77 サマル王国の王都へ
・・・サラ目線へ・・・
私は、リュウ様と別れ、多脚ゴーレムの運転席室の後方にある客室に乗り込んだ。
客室は外を眺められるように多くの窓があり、中は非常に明るい。
そして、ソファーやテーブル、イスなどが配置されており、まるでホテルのようである。
もちろん、ゴーレムの中という事で、それぞれの家具類は床に固定されているようであるが。
「しっかし、こんな巨大なゴーレムがあるとは驚いたぜ。」
テッドさんがソファーにどっかりと腰掛けて、マーティンさんに話しかけている。
「ああ、いかに魔境の中で魔素が満ちているとはいえ、こんな巨大なゴーレムを動かすとは、やはりエルフ族は魔法の扱いに優れているようだな。」
「サシャは、このソファーにしっかり座ってるんだぞ。危ないからな。」
多脚ゴーレムの客室に入ってから、何かとニキさんが世話を焼いてくれる。
今もソファーの私の左側に座り話しかけてくる。
あまり話しかけられると、いろいろやばいのだが。
「そうだな。私もこんな大きなゴーレムに乗ったのは初めてだが、少々揺れても私が支えるから大丈夫だぞ。」
厄介なことに、今度はソファーの右側にメアリーが腰掛けてきて、私は両側から挟まれて身動き出来なくなってしまった。
すると、多脚ゴーレムが動き出したようで、窓からの景色が、魔境の森の上からの景色に変わる。
「うひょー。こんな景色初めて見たぜ。」
「魔境の中なのに、こんなに青空が見えるなんて。」
ニキさんもメアリーも驚いているが、当然だろう。
魔境で気を抜くと死が待っているだけだが、今はまるで観光旅行気分である。
『コン…コン…コン…ズズゥーン!』
「おい見ろよ、谷川をまたいでいるぜ。」
窓から下を見ていたマーティンさんが、驚きの声を上げる。
そうして魔境の森の上の景色を満喫していたら、ようやく魔境の森を抜けて草原に出た。
目の前には、王都への街道がまっすぐに伸びている。
すると、ジェローム博士がやってきて、王都までこの多脚ゴーレムで送ろうと提案してきた。
皆んな、先程の観光気分が抜けないのか、二つ返事で了承する。
いつの間にか、リュウ様の姿のセバスが皆にお茶を用意している。
「リュウ、なかなか気がきくな。ちょうどノドが乾いてたんだ。」
お茶を前にしたテッドさんが、セバスに笑顔で話しかけている。
その時、この多脚ゴーレムの全体を、リュウ様の魔力が包み込んでいくのが分かった。
おそらく、リュウ様がゴーレムを操縦しているのだろう。
『コン…コン…ズゥーン!』
「おっ、進み出したな。魔境の外を動かすなんて、この大きさじゃあ魔石がいくらあっても足りないぜ。ぜいたくな旅だな。」
ニキさんが、感心したようにつぶやいている。
しかし私やディエゴ達は、不思議なことに、このゴーレムを操るリュウ様と一体化したような感覚になっていた。
これも闇魔法でリュウ様に使役されているせいであろうか。
『ズゥーン! ズゥーン!』
『ズン、ズン、ズン』
「おいおい、もう馬で走っているくらい早いんじゃあないか?」
リュウ様が、さらにスピードアップしようとしているのが感じられる。
『ズン、ズ、ズ、ズズズズズ…』
「あばばばばば…、早すぎる!」
「サシャ、しっかり掴まって!」
ニキさんとメアリーが両側からしがみついてくる。
「跳ぶ…」
私がリュウ様の意思を感じて、つぶやいた瞬間にゴーレムの胴体部分が大きく上昇し、さらにはゴーレム全体がフワリと浮いた。
「アヒョー!」
「キャー!」
私は絶叫するニキさんとメアリーの背中をしっかり掴んで、ソファーから転がり落ちないよう固定する。
テッドさんやマーティンさんも、ディエゴ達がしっかり支えている。
セバスは…、空中に浮きながらマーティンさんのカップにお茶を注いでいる…。
皆しっかりとリュウ様の意思を感じているようだ。
………
・・・リュウ目線へ・・・
多脚ゴーレムが空に浮いた時にはどうなる事かと思ったが、その後は順調に王都への街道を進む事ができた。
途中すれ違った人や、次第に増えていく家々から飛び出してきた人々から、驚きの表情で見送られたが、操縦している俺の姿が見えないのはありがたい。
そしてかなり日が傾いてきた頃に、遠くに白亜の城壁が見えてきた。
「あれがサマル王国の王都、ローディアじゃ。」
操縦席の後ろから、ジェローム博士が教えてくれる。
王都ローディアは、街全体を高さ10メートル程の城壁で囲っており、その中央には、まるでヨーロッパにあるような美しい城がそびえ立っていた。
巨大な城門の前には、このゴーレムの情報が届いていたのか、多くの城兵とゴーレムが並んで警戒している。
ここからは、メアリーの出番だろう。
その後、メアリーの説明で俺とアデルを除く全員は、無事に王都ローディアへ入城する事ができた。
俺とアデルは、多脚ゴーレムをローディア内に入れることはできないことから、残念ながら城壁外で待機である。
………
そして、多脚ゴーレム内で就寝すると、ニューヨークの朝が始まった。
この日も、ニューヨーク市警の仕事を終えてから、レツゴと一緒に剣道の練習をして、ニューヨーク郊外のドライブインにやってきている。
「いや〜、リュウの上達の速さには驚かされるわ。もう、竜神剣をモノにし始めてるんだよなぁ。」
レツゴがしきりに感心している。
今日の練習でもレツゴの打ち込みに対して、こちらも同時に打ち込んで、相討ちに何度も持ち込んでいるからだ。
「レツゴの教え方がうまいからだよ。」
まあ、こちらは風魔法による空間把握のアドバンテージがある事は秘密だけど。
「これじゃあ、そろそろ竜神剣の秘太刀も教える事になりそうやな。」
「なんだよ、その秘太刀って?」
「まあ、簡単に言うと必殺技やな。一回限りのびっくり技だから、同じ相手に二回は通用せえへんで。」
俺は次回の稽古で教えてくれるよう頼んで、ドライブインを出た。
すると、広い駐車場の端にたくさんの資材が積み上げられている一角があり、その横で一人の女性が五人ほどの男性に絡まれているのが目に入る。
「やめてー!」
「あれ、助けに行った方が良さそうやな。」
レツゴはそう言いながら、ドライブインの横に立てかけてあったモップを手に取ると、あっという間に持ち手部分を引き抜いて、長めの木刀にする。
「おいおい、相手は銃を持ってるかもしれないんだぞ。」
「そん時は、リュウが援護してくれ。」
レツゴはそう言うと、男達の方へ走って行く。
そういえば、レツゴが剣を握ると人格が変わるのを忘れていた。
もしもの時は、銃を撃てるよう準備しとくか。
「おい、お前ら! その女性から離れるんや!」
レツゴの声にそこにいた男達は、一瞬ギョッとしていたが、モップの棒を構えるレツゴの姿を見て一斉に笑い出した。
「ハーッハッハッ! おい、皆んな見ろよ。サムライがやってきたぜ。」
「女性一人を囲んで何してるんや。痛い目に会いたくなかったら、早くどこかへ行け!」
「ヘイ、皆んなこの勘違い野郎を、先にやっちまおうぜ。」
あーあ、だから言わんこっちゃない。
レツゴは五人から囲まれていて、その中の数人の手にはナイフが握られているようだ。
まあ銃を持ってないようで良かったが。
「コテ! コテ! コテ!」
「あいたたた!」
レツゴは、一瞬で男達のナイフを叩き落とした。
すると男達の一人が「こっちも何か棒を持って来い」と叫ぶと、横の資材が積んである場所から鉄パイプや角材を持ち出して、レツゴに向かって構えだした。
もちろん剣道の構えなどではなく、ただのケンカごしの構えである。
「ふん、腹ごなしにもなりそうに無いが、いっちょもんだろか。」
「うるせー! 皆んなボコボコにしてやれ!」
「ツキ! ドウ! ツキー!」
レツゴの流れるような剣さばきで、あっという間に三人の男が崩れ落ちる。
残り二人の男達は、崩れ落ちる仲間を見て驚いている。
「何だよこいつは! おい、二人同時にやるぞ。」
二人の男はレツゴの構えを見て、みよう見まねで鉄パイプを中断に構え、並んで同時に斬りかかってくるようだ。
「リュウ、よう見てるんやで。これが竜神剣の秘太刀や!」
レツゴはそう言うと、中段の構えからモップの棒の握り手を顔の横に持ち上げて、男達二人にその剣先を向ける。
八相の構えから、さらに変化して相手を狙いすましたような構えとなった。
「何を意味わかんねぇーこと言ってるんだ。いくぞ!」
二人がレツゴに同時に斬りかかってくる。
「シュ…」
『カカン、ドスッ!』
二人のうちの一人が崩れ落ちる。
「はい、終わり。」
最後に残った一人にメンを打って、リュウはこちらを振り返った。
「どうやリュウ、竜神剣の秘太刀は見えたか?」
俺は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
レツゴの一振りで二人の振り下ろされる鉄パイプをはじき、さらに一人に突きを入れたのだろうが、どうやって…。
「竜神剣の秘太刀、と言っても、ただの三段突きや。一息で三度突きを入れるんやで。オモロいやろ。」
いや、面白いとかじゃなくて、「すごい」としか声が出ないのだが。
確かに、これを初見ではかわせないだろう。
もちろん、帰りの車の中で、秘太刀について話が盛り上がったのは当然である。




