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73 魔境の横断へ

 キャプリコーンの街は、同じ港町であるリオやパイシースと比べると、かなりさびれた港町であった。

 魔境で王都への道が塞がれる前は、それなりに賑わっていたようだが、今は漁業と魔境に繰り出す冒険者の街となっている。


 俺達はキャプリコーンの宿屋を手配すると、魚料理がメインの飲み屋に繰り出した。

 もちろん、ディエゴ達も一緒である。

 そしてカンパイの後、メアリーがすかさずサラの横に近付いて話しかけている。


「私は保安官のメアリーだ、君は?」

「サシャ、冒険者です…だ。」

 サラはメアリーから目線を外して、恐る恐る答えている。


「サシャ…男の子か。君には、お姉さんとか親戚にサラという人はいなかったかな?」

「いないです…だぞ。」

 するとそこへニキも話しかけてくる。


「なあなあ、俺はサシャと会った事がないか? なーんかつい最近、会った事があるような気がするんだよな。」

「初めて会ったと思うです…だぞ。」

「それそれ、その話し方が引っかかるんだよなぁ。」


 いよいよヤバくなってきたので、助け舟を出そうとしていたら、ディエゴが間に割り込んできた。

「おいおいサシャ、こんな美人二人を独り占めするなんて10年早いぜ。メアリーとニキだったっけ? 俺と飲もうぜ。」


「何だよ、俺達はサシャと話してんだよ。邪魔すんなよ。」

 さっそくニキがディエゴを押しのけようとするが、たくましい体のディエゴはビクともしない。

「まあまあ、こいつは幼い頃に両親を亡くしちまって、人と話すのが苦手なんだ。これ以上は、勘弁してやってくれ。」


 メアリーとニキが哀れみの目をサラに向ける。

「そうだったの、ごめんなさいね。もし困った事があったら、私達に何でも言ってね。」

 何とかメアリーとニキの追及をかわせたようだ。


………


 同じ時刻、キャプリコーンの宿屋の一室では、ダリル神父達が集まっていた。


「あの冒険者達が護衛として一緒に魔境に入るのは、誤算でしたな。保安官達にピッタリ張り付かれると、いろいろとやりにくいのでは?」

 五人のうちの一人の神父がダリル神父にそう告げると、他の神父達も頷いている。


「まぁこれで、あの冒険者達が保安官を護衛するためにサマル王国から派遣された者である事は間違いないでしょう。むしろ我々の目の届く場所に出てきたと考えましょう。」

 ダリル神父が他の神父達を見回しながら話す。


「保安官達は魔境の中の道は知りません、地の利はこちらにあります。明日は予定通り魔境の渓谷で保安官達を一網打尽にします。みなさん、討ち漏らさないよう気を引き締めてください。」

 ダリル神父の言葉に、神父達は全員が頷き了承した。


…………


 ニューヨークの翌日、警察の仕事が終わると俺とレツゴはニューヨークの剣道場に来て、剣道の練習に励んでいる。


「メーン、メーン、コテ、ドウ!」

「一本!」

 ようやく、レツゴから一本が取れた。

 実は風魔法を得たおかげで、レツゴの竹刀の動きが感覚として分かるようになったのだ。

 おそらく風魔法は、空気を動かして風を起こすだけじゃなく、空気中の空間把握を可能とする力を得られるようだ。


「いや〜、参りましたわ。まだ数日やのに、リュウの上達の速さには驚かされますな。」

「ようやくコツがつかめてきたかな。それより、レツゴの竜神剣を教えてくれよ。」


「またそれですか。まぁでも、一本取れましたしね。少しだけ教えましょか。」

 竜神剣を教えるのを渋っていたレツゴが、ようやく教える気になったようだ。


「竜神剣の基本は相討ちです。」

「相討ち?」

「そうです。普通は相手の攻撃を受けてから、攻撃に移りますが、竜神剣は相手の攻撃にこちらも攻撃で対抗します。」


「そんな事が可能なのか?」

 相手の攻撃を受けるだけでも精一杯なのに、こちらも同時に攻撃するなんて。多分相手の攻撃を見てから攻撃しても遅いだろう。


「そのためには、相手が息を吸って攻撃に移るタイミングを掴む必要があります。かなり難易度が高くなりますが、やりますか?」

 レツゴは探るようにこちらを見てくるが、風魔法を習得した今、さらなる飛躍のためにはやるしかない。

「オウ! 望むところだ。」

 そうして、俺とレツゴの特訓は夜遅くまで続けられるのだった。


………


 異世界の翌日、俺達はダリル神父達と集合し、キャプリコーンの魔境の入口に来ていた。

 ちなみに俺はセバスと入れ替わり、すでにゴーレムに乗っている。


「それでは、行きましょう。まずは、我々の神父のゴーレム二台が先導します。最後尾はそちらの冒険者のゴーレムで警戒をお願いします。」

 ダリル神父の説明にメアリー達は先頭の真っ白いゴーレム二台を見上げている。


 その白いゴーレムは、高さ4メートルを超える全身型のゴーレムで、テッドのゴーレムのようにがっしりとした造りをしているのは、パワー型だからだろうか。

「そのゴーレムが白いのは、何の魔獣の皮を使用しているんだ?」

 同じパワー型のゴーレムに乗るテッドが、気になったのかダリル神父に質問している。


「これは、海王の皮です。非常に貴重なものですが、サターン神教の信者から寄進していただきました。この美しい機体は、神に仕える我々にふさわしいと考えております。」

 ダリル神父は、やや自慢げに説明する。

 しかし、白い大なまずである海王の皮とは驚いた。テッドも予想外の答えに唸っている。


 そこからは、神父達の白いゴーレム二台が先導し、ダリル神父達四人とメアリー達、ディエゴ達が徒歩で続き、最後尾を俺とサラのゴーレムで守る形で魔境を進んで行った。


 途中、ゴブリンやコボルトなどが出てきたが、先頭の神父達のゴーレムで危なげなく排除していく。

 そうして、魔境の奥深くに分け入っていき、幻想的な雰囲気の渓谷に差し掛かってきた。


 サラがゴーレムの無線機を使って話しかけてくる。

「この渓谷は、元はスペンサー伯爵領の観光地で、避暑地として非常に人気があったです。」


 渓谷といっても、そこは広々とした平らな場所で、魔境の森に差し込む光がエメラルド色に辺りを照らしている。

 その美しい平地に深く刻まれたような渓谷が横切っており、はるか下の谷底を流れる川と相まって、かつては避暑地として最適であっただろう事は想像がつく。


「あの辺りに大きな吊り橋があります。さらにその先も渓谷を渡る吊り橋をいくつか渡って進むと、渓谷を抜けて王都にかなり近付くはずです。」

 サラのゴーレムの指差す方を見ると、確かに巨大な吊り橋が見えてきた。このままゴーレムで渡っても大丈夫そうである。


「ワオーーーン!」

 突然、オオカミの遠吠えのような声が響き渡り、一行に緊張が走る。


「ウルフ系の魔獣の声だ。群れで襲ってくるかもしれないから、ゴーレムを持っている者はゴーレムに騎乗しろ!」

 ディエゴの号令に、メアリー達や元スケルトン兵士達がゴーレムをストレージから出して乗り込んでいく。

 しかし、ダリル神父達はゴーレムを出す様子もなく、そのまま辺りの様子を伺っている。


「みんな辺りを警戒して、姿が見えたら教えるんだ。」

 ディエゴが皆んなに呼びかけ注意をし、ダリル神父達を囲むようにゴーレムが並び、皆んな辺りを見回している。


 辺りからは『ガサガサ』という草の揺れる音と、「ハッハッハッ」という走り回っている犬の荒い息づかいのような声が聞こえるものの、肝心な魔獣の姿は見えない。


「ああああーーー!」

 突然、神父の一人が悲鳴を上げて倒れると、倒れたままの姿で魔境の森に引きずられていく。


「ブラインドウルフだ! 皆んな、すぐそこにいるぞ。」

 ディエゴが大声を上げる。


 俺は、慌ててサラに無線機で「ブラインドウルフって何だ!」と聴くと、「ブラインドウルフですか、厄介な魔獣です」とつぶやいた後、説明してくれる。


「ブラインドウルフはウルフ系の魔獣ですが、その特徴は毛が生えてない代わりに、水魔法でスライムのように肌を透明にして姿を見えなくします。よく見れば分かるのですが、素早く動き回るので捉えるのは困難です。」

 どうりで音はするけど、姿が見えないわけだ。


 そうしている間にも、周りから『ガサガサ』という草の揺れる音と、「ハッハッハッ」という荒い息づかいが聞こえていて、次はどこから襲ってくるか分からない。


 すると、いつも穏やかなダリル神父が、大声で回りの神父に指示を出した。

「全員ゴーレムに騎乗しろ!」


 ダリル神父達は、それぞれが白いゴーレムをストレージから出すと乗り込んでいく。

 ゴーレム持ってるなら、早く出せば良いのにと皆思ったものの、今はそれどころでは無い。


 さあ、ブラインドウルフ狩りだ。


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