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80 国王の使者

 巨大ゴーレムがリブラ平原にある国境警備隊の宿営地に到着すると、辺りは一時騒然とした。

 ただでさえカサンドラ共和国のパーセル伯爵の動きにピリピリしていたところに、突然巨大ゴーレムが出現したのでは当然であろうが。


「メアリーじゃないか。サマル王国の旗が見えたから攻撃しなかったが、驚かせるなよ。」

 私が巨大ゴーレムから降りると、エドワードがにこやかに出迎えてくれた。

「驚かせてごめんなさい。王都から陛下の使者として急いで来たの。ウィリアムス伯爵もここに?」

「ああ、向こうの天幕にいる。案内しよう。」


 リブラ平原の国境警備隊の宿営地には、たくさんの天幕が並んでおり、その中の一番大きな天幕にエドワードは向かって行く。

 そして、天幕の入口を警備している兵士に私が王都からの使者である事を告げると中に入って行った。


「ウィリアムス伯爵、王都から陛下の使者としてメアリー・シュナイダーが到着しました。」

 エドワードの紹介で私も天幕の中に入ると、ウィリアムス伯爵がにこやかに出迎えてくれる。


「おう、シュナイダー侯爵のとこのメアリー殿か。王都でのパーティー以来か、久しぶりだな。」

 ウィリアムス伯爵は、四十台後半の年齢であるが筋肉ムキムキのマッチョな身体で、貴族であるにもかかわらず軍服を見事に着こなしている。


「お久しぶりです、ウィリアムス伯爵。急な訪問にも関わらず、お時間をいただきありがとうございます。」

「なに、陛下からの使者となれば時間など選んではおられんだろ。気にせんでくれ。」

 ウィリアムス伯爵はそう言うと、メアリー達にイスを勧めてくれる。


「こちらが、陛下からの指示書でございます。」

「うむ、確かに受け取った。」

 私がレオナルド国王から預かった指示書をウィリアムス伯爵に渡すと、さっそくウィリアムス伯爵は私達の目の前で開封する。


「む〜」

「陛下は何と。」

 エドワードの質問にウィリアムス伯爵は指示書から顔を上げると、ため息混じりに話し出した。


「カサンドラ共和国のパーセル伯爵との会談は、我々に任せるとの事だ。」

「任せるとは、どこまで。」

 エドワードが真剣な眼差しでウィリアムス伯爵に目を向ける。


「戦争をするかどうかの判断までだ。しかし、たとえ戦争となっても局地戦に止めるようとのご指示だ。」

「局地戦までで終わらせるのが我々に課された最低限の役目という訳ですね。」

 ウィリアムス伯爵が無言で頷く。


「陛下は、局地戦で終わらせられれば、獣人の解放という目的には障害とはならないとのお考えのようでした。」

 私は、王都での国王達との会談の様子を説明する。


「陛下のご意思は良く分かった。ちょうどカサンドラのパーセル伯爵から会談の要請がきていたところだ。明日にでも会談を行うよう手配しよう。それで良いな、エドワード。」

「それなら私もご一緒させてください。」


「ちょっと、メアリー。君は陛下の使者として役目は終わっている。後は僕たちに任せておけばいい。」

 私の発言にエドワードが慌てて反対する。


「そうだぞ。陛下からも、くれぐれもメアリーは戦闘に参加させないよう指示を受けとる。」

「でも、会談は戦闘ではないわ。パーセル伯爵がジェミナイでの地龍の討伐を問題とするなら、その場にいた私も同席した方が良いはずよ。」


 その後も私が食い下がると、ウィリアム伯爵とエドワードが顔を見合わせて、しぶしぶ了承した。


………


 ウィリアムス伯爵達との会談が終わると、私はふたたび巨大ゴーレムに戻ってきた。

 エドワードは私のために天幕を用意すると言うのだが、どう考えても巨大ゴーレムの客室の方が快適である。

 もちろん、マーティン達やディエゴ達が巨大ゴーレムの客室で待ち構えていたが。


「それで、会談の結果はどうだったんだ。」

 さっそくマーティンが聴いてくる。

 周りのメンバーを見渡すと、エルフ族のアデルの姿が見えない。

「順を追って説明するわ。でもちょっと待って、アデルがいないようだけど。」

「アデルなら、このゴーレムの操縦で疲れたから操縦席室で休んどる。伝声管を解放しとるから聞こえとるじゃろ。」


 私は、ジェローム博士の説明に頷くと先程の会談の様子を説明した。

 皆静かに私の話を聞いていたが、私がカサンドラ共和国との会談に出席すると聞いて、マーティンが立ち上がった。


「つまりメアリーは、戦争になるかもしれないっていう会談に出席するっていうのか。どうして君が王国の命運まで背負わなきゃならない?」

「マーティン聞いて。保安官に過ぎない私がそんな場に行くのは分不相応だって事ぐらい分かってる。でも、ジェミナイの地龍討伐が原因なら、その場にいた私が行くのが誤解を解くのに適任だと思うの。」


「しかし、君がそこまで責任を負う必要はない。もう十分に役目は果たしたじゃないか。」

「そうね。それでも、ここまで頑張ってきたんだから、最後までやり遂げたいのよ。」


「まあまあ、落ち着けよマーティン。メアリーが最後までやりたいって言うんなら、やらせてあげたら良いんじゃないか? それに、どんな結果になろうとも俺たちはメアリーの味方だろ。」

 テッドがそう言うと、ようやくマーティンは席に腰を落ち着けた。


「分かったよ。俺もどんな結果になろうともメアリーの味方だ。それだけは忘れるなよ。」

「ちょっと待ってよ。俺もメアリーの味方だからな。」

「あ、私もメアリー様の味方です。」

 マーティンの言葉に、ニキとリュウが慌てて声を上げる。

 リュウは、相変わらず話し方が変だが。


「俺たちニューヨーク・ドラゴンズも忘れないでくれよ。なあ、皆んな。」

 冒険者のディエゴがそう言うと、メンバーの全員が頷いている。

「メアリー…さん。必ず護りますので、もしもの時は任せるです。」

 サシャも、ぎこちなくそう伝えてくれる。なぜか親友に肯定されたように、嬉しさが込み上げてくる。


………


 翌日、リブラ平原に日が昇ると、サマル王国とカサンドラ共和国の両軍がにらみ合う場所の中間地点に天幕が張られ、会談の席が設けられた。


 サマル王国側の代表は、この地域を治めるウィリアムス伯爵、国境警備隊のエドワード、そして保安官の私である。

 先に天幕に入り待つことしばし、ようやくカサンドラ共和国側の代表者達が入って来た。

 先頭は小太りで成金趣味の宝飾品を身に付けた男性で、貴族のようである。続いて軍服姿の痩せた長身の男性が入って来た。


「やあ、待たせてすまん。カサンドラ共和国のネヴィル・パーセルだ。こちらは国境警備隊長のカイル・フレッチャー、よろしく頼む。」

 パーセル伯爵は、遅れた事をわびるなど意外に丁寧な話し方であるが、それ故に油断ならない相手である事を感じさせる。


「いえいえ、こちらも先程着いたばかりです。私がサマル王国のマーシャル・ウィリアムス、こちらが国境警備隊長のエドワード・オースティン、そしてそちらの女性が保安官のメアリー・シュナイダーです。どうぞよろしくお願いします。」

 ウィリアム伯爵の紹介で軽く頭を下げて顔を上げると、こちらをじっと見ているパーセル伯爵と目が合った。


「…なんでこの場に保安官がいるのだ? ここは両国の代表者がいる場所のはずだが?」

「パーセル伯爵、これはジェミナイの地龍討伐の際に行き違いがあったとの話でしたので、その際に魔境の調査を行っていたメアリー保安官を同席させた訳です。」

 パーセル伯爵の疑問の言葉に慌ててウィリアムス伯爵が説明をする。


「ふむ、証人という訳か。それならば当方も証人を同席させよう。構わないな?」

「…はあ、どうぞ。」

 パーセル伯爵はウィリアムス伯爵に断りを入れると、カイル国境警備隊長に合図を送った。


 いったん天幕の外に出て行ったカイル国境警備隊長であったが、しばらくすると一人の男を伴って天幕に戻って来たようだ。

 遠くから、どこかで聞いた声が聞こえてくる。


「ここが会談の場所だ。失礼の無いようにな。」

「必ずお役に立ってみせますぞ。ダーッハッハッハッ!」


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