66 オフェンス
リオの街の城門前の広場には、魔境から10頭もの地龍の群れが現れ、さらにその後ろには、ひときわ大きな地龍のボスが群れを統率している。
もうすでに、魔境側の広場の杭のほとんどは地龍に倒されて、元の何もない広場に戻っている。
残るは城門前200メートル程の広さに杭が並んでるだけである。
城門前では、ディエゴがメアリーやマーティン達と話している。
「本気か? もし失敗したら取り返しがつかない事になるんだぞ。」
マーティンが声を荒げる。
「失敗したら、なんて言っている場合じゃないんだ。必ず成功させるんだ!」
ディエゴの迫力に気圧されてマーティンはメアリーを見ると、メアリーも頷いている。
「はあー、分かったよ。」
ようやくマーティンも決心したようだ。
「それで、私達はどうしたらいいの?」
メアリーがディエゴに聴くと、ディエゴはメアリーやテッド、リオの警備隊長のミゲルを見回す。
「俺達は地龍の群れを突破するが、何頭かはこちらまでやってくるかもしれないから、ここを突破されないよう待機してくれ。」
メアリー達は了解すると、ストレージからゴーレムを出してそれぞれ乗り込んでいく。
そして地龍の幼体は、俺がゴーレムで抱き上げた。もちろん、俺の姿はメアリー達には見せてない。
「クワー!」
モフモフの幼体がこちらを見上げて声を上げる。
「よしよし、大丈夫だからな。ちゃんと群れに返してやるぜ。」
俺はゴーレムの手で優しくなでて、幼体を落ち着かせた。
「ゴーーーアーーー!」
地龍のボスが咆哮を上げて、群れに指示を出すと、地龍達が横一列に並び、こちらに突進する構えを取った。
こちらもディエゴ達が横一列に並び、ゴーレムの盾を構える。
その後ろに俺がゴーレムで地龍の幼体を抱えて立ち、マーティンとサラのゴーレムが左右に並んでいる。
「ゴーーーアーーー!」
地龍達が一斉に突進を始めた。
地龍はそれぞれが四トントラック程の大きさがあり、それが10頭もの群れで地響きをたてながら一斉に突進する様は、まるで津波のようである。
俺はゴーレムの無線でアメフト流の掛け声をかける。
「レディー、ハット、セット!」
前線で一列に並んでいたディエゴ達のゴーレムが、一斉に後退を始めた。
立ち並ぶ杭を器用に避けながら、俺達三台のゴーレムを囲むようにフォーメーションを変えていく。
『ドドドーン!』
地龍達が杭に激突して、なぎ倒していく。
しかし、さすがの地龍も100メートルも進むと勢いは無くなり、それぞれが杭に引っかかり身動きが出来なくなる。
俺は地龍達の動きが止まったのを見て、マーティンのゴーレムに手で指示を出す。
すると、マーティンのゴーレムは『ゴウ!』という音を立てて、横に飛び出して行った。
「行くぞー!」
俺の掛け声で、ディエゴ達が俺のゴーレムを囲んだままで一斉に前進を始めた。
「行け行け行けー!」
ディエゴも元スケルトン達を鼓舞して、盾を構えたまま前へ進んでいく。
「ゴーーーアーーー!」
かたまりながら進む俺達に地龍が突進してきた。
地龍達の狙いは、幼体を抱える俺のゴーレムだ。
『ドゴーン!』
地龍が突進してくるたびに、スケルトン達のゴーレムが一台また一台と吹き飛んでいく。
しかし、俺達は前進を止めない。
「死んでもリュウ殿のゴーレムを守れー!」
地龍達が幼体を抱える俺のゴーレムに気を取られている隙に、マーティンのゴーレムは杭や地龍の群れの間を縫うように前に進む。
城門前で俺達の攻防を見ているメアリー達や、城壁の上で見守るスミス男爵達も声を上げている。
「行けー!」
「マーティン、あと少しだ〜!」
『ドゴーン!』
そしてついにディエゴのゴーレムも地龍の突進に吹き飛んでいった。
そしてディエゴのゴーレムが吹き飛んでいったことで、俺のゴーレムの前が大きくひらけた。
「ここだー、マーティン頼む!」
俺は大きく振りかぶると、地龍の幼体を大きく前へ投げた。
「クワーーー!」
地龍の幼体が、地龍の群れの上を鳴きながら飛んでいく。
「行けー!」
「マーティン、キャッチしろー!」
「ああ〜、クーちゃん!」
城壁の上からもさまざまな声援が飛ぶ。
マーティンのゴーレムは、すでに城門前の杭の辺りを抜けて、地龍のボスへ近付いていく。
「クッソ、大きく投げすぎなんだよ!」
マーティンは毒付きながら、地龍の幼体をキャッチすべく全速力で前へ進む。
『キュイーン!』
ついにマーティンのゴーレムからジェット噴射を鋭くしたような音がして、グンとスピードが出た。
「オーリャァ〜、届けー!」
『ズザザザー!』
マーティンは掛け声と共にゴーレムを前へ投げ出し、地龍の幼体をキャッチすると、そのまま地龍のボスの前に滑り込んでいった。
「クワー!」
地龍の幼体は、地龍のボスの前で何事も無かったかのように鳴いている。
「タッチダウン!」
俺が無線で叫ぶと、広場で転がっているディエゴ達ゴーレムも両手を高く上げて喜びを表現している。
「やったー!」
城門前や城壁の上からも、大歓声が起こった。
スミス男爵や住民達、メアリー達も喜びを爆発させているようだ。
そして、この様子を広場を一望できる岩場の上から見ていたダリル神父も、白いゴーレムの中で拍手をしていた。
「素晴らしい! こんなショーはなかなか観れるものではありません。しかし、この結末はシナリオにはありません。」
ダリル神父はそう言うと、長さ四メートルはあろうかという槍をストレージから出してゴーレムの右手で掴む。
ダリル神父のゴーレムは、槍を大きく振りかぶると、地龍の幼体に狙いを定めた。
「敵ながらなかなか健闘した、と言うべきでしょうか。しかし、この物語の最後は滅びなのです。」
『ダーン!』
ダリル神父のゴーレムが今まさに槍を投げようとしたその時、広場に銃声が鳴り響くと、槍をつかんだ右手が吹き飛んだ。
「チィ!」
ダリル神父はゴーレムの右手が吹き飛び、掴んでいた槍が岩場の下へ落ちていくのを見ると、自身が狙われているのを瞬時に理解したのか、すぐに岩陰に姿を隠した。
広場の全員が音のした方を見ると、サラの対戦車ライフルから煙が上がっていた。
「させないです。」
サラのゴーレムが装備している対戦車ライフルの照準は、操縦席のモニターと連動しており、遠距離での狙撃を可能としている。
「サラー! 何をやっとるんじゃー!」
俺は、対戦車ライフルをぶっ放したサラに無線機で叫ぶと「あそこの岩陰に何かいたです」と冷静に答えてくる。
城門前で騒いでいた皆んなも、突然の銃声にシーンとなっている。
この雰囲気、どうしてくれるんだよ。
対戦車ライフルなんて、異世界の人に説明できないぜ。
俺はディエゴに「ディエゴ、うまく言っといてくれ」と言うと「またかよ」とがっかりした声が無線機から聞こえてきた。
「ゴーーーアーーー!」
地龍のボスが咆哮を上げると、広場にいた地龍達が回れ右して、魔境の方へ帰って行く。
「地龍が帰って行くぞー!」
サラの対戦車ライフルの銃声でざわついていたスミス男爵達も、ふたたび歓声を上げている。
「リオの街は助かったんだー!」
誰も彼もが、ハグしたり肩を叩きあったりして喜んでいた。
そんな中でニキは、地龍の幼体がボスについて魔境に戻って行くのを、寂しそうに見送っていた。
「クーちゃん…」
地龍の幼体は、最後にリオの街を振り返ると「クワー!」とひと鳴きして、名残惜しそうに帰っていった。
………
ダリル神父のゴーレムは、岩場をリオの街と反対の方角へ降りると魔境へ逃げるように進んでいく。
「何者かは知りませんが、やっかいな者達がいるようですね。あの黒いゴーレムの正体を掴まなくては。」
そしてダリル神父のゴーレムは、魔境の森の中に消えていった。




