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71 訓練とゴーレムの完成

 定期船はリオの港を出ると、魔境を左手に見ながら進んで行く。

 俺達は、船の甲板で潮風を受けながら魔境をぼんやりと見ていた。

 すぐ横では、ディエゴ達も甲板に出て潮風を受けている。


 ふと横を見ると、メアリーがサラの顔を凝視している。

 サラは小麦色の日焼けした肌に青い髪で、以前の姿からはかなり違うはずだが、メアリーには何かしら感じる事があるのだろうか?


「似ている…。」

 メアリーがいよいよ疑わしげに呟き出した。

 サラもメアリーの視線を気にしてか、ふいっと顔をそらしている。

 ここは俺もメアリーの気を逸らさなければ。


「メアリー、そういえば次は何ていう街に向かうんだ?」

 メアリーは、俺の質問に慌ててこちらに向き直った。

「ああ、次はキャプリコーンという港町だ。そこからサジタリアス山沿いに北周りで王都に向かう予定だ。」


「魔境が広がる前には、サジタリアス山を北に迂回せずに直接行けたから早かったのだがな。」

 テッドが解説してくれる。どうやら、魔境が広がる前には、キャプリコーンの街から王都への道があったようだが、魔境に塞がれて北のサジタリアス山を迂回しなければならなくなったようだ。


「いずれにしても、キャプリコーンの港までは三日ほどかかる。それまでは、船旅を楽しんでリオでの疲れを癒そう。」

 俺はメアリーの提案に頷くのだった。


………


 定期船で就寝すると、ニューヨークの朝が始まった。

 昼間の仕事を終えると、さっそくレツゴと一緒にニューヨークの剣道場に行って、レツゴから剣道の手ほどきを受ける。


 一通り説明を受けて実際に立ち会ってみるが、人の頭に竹刀しないを振りおろすなんて経験は無いから、おっかなびっくりしながらメンを打つ。


「なんや、その気の抜けたメンはー! もっと腰を入れて、強く打たんかい!」

 レツゴのげきが飛ぶ。

 レツゴは普段の話し方と違い、まるで人が変わったようだ。ハンドルを握ると人が変わると言うが、剣を握っても同じ事が起こるとは思わなかった。


 しかし、まるで様になってない自分の姿に笑いが込み上げてくる。

 こんなので、よくゴーレムに乗って剣と盾で戦おうだなんて思ってたもんだ。


「メーン!」

 レツゴの上段の構えからのメンが、俺の頭にヒットした。くーっ目から火花が出たぜ。

 俺は、レツゴに散々にしごかれて、剣道初日を終えた。


 剣道の練習の帰りに、レツゴと二人でニューヨーク郊外のドライブインに寄って、夕食を食べながら剣道についてさらに聴いてみる。


「レツゴ、剣道の構えは中段と上段があるのは分かったが、実戦となるとどちらが良いんだ?」

「実戦って、真剣を持って戦うという意味ですか?」


「そう、真剣で戦うという意味で。」

「はあ、そうなると全然違ってきますね。剣道は練習のために、下半身への攻撃は禁止されてます。しかし、真剣となると下半身への攻撃も当然ある訳で、それを考えて下段の構えなどもあります。」


 なるほど、構えのバリエーションが広がるという事か。

「中段の構えは、上下どちらからの攻撃にも対応できますので、バランスは良いと言えますね。」

 そこで俺は、ゴーレムで中段の構えをとり、敵のゴーレムと戦う様を想像してみる。

 ふむ、なかなか良い感じだ。


「しかし、中段の構えは一対一とか広い場所なら良いのですが、一対多数とか狭い場所とかには向いてません。」

 そこから俺の脳内では、マーティンのゴーレムのように風魔法で高速で移動しながら剣を中段に構えて森の中を移動する姿が想像され、剣が木に当たり手から離れて飛んでいく情けない姿になった。


「それは、まずい。何か方法はないのか?」

「そこで、八相はっそうの構えというのがあります。剣を顔の横に立てるように構えて、前後左右どちらからの敵の攻撃にも対応できるようにします。」

 そこでレツゴは腕を縮めて、顔の横に剣を構えるような仕草をして見せる。


「さらに八相の構えからは、そのまま相手を攻撃できるので、攻守共に優れた構えと言えますね。一対一の剣道では使われなくなりましたが。」

「そうなると、最適解は八相の構えという事か。」


 俺は脳内イメージで、ふたたびゴーレムで八相の構えで剣を持つ姿を想像してみた。

 今度はゴーレムの顔の横に剣があるため、森の中や複数のゴーレム相手に高速で移動して戦っても大丈夫そうだ。


「レツゴ、今度は八相の構えを教えてくれよ。」

「それには、まず剣道のメンやドウなどの基本が出来てからですね。」

 レツゴは、少し呆れ気味に答えるのだった。


………


 夕食の後レツゴをアパートへ送ると、ゴードン工房にやって来た。

 ゴードン工房では、ゴーレムの改造が急ピッチで行われていた。


 ちなみに、ディエゴとサラ以外の元スケルトン兵士達のうち、半数は異世界の定期船に置いてきている。

 定期船内の客室はメアリー達とは離れているものの、もしもの時の為である。


「皆んなお疲れ様。作業はどんな状況かい?」

「リュウ様お帰りなさい。作業は順調で、リュウ様のゴーレムは既に完成してるです。」

 サラが進行状況を説明してくれる。


「ゴーレムの足と背中に、風魔法による空気の吹き出し口を作りました。ただ、普段は吹き出し口は収納される仕組みになってますが。」

 そう言われて見ると、ゴーレムの姿は以前と変わらないが、足と背中に何か収納されているような線が見える。


「そうか、思ったより早かったな。それじゃ早速乗せてもらおうかな。」

 俺はそう言うと、俺のゴーレムの胸部ハッチを開けて、乗り込んでみた。


 胸部ハッチを閉めると、モニターや各種計器類が点灯する。

 足元のペダルに足を置き、操縦桿を握ると、土魔法によるゴーレムの操縦の感覚とは別の、風魔法によるブーストの感覚が伝わってきた。


 工房内をゴーレムで歩きながら、足元のペダルを更に押し込んでいくと、『バシュッ!』という音と共に背中と足の吹き出し口が飛び出した。

 そして『ゴウ』という音がして足と背中の噴射口から風が吹き出してくる。


「リュウ! 工房内で風魔法を使うなよ! 壁を突き破るぞ。」

 エドガーが工房内に設置されたマイクで注意する。


 俺は慌ててペダルを戻して、風魔法を止めた。もっと広い場所でないと風魔法を試すのは無理そうだ。

 ただ、ゴーレムに乗って気が付いたが、土魔法はゴーレム全体の感覚が伝わってくるが、風魔法はゴーレムの周りの空間に何があるのかを感じるような気がする。


 俺はさっそくゴーレムを降りてから、サラにその事を聴いてみた。

「サラ、気のせいかもしれないが、ゴーレムに乗ると周りの空間に何があるか感じれるような気がするんだけど、何か心当たりはないか?」

「風魔法は高速でゴーレムを移動させるため、障害物に当たりやすくなるはずですが、意外とそんな事は無いです。私は風魔法は取得してませんでしたから正確には分かりませんが、風魔法はそのような効果もあるのかもしれません。」


 すると作業をしていたディエゴも作業の手を止めて、話に加わってきた。

「俺も聞いたことがあるぜ。風魔法を取得すると、剣の腕が上がるって言うな。なんでも相手の剣の動きが感覚的に分かるらしいぜ。」


「なるほど、風魔法と武術の相性はかなり良いのかもしれないな。」

 俺は、明日からのレツゴとの剣道の練習が楽しみになるのだった。


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