて戦場から逃げるぞ。」
俺がそう言うと、横でサラが頷いている。
「もしもの時は、私達も全力サポートするから心配しないで。」
ニキもサラの肩に手をかけながら、力強くバックアップを約束する。
どうやら、我が工房の気持ちはまとまったようだ。
すると、ディエゴが恐る恐る手を挙げる。
「あのぉ〜、盛り上がってるところ済まないが、そろそろテレビでスーパーボウル観てもいいか?」
せっかくの引き締まった雰囲気が台無しである。
そういえば今日は、アメフトの全米チャンピオンを決める試合「スーパーボウル」が開催される日だった。
テレビを付けると、ちょうど前半が終わりハーフタイムショウに入る所である。
「何だよ、前半が終わっちまったぜ。」
ディエゴが残念そうに言うと、ゴードンが「ビデオに撮ってるから後で観れるぞ」と言っている。
「あっ、ちょうどハーフタイムショウが始まるとこじゃない。私アメフトのゲームには興味ないけど、ハーフタイムショウだけは観るのよね。」
ニキがサラの手を引いてテレビの前にきた。
スーパーボウルのハーフタイムショウには、歴代一流アーティストが出演しており、今年は全米の歌姫と呼ばれる女性アーティストのようだ。
アメフトの会場に作られた派手な演出の舞台に、派手な衣装で登場して会場を盛り上げている。
「はぁー、ステキだわ。」
「本当、すごくキレイです。」
ニキとサラが歌姫の衣装や歌う様子にうっとりしている。
俺には、ミラーボールのようなキラキラした衣装の何が良いのか分からんが。
すると後ろの方でディエゴがゴードンに何やらコソコソ話をしている。
「ゴードン殿、戦争が終わったら、サラお嬢様にあのような衣装を皆でプレゼントしたいのだが、用意できないだろうか?」
「お安い御用じゃ。ワシに任しとけ。サイズのデータもバッチリじゃからな。」
俺はディエゴ達が何を話しているか聞こえなかったが、皆の様子を見ながら戦争なんて馬鹿げている、スーパーボウルのような方法で楽しく戦えば良いのに、と強く思うのだった。
………
異世界の翌日、リブラ平原では、いよいよサマル王国とカサンドラ共和国の局地戦争が開始されようとしていた。
前夜にディエゴが予想したとおり、双方がそれぞれ予備を含めた50体程のゴーレムが並び戦闘開始の合図を待っている。
「諸君、すでに知っているとおり、カサンドラの連中は有りもしない言い掛かりを付けて、我々に戦いを挑んできた。今日こそはカサンドラの卑怯者達に正義の鉄槌を降す時である。ゴーレムの戦士達よ正義を行え。サマル王国に栄光を!」
ウィリアムス伯爵が拡声器で戦場のゴーレムに呼び掛けると「ウォー!」という雄叫びが上がった。
いよいよ両軍が戦闘を開始するようだ。
これがアメフトみたいな戦いだったらどんなに楽しいことか。残念ながら、各ゴーレムの手には巨大な盾と剣が握られている。
俺達は、指揮所後方で多脚ゴーレムに乗って戦場の様子を見ている。
「初戦につくゴーレムは前進せよ!」
エドワードの号令で30体程のゴーレムが前進している。
カサンドラ共和国側からも同様に前進してきた。
『ゴーー!』
まずはマーティンのゴーレムのように風魔法を使うスピード重視型のゴーレムが、先頭で突進して行く。
両陣営のスピード型ゴーレムは、リブラ平原の草や砂煙を上げながらさらにスピードを上げた。
『キュイーン!』
『ギャリーン! ガカン!』
風魔法をまとった剣や盾が交差する。
その後ろからは、蒸気をもうもうと上げながら巨大な盾を持ったゴーレムが突進して来ている。
先頭のスピード型ゴーレム達は、背後から迫るパワー型のゴーレムを意識して、左右に散らばって行く。
『ゴゴーン! ドゴーン!』
スピード型のゴーレム達が左右に避けた場所にパワー型ゴーレム達が到着すると、両軍のゴーレムの激しい衝突音が戦場に響き渡った。
さらにニキのゴーレムに装備されているような魔銃砲を持ったゴーレムや、炎魔法をまとった剣を振るうゴーレム達も参加して、戦場のあちこちでは火の手が上がっている。
負傷したゴーレムや魔石が少なくなったゴーレムは後方に下がり、指揮所付近で修理や魔石供給を受けている。
もちろんそれらのゴーレムの抜けた穴は、後方に控えていたゴーレムが逐次投入されており、戦場は繰り返される戦闘に、あちこちで黒煙が上がっていた。
「エドワード、そろそろ良いだろう。」
ウィリアムス伯爵が拡声器でエドワードに呼びかけると、エドワードのゴーレムがゆっくりと前進を開始した。
エドワードのゴーレムは、全身を地龍のゴツゴツした皮で覆われており、両腕が極端に大きいゴリラのような姿をしている。
エドワードのゴーレムは両手の拳を地面につけて、四つん這いの格好で徐々に前進のスピードを上げると、いよいよ最前線に躍りでて巨大な両手を地面に打ち付けていく。
『ドゴーン! ドドドー!』
エドワードのゴーレムの手が打ちつけた地面から、次々に巨大なトゲが出てきて、カサンドラ共和国のゴーレムが吹き飛んでいく。
パワー型ゴーレムが巨大な盾を向けるが、地面から出てくる巨大なトゲは防ぎようが無い。
「全軍後退せよ!」
たまりかねたカサンドラ共和国の指揮所から、後退の指示が飛ぶ。
戦場を見下ろす丘の上に設けられたカサンドラ共和国の指揮所では、パーセル伯爵達が戦場の様子を眺めていた。
「あれが勇者級のゴーレムの力ですか。あんなゴーレムには、とても太刀打ちできませんぞ。」
パーセル伯爵の横でブルーノ保安官が驚きの声を上げている。
「慌てるな! すべて想定内だ! カイル警備隊長、例のやつを頼む。」
カイル警備隊長はパーセル伯爵の言葉に頷くと、戦場とは反対側の丘の下に向かって合図を送る。
『ゴーーー!』
風魔法によるジェット噴射の音を響かせて一体の真っ赤なゴーレムが指揮所の横を通って戦場へ降りていく。
「止まれー! 全軍止まれー!」
エドワードがゴーレムの拡声器を使って全軍に停止の合図を送る。
総崩れのカサンドラ共和国軍を追撃しようとしていたゴーレム達は、何事かとエドワードのゴーレムの方を見ている。
「ま、まさか? そんなはずはない!」
エドワードが見つめる先にある、カサンドラ共和国軍に現れた真っ赤なゴーレムは、ジェット噴射音を上げながらスピードを上げて向かってくる。
その真っ赤なゴーレムは、短めの大砲のような口径の銃を持ち、背中からは放射状に長い筒がいくつも伸びている。
そして、やや前傾姿勢のまま前線まで出てくると、その背中の長い筒から一斉に八つの炎の玉が空に向けて飛び出してきた。
『バババッシュゥー!』
「皆んな避けろー!」
赤いゴーレムから飛び出した炎の玉は放物線を描いて、サマル王国軍のゴーレム達の頭上に降り注いでくる。
「な、なぜ、炎の勇者がカサンドラに…。なぜなんだー!」
戦場にエドワードの叫びがこだました。




