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81 仕組まれた会談

 リブラ平原のサマル王国とカサンドラ共和国の両軍がにらみ合う中間地点で、両国の代表者による会談が行われていた。

 そして、カサンドラ共和国側として呼ばれた三人目の代表者がまさかのブルーノ保安官であった。


「ど、どうしてあなたがここに?」

「おやぁ、これはメアリー保安官殿ではないか。こんな所で、久しぶりですなぁ。」

 思わず立ち上がった私の顔を見て、ブルーノ保安官はさも偶然のように話す。


「どうして、こんな犯罪者が代表者などと…」

「君ぃ! わが国の保安官を犯罪者呼ばわりするのか?」

 私の発言をパーセル伯爵が不快気にさえぎる。


「メアリー、落ち着くんだ。ここは国同士の会談の場だ。ウィリアムス伯爵の了解を得ていない勝手な発言は許されない。」

 私は、慌てて立ち上がったエドワードにいさめられ、しぶしぶ腰を下ろした。


「ダーッハッハッハッ。立場を分かっていただけたようですな。」

 ブルーノ保安官のバカ笑いに神経を逆撫でされるが、どこかの場面でこいつが山賊で、人攫ひとさらいで、海賊である事を暴露してやると心に決める。


「さて、全員席に着いたところで、会談を始めようではないか。」

 パーセル伯爵の言葉で会談はスタートした。


「それでは、今回の懸案とされているジェミナイでの地龍アースドラゴン討伐について説明します。」

 ウィリアムス伯爵がエドワードに頷くと、それを受けてエドワードが説明を始める。


「ご説明します。まず、事の発端はジェミナイに近い魔境で群れからはぐれた地龍が出たというものでした。この連絡を受けたカサンドラ共和国の国境警備隊はサマル王国との国境を封鎖してしまいました。」

 パーセル伯爵がカイル国境警備隊長を見ると、カイル隊長は間違いないというふうに頷く。


「カサンドラ共和国側の主張は、地龍はサマル王国側の魔境に出たのだからサマル王国が討伐すべきだと。討伐されるまで国境は開けないとの事でした。」

「ふん、当然だな。」

 パーセル伯爵がさも当然とばかりに鼻をならす。


「しかしこれには、国境を越えて旅する商人達が困りました。特に数日前にエアリーズでバトルトーナメントが開かれており、参加した者や観戦していた者も多数おり、ジェミナイのサマル王国側には人が溢れていました。」


 エドワードがいったん言葉を切り、特に異議が無いのを確認して話を続ける。

「私は、早急に地龍を討伐すべきと判断して、ここにいるメアリー保安官達と協力して地龍討伐に当たったという訳です。つまりすべては地龍討伐が目的であり、軍事行動などでは決して無かったという事です。」


「ふむ、地龍討伐うんぬんは分かったが、地龍討伐に勇者級のゴーレムを使ったのをどう説明するのかね。勇者級は一体でも軍事的脅威だ。これを国境付近で動かしただけで軍事行動を起こしたと言われても仕方ないと思うが?」

 パーセル伯爵はそう言うと、カイル国境警備隊長を見る。

「そのとおりです。勇者級のゴーレムは一体でも戦況を左右する存在です。そのようなゴーレムが国境付近で相手国に通告無く行動するなど、侵略の意図が有ると判断するには十分な理由となるでしょう。」


「ちょっと待ってください。」

 思わず私が声を上げると、全員の視線がこちらに向いた。


「皆さんご存知のとおり、地龍は強力な魔獣です。その討伐には軍隊が出動して当たるのが一般的とされています。しかし国境付近で大規模な軍隊での討伐はあらぬ誤解を有むと言う事で、たまたまジェミナイを通りかかった私達や冒険者のゴーレムとエドワード警備隊長のゴーレムで地龍討伐に向かったのです。」


「たまたま、ねぇ。」

 私の説明に続けてパーセル伯爵がつぶやく。


「ワシのところへは、君達は魔境の調査だとか言って、カサンドラ共和国の獣人達の脱走を手引きしていたと報告が上がっとるが?」

 パーセル伯爵はそう言うと、ブルーノ保安官に目配せする。


 ブルーノ保安官は、おもむろに立ち上がり、自信満々に話しだした。

「うぉっほん! 伯爵殿そのとおりですぞ。このメアリー保安官とやらは、キャンサーの街でわが国の大事な資源である獣人の国外脱走を手引きするわ、トーラスでは奴隷の輸送を妨害するなど、魔境の調査などと真っ赤なウソです!」


「何だとー! キャンサーでは山賊と、トーラスでは人さらい達と一緒に私達の妨害をしてきたのは貴様の方ではないか!」

 私も立ち上がり、ブルーノ保安官に負けじと言い返してにらみ合うと、私はエドワードに、ブルーノ保安官はカイル隊長に抑えられてイスに座った。


 パーセル伯爵は頃合いと見て、ウィリアムス伯爵に向き直る。

「ウィリアムス伯爵、このままでは平行線なので、どうだろう、戦争で白黒つけるというのは。」

「はぁ〜。パーセル伯爵は、最初からそれが目的のようだな。」

「こうでもしないと、うちの者も収まりがつかなくてな。」


 パーセル伯爵はニヤリと笑うと、ウィリアムス伯爵の表情を伺う。

「当方としては戦争は回避したいのだが、どうしてもという事なら、こちらにも条件がある。」


 パーセル伯爵は、一つ頷くとウィリアムス伯爵に続きを促す。

「戦争は出来るだけ範囲を狭く、局地戦としていただきたい。そして、戦いの趨勢すうせいがついたところで直ちに和平を結ぶこと。」

「良かろう。こちらとしても戦局が拡大する事は望んでおらんからな。なに、こちらも格好がつけばそれで良いのだ。」


「その言葉にウソはないでしょうな?」

 ウィリアムス伯爵の疑いのこもった言葉にパーセル伯爵は笑いだす。

「はっはっはっ、信用出来んかね? それじゃあ、この場に中立な立場の者を呼んで証人としようじゃないか。」

 パーセル伯爵が再びカイル警備隊長に目配せすると、カイル警備隊長は天幕から出て行った。

 どうやら、最初からそのつもりで誰か呼んでいたようである。


 しばらくすると、カイル警備隊長は一人の男を伴って戻ってきた。

 なんと、カイル警備隊長に続いて天幕に入って来たのはダリル神父であった。

 驚く私を横目に、ダリル神父はにこやかに挨拶をする。

「サターン神教の神父ダリルです。どうぞよろしく。」


「き、貴様は…」

「これはこれはメアリー保安官殿。魔境の中ではお互い行き違いがあったようで、あれは不運な事故でした。」


 私の様子を見て、エドワードがテーブルの下で私の手を握る。

 私がエドワードを見ると、エドワードは何かを察したようで、私の顔を見て小さく頭を左右に振っている。


 パーセル伯爵がダリル神父が席に着くのを待って話し出した。

「さて、証人というのはサターン神教のダリル神父の事だ。両国で承認されているサターン神教の神父であれば問題あるまい。」


「ふむ、和平の使者としては問題ありませんな。当方もそれで結構です。」

 ウィリアムス伯爵も同意する。


「それでは、戦争終結のタイミングで私が戦場に仲裁に入りましたら、双方が戦闘を停止してください。よろしいですね。」

 ダリル神父の発言にウィリアムス伯爵とパーセル伯爵は頷いて了承した。


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