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78 国王との密談

・・・メアリー視点へ・・・


 私はサマル王国の王都ローディアに到着してすぐに、国王への謁見を申し出ていたところ、異例の速さで翌日にはその許可が出た。

 また国王への謁見は、王宮の広間にて多数の貴族も同席のもと行われるのが常であったが、今回は王宮の一室にて少数人数での謁見のようである。


 私が通された部屋は、四人がけのテーブルとイスだけという王宮にしては無駄を省いた簡素な部屋で、そこにはジェローム博士が先に席に着いていた。


「博士、どうしてここに?」

「やあ、メアリー殿。私も国王に謁見を申し出ていて、先程ここに通されたとこなんじゃよ。」

 どうやら、ジェローム博士も同じく国王への謁見を申し出ていたようである。


 ジェローム博士と話していると、案内の者が国王の到着を告げる。

「レオナルド・デ・サマル国王陛下、ハビエル・アロンソ宰相閣下ご到着です。」


 メアリーとジェローム博士が起立するのと同時に、レオナルド国王とハビエル宰相が入室してきた。

 レオナルド国王は、年齢はメアリーの一つ上であるが、金色のややくせ毛の髪をオールバックにし自信に満ち溢れた表情などからは、すでに国王としての覇気をまとっているように見える。

 一方でハビエル宰相は痩せた老人であるが、整えられた白いヒゲが似合い、思慮深い様子でこちらを見ている。


「メアリー、よくぞ無事に戻った。元気そうで何よりだ。」

「レオナルド国王陛下、急な謁見の申し出にも関わらず、このような場を設けていただき恐縮でございます…」

「ああー、そのような他人行儀なあいさつなどいらぬ。ここでは、うるさい貴族どももいないのだから気軽に話せ。そうだな、昔のようにレオナルド先輩でよい。」


 私は一瞬返答に困り、目でハビエル宰相の方を見る。

「そうですな。時は風雲急ふううんきゅうを告げています。余計な事に気を回すよりは、普段使いの言葉がよいでしょう。」

 どうやら、宰相の許しも出たようだ。


「はあ〜、分かりましたレオナルド先輩。キングブリッジ学園以来ですね、こんな風に話すのは。」

「ふむ、この方がリラックスして頭がよく回るというものだ。ところで、本日メアリーとジェローム博士を同席させたのは、魔境の調査をしていた二人が一緒に帰ってきたのが、何か偶然のようには思えなくてな。」

 レオナルド国王は、私とジェローム博士を交互に見ながらそう言う。

「それでメアリー、魔境の調査の方はどうだった?」


 そこから私は、魔境調査の旅での出来事、獣人達の様子、カサンドラ共和国での妨害、リオの街で地龍アースドラゴンに襲われた事、その陰にはサターン神教のダリル神父達の関与が疑われる事を説明した。

 レオナルド国王は、私達が困難に見舞われた話のたびに顔をしかめている。


「やはりカサンドラの反対勢力とサターン神教の連中の妨害があったか。こんな事なら、メアリーに一個中隊つけて送り出してやれば良かった。メアリーの親父殿がいらんと言うから従ったが失敗だったな。」

「陛下、これだけの情報を持ち帰ったのは、メアリー殿が少数で調査に向かったからでしょう。それにお父上のシュナイダー侯爵には、何やらお考えがあるようでした。」

 ハビエル宰相の言葉に、レオナルド国王も渋々頷いている。


 ここで、私は気になっている事を聴く事にした。

「ところで、サターン神教のダリル神父がリブラ平原で戦争のウワサがあると言ってました。なんでもカサンドラ共和国のネヴィル・パーセル伯爵が軍隊を集結させているとか。」

「ふむ、その話は本当だ。国境警備隊のエドワードが軍事行動を起こしたとか何とか言って、難くせをつけている。」


「それは明らかにカサンドラ共和国側の誤解です! エドワードと私はジェミナイの魔境に現れた地龍を討伐していただけなのです。」

 私が思わず立ち上がり声を上げると、レオナルド国王は分かっているという風に手を上げる。


「そんな事は、カサンドラの連中のこじつけに過ぎないのは分かっている。しかし解せないのは、こちらには大地の勇者がいるのを分かっていながら軍隊を集結させている事だ。勝ち目は無いだろうに。」

「向こうも勇者級のゴーレムを出してくるという可能性は?」


「それはあり得ませんな。」

 ハビエル宰相が白いヒゲをさすりながら話に加わってくる。

「メアリー殿もご存知のとおり、カサンドラ共和国の国王と我々は平和裏に事を進める方向で一致しております。国王の了解も無しに勇者級のゴーレムを出動させるのは不可能です。」

「獣人達の解放の件ですね。でも、それならなぜ?」


「カサンドラ共和国の内部は、一枚岩では無いという事さ。」

 レオナルド国王の発言にハビエル宰相も頷く。

「今回、軍隊を集結させているパーセル伯爵は、獣人達の解放に否定的で、一部の侯爵も賛同しているとか。何とかして、もめごとを起こしたいようですな。」


 ここで私は、もう一人の勇者の話をするべきか否か、迷っていた。

「レオナルド先輩…、実は…、スペンサー伯爵の事なのですが…。」

「サラのお父上か…。サラを始め、スペンサー家の人々には酷い事をした。エアリーズの魔境の中にあるスペンサー伯爵の屋敷にはたどり着けたのか?」

 レオナルド国王の表情が沈うつなものに変わる。


「はい、魔境調査の出発前に教えていただいたとおり、今も魔境の中に屋敷は残っていました。おかげで、サラにお別れをする事ができました。」

「そうか…、それは良かったな。今もキングブリッジ学園の青いバラを思い出すよ。わが国は炎の勇者に青いバラと二つの宝を失ってしまった。」


 ここでスペンサー伯爵が生きている事を説明すべきなのに、どうしても躊躇ちゅうちょしてしまう。

 サマル王国の炎の勇者と言われたスペンサー伯爵がカサンドラ共和国で冒険者をしており、保安官の暗殺に加わっていたなど、親友の名を汚すようで、どうしても言い出せない。


「戦争を回避する事はできないでしょうか?」

「メアリーよ、それは難しい話だと思う。」

「さよう、しかし相手もバカではありませんから、こちらと一当たりして適当なところで兵を引く事になるでしょうな。ガス抜き程度で終わらせれば、後はどうとでもなります。」


 ハビエル宰相がレオナルド国王に話し掛けると、レオナルド国王も頷いている。

「つまり、局地的な小競り合い程度で終わらせれば、我々の目的の障害とはなり得ない。その辺りは、エドワードに任せておけば間違いあるまい。」

「レオナルド先輩、私をエドワードへの使者としてリブラ平原に向かわせてください。エドワードと一緒に事態の収束を図ります。」


「ふむ、メアリーは魔境の調査から帰ったばかりだから、あまり無理はさせたく無いのだが…」

「私は、ジェミナイの魔鏡でエドワードと一緒に地龍の討伐をしました。その説明のためにも、私は適任だと思います。」

「陛下、よろしいのではないですかな。我々の意向を理解しているメアリー殿が行けば、何かと心強いでしょう。」


「…そうだな、分かった。メアリーよ、後でリブラ平原を治めるマーシャル・ウィリアムス伯爵と国境警備隊長のエドワード宛に指示書を書くから、私の使者として行ってくれ。しかし、くれぐれも戦闘には加わるなよ。エドワード達への使者の役目だけだからな。」

「ありがとうございます。必ずお役目を成し遂げてみせます。」


 レオナルド国王は頷くと、それまで黙って話を聞いていたジェローム博士の方に向き直った。

「ところで、ジェローム博士久しぶりだな。魔境の謎は解けたか?」

「いえいえ、謎は解けてはおりませんが、謎を解くための手掛かりを見つけました。まだまだ断片的なカケラを集めている段階ですが、おそらく、そのカケラが組み合わさった時、謎は解けるものと思われます。」


「何やら遠回しな言い方だな。それで、これからどうするのだ?」

「はい、メアリー殿と一緒にリブラ平原に向かいます。」


 ジェローム博士の言葉にレオナルド国王が大きく目を見開く。

「何とリブラ平原に? なぜだ?」

「今はまだご説明できませんが、先程の話を聞いて、足りないカケラはリブラ平原にあると確信致しました。先程の陛下のお話のとおり、私とメアリー殿が魔鏡で出会ったのは、偶然ではなく必然だと思うからです。それに、私の多脚ゴーレムであれば、リブラ平原まで一日でたどり着けるでしょう。」


「あの城門前にある馬鹿でかいゴーレムか。確かに、あれなら早いだろうがな。」

 レオナルド国王は、多脚ゴーレムが王都ローディアに到着した時の騒ぎを思い出したようにため息をついた。

「分かった。ジェローム博士よ、メアリーの事を頼む。あれ程大きなゴーレムであれば、消費する魔石も多かろう。必要なだけハビエルに言うがよい。」


 レオナルド国王がハビエル宰相をチラリと見ると、ハビエル宰相も大きく頷いていた。


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