70 リオの街との別れ
俺はリオの街の領主の館で目覚めると、メアリー達と朝食を済ましてゴーレムの修理に励む事になった。
メアリー達は城門の修理に当たっている。
リオの整備場では、責任者のトビーが作業員に指示を飛ばしていた。
地龍の脅威が無くなったので、心なしか皆の声が明るい。
「さあ早くゴーレムを修理するぞ。いつまた魔獣が戻ってくるか分からんからな。」
「トビーさん、昨日あんなに激しい闘いだったんだ。魔獣達だって今日は休みだろう?」
「何を言っとるんだ。魔獣達に休みなんぞあるもんか。」
俺とニキは、トビー達の軽口を聞きながらゴーレム修理の手伝いをしている。
「リュウ、皆んな何だか楽しそうだな。」
「ああ、そうだな。地龍達に決して勝利してはいけない難しい闘いだったが、うまくいって良かったよ。」
「何だよ、まるでリュウが地龍達と闘ったみたいな話し方だな。」
「いや〜、昨夜メアリー達から聞いた話から多分そうだったんだろうなと思ってな。」
あぶない、あぶない。迂闊に話すと怪しまれるな。
………
破壊された城門前では、メアリー達がゴーレムを使って廃材を片付けたり、仮の城門作りをミゲル警備隊長の指揮の下で行っていた。
「メアリー殿、何から何までお手伝いいただき、申し訳ない。」
「ミゲル警備隊長殿、こういう時はお互い様です。むしろお役に立てて、嬉しいくらいですよ。」
「そう言っていただき、ありがとうございます。ところで、昨日の黒いゴーレムの冒険者達が見当たりませんが、メアリー殿は心当たりがありますか?」
「いえ、私も気になってたのですよ。まさか昨夜の酒が原因で寝ている訳でも無さそうですが。」
「あんな屈強な冒険者達が、あの程度の酒で潰れるなんてこたぁねえな。」
テッドが横から口を出してきた。
「そうですな、私も同感です。それに彼らは冒険者というよりも、軍人のような雰囲気があります。」
「軍人ですか。確かに、地龍の群れを前にして全く恐れない姿は、軍人という方がぴったりですね。」
メアリーもミゲル警備隊長の意見に同意する。
「しかし、そうなると彼らが何者か気になりますな。見たこともない黒いゴーレムを操る屈強な男たち、我々の敵ではないのは確かですが。」
メアリーは、ミゲル警備隊長の話に頷きながら、彼らはいったい何者なのかと考えるのだった。
………
その日の作業は終わり、夕食はふたたび領主の館でスミス男爵達と食べる事になった。
皆で夕食を囲んでいると、ディエゴ達の話題になった。
「それで、ディエゴとかいう黒いゴーレムの冒険者達は見つかったのかね?」
「それが、リオの街を探したのですが見つかりません。今日は誰も見た者がいないようです。今回の件で多額の報奨金を用意したのですが、未だに渡せてないのですが。」
「むう、仕方ない。報奨金は冒険者ギルドに預けて彼らに渡してもらうよう依頼するか。」
俺は冷や汗を流しながら、スミス男爵とミゲル警備隊長の話を聞いている。
どうやら、皆んなでディエゴ達を探していたようだ。
ディエゴ達はニューヨークのゴードン工房でゴーレム作りをしているから見つかるはずもない。
「もしかすると魔境に入ったのかもしれんな。」
「それなら、もう暗くなりましたので帰ってきても良いはずですが。」
話を聞いている皆んなもミゲル警備隊長の疑問に頷いている。
「確かに、普通は魔境で一晩中過ごすなんて事はあり得ないだろう。しかしな、中には魔境で何日も過ごすような人がいるのだ。」
「スミス男爵殿は、そのような人をご存知なのですか?」
スミス男爵はメアリーの質問にひとつ頷いて話を続ける。
「あれはいつの頃だったか。リオの街にサマル王国の学者がやって来てな。しかも船を使わずに魔境からゴーレムに乗って現れたんだ。」
「魔境から?」
「そうなのだよ。その時は私も驚いたよ。」
「その学者のお名前は?」
「確か、ジェローム博士という名前だったな。魔境がどうして出来たのか調査してるとか言っていたよ。ああ、それから博士と一緒にエルフもいたな。」
何か新しいワードが出てきたぞ。エルフって何だ?
もしかして異世界に特有の耳の長い種族か?
「エルフが人族と一緒に? それは珍しい。」
メアリーの言葉からは、エルフがいるのは当たり前らしい。
俺は隣のニキに小声で聴いてみた。
「ニキ、エルフって見た事無いんだけど、普段はどこにいるんだ?」
「ああ、エルフは森の奥に住んでいて、滅多に人里に降りてくる事がないから、見た人の方が少ないな。」
「ちなみに、エルフって耳が長くって、美男美女揃いで、プライドが高いとかいう奴だよな。」
「よく知ってるじゃないか。だから人族とエルフが一緒にいるのは珍しいんだ。」
俺とニキがコソコソ話していたら夕食会も終わりになり、最後にスミス男爵が定期船が明日にも到着する予定である事を教えてくれた。
「メアリー殿達は、明日到着する定期船に乗って王都へ向かうといい。」
「しかし、リオの街の修復がまだ終わってないのに、私達だけ出て行くのは…。」
「なあに、後は私達でやれるはずさ。じきに脱出した住民達も帰ってくるだろう。メアリー殿達は、やるべき事をやりなさい。」
「…分かりました。王都に到着したら、リオの街の現状を報告して、何らかの支援が得られるよう働きかけます。」
「それはありがたい、よろしく頼むよ。」
そうして、俺達は翌日到着予定の定期船に乗り込んで王都を目指す事になった。
………
そして異世界の翌日、俺達がスミス男爵達に見送られ定期船に乗り込もうとしたところで、ディエゴ達が港に現れた。
もちろん、建物の陰で俺が召喚したのであるが。
「オーイ、俺達も船に乗せてくれ。」
「おお、冒険者のディエゴ達ではないか。いったい今までどこに行ってたんだ。」
さっそくスミス男爵が話しかけてきたが、ディエゴ達には、皆んなから怪しまれているからうまくごまかすよう話してある。
「俺達は冒険者だからな。今まで魔境の中を探索してたのさ。ああ、それよりも男爵殿が冒険者ギルドに預けてあった報奨金はいただいたぜ。」
「金の事は当たり前だが、それにしても激しい戦闘の後に魔境に行ってたとは、いやはやとんでもない冒険者だ。」
スミス男爵達は、ディエゴの適当なでまかせに驚いているようだ。
するとそこへ、ダリル神父達が現れた。
「私達も定期船に乗せていただきますよ。」
「ダリル神父とか言ったか、急な旅立ちであるな。どうされたのかな?」
「ええ、地龍の群れが襲ってきた時は、この街の皆さんと運命を共にするつもりでしたが、危機は去りましたので、次の街に向かおうかと思います。」
ダリル神父は、スミス男爵の探るような質問にも平然として答えている。
ダリル神父と五人の神父達は、スミス男爵に頭を下げて船に乗り込むと、メアリー達をチラリと横目に見て船室に消えて行った。
「どうも気味の悪い連中だな。メアリー殿達は十分に気を付けられよ。」
「はい、スミス男爵もお気をつけて。そしてリオの街の復興を祈ってます。」
定期船がリオの港を離れると、スミス男爵達を始め、港に詰めかけていた住民達が一斉に手を振って別れの声を上げた。
整備場のトビー達やミゲル警備隊長達から「ありがとうー!」とか「またリオに来いよ!」などの声が聞こえる。
もしかすると、俺達がいた事でリオの街に災いが降りかかったのかも知れないが、それなら俺達が災いを連れて行くだけだ。
俺達の胸に、この街を救えた事の喜びが改めて湧き上がり、住民達に力一杯手を振り返すのだった。




