64 地龍の群れ現る
時は遡り、リュウと入れ替わったセバスは、リオの整備場にやって来た。
・・・セバス視点へ・・・
「リュウ、遅かったな。さっそくこの魔素石に土魔法を込めてくれ!」
ニキさんが私に呼びかけてくるが、私は魔素石に土魔法を込める作業はした事がない。
「あの〜、よろしければ、皆さんにお茶を入れたいと思いますが。」
「お茶だと? リュウ、何寝ぼけた事言ってるんだ。妙な事言ってないで、早く作業やってくれ。」
私はお茶を入れるのを諦め、魔素石の前でウロウロしていると、またニキさんが苛立たしげに声を上げた。
「リュウ! 一体どうしたんだ? 早く作業しなきゃならないのに…、もしかして具合悪いのか?」
ここは正直に答えた方が良さそうである。
「はい。実は最近の記憶があいまいです。私はどうやって作業していたのでしょうか?」
すると、整備場の責任者であるトビー様が近寄ってきた。
「何じゃ、この兄ちゃん具合悪いのか?」
「ああ、リュウは盗賊に襲われて記憶を無くしちまったんだ。時々おかしくなって、話し方が変わったりする事があるんだよ。」
ニキさんも心配そうに、こちらを見ている。
すると、外が騒がしくなり、頭から血を流した警備隊員がやってきた。
「トビー! 早くゴーレムの修理をしてくれ。」
「いったいどうしたんじゃ? お前さん頭から血が流れとるぞ。」
「俺のケガの事はどうでもいい。それよりゴーレムの修理だ。地龍が城門の前で暴れていてゴーレムが壊された。早く直して戻らないと。」
そう言うと、ケガをした警備隊員は、ストレージから壊れたゴーレムを取り出した。
「リュウ、光魔法でこの人を治療してやれよ。」
ニキさんが私に向かって言う。
確かに私はリュウ様の魔法を引き継いでいるので、光魔法を使えるはずだ。
「何だと、兄ちゃん光魔法が使えるのか? それならこの人に使ってやってくれ。魔石ならここにある。」
そうしてトビー様から受け取った魔石を右手に布でしばりつけ、警備隊員の頭に右手をかざした。
「ヒール!」
すると、警備隊員の頭の辺りが淡く光り、ケガはみるみる治っていく。
「おお〜!」
固唾を飲んで見守っていた整備場の全員から驚きの声が上がった。
「さすがリュウだぜ。皆んなうちのリュウはスゲーだろ!」
なぜか、ニキさんがドヤ顔で胸を張っていた。
それからは、ニキさんの指導のもとゴーレムの修理と、次々にやってくる警備隊員のケガの治療を繰り返す事になった。
目が回る忙しさです。
………
・・・リュウ視点へ・・・
俺とサラは、ゴーレムに乗ったまま城門前の広場をながめて、地龍の群れへの対策を練っている。
「まずは、無くなった城門の代わりにバリケードを作るところからだな。あの地龍の幼体の血がついた城門の残骸はどうなったんだ?」
「すでに全部燃やしたようですので、もう匂いはしないです。」
「そうか。しかし敵が分からない以上、また幼体の血を使われるかもしれんな。」
「敵はサターン神教のダリル神父に決まっているです。」
「でも、地龍の幼体を生身の人間が攫ってこれるものか? 神父達はゴーレムなんか乗れないだろう?」
「確かにそうですが…。今夜は夜通し見張ってますので、城門や城壁に近付いてきたら捕まえてやるです。」
何やらサラの鼻息が荒い。
俺は地龍対策に入る事にした。
「サラ、地龍が群れで襲ってきた場合、どうやって防げばいいと思う?」
「地龍の恐ろしさは、あのスピードと重量による突進です。もし十頭もの地龍が突進してきたら、防ぐ事など不可能です。」
「そうだよなぁ。想像するだけで恐ろしいよ。」
「ですので、まずは地龍にスピードを出せなくするようしなければなりません。」
「なるほど、しかしどうやって?」
「ディエゴ達のゴーレムのハンマーを使って、城門前の広場全体に土魔法の杭を並べるです。もちろん、ただ杭を並べただけでは地龍の突進で簡単に破壊されるでしょうから、一本一本にさらに土魔法を込めて硬くしていくです。」
「そうか、そうすれば地龍は杭が邪魔で得意のスピードに乗った攻撃ができない。そこをゴーレムの盾を並べて魔境に押し返せば、時間が稼げるという訳だな。」
「そうです。あとは敵の正体を掴めば、地龍の幼体の謎も解けるでしょうから、そうなれば私達の勝機も見えてくるです。」
「ようし、そうとなればディエゴとも合流して、さっそく作業に取り掛かろう。これは夜通しの作業になるぞ。」
俺達はディエゴ達を集めて作業方針を説明し、さっそく作業に取り掛かった。
城門前の広場に杭を並べるのは、ディエゴ達三体のゴーレムだ。
杭の間隔は、地龍は通れないがゴーレムは通れる幅に調整して並べていく。
そして、それ以外のメンバーはゴーレムから降りて、一本一本の杭に土魔法を込めて硬くしていく。
一方で城門跡のバリケードは、メアリー達やスミス男爵をはじめとするリオの街に残った人々、それに獣人達が総出で作業を行っている。
「夜明けまでにバリケードを作り上げるぞ!」
スミス男爵が皆に声をかけている。
リオの街は、ディエゴ達のゴーレムが打つハンマーの『ドン、ドン、ドン!』という音やバリケードを作る音が響き渡っていた。
そうして作業は一晩中続き、もうすぐ夜も明けようかという頃になって、リオの街は霧に包まれた。
「ずいぶん霧が出てきたな。遠くの杭は霧で見えないぜ。」
「はい。敵が仕掛けてくるには、絶好の状況となりました。城門のバリケードと広場の杭が間に合って良かったです。」
そうして、辺りが明るくなり真っ白い霧の中に杭が並ぶ様は、まるで墓標が並んでいるようで不気味な静けさが感じられた。
もちろん、リオの住民はその大部分が船で脱出しており、バリケードの向こうには、スミス男爵や警備隊員、それに残された人々が武器を持って待ち構えている。
「何かくるです!」
突然サラが無線機で声を上げた。
『ゴウ!』
突然ジェット噴射しているような音が城門の辺りに轟くが、霧で何も見えない。
その音はさらに『キュィーン!』というジェット噴射を鋭くしたような音に変わりこちらに近付いているようだ。
「後ろだー!」
誰かが叫び、皆でリオの街の方を見ると、白い大きな塊が建物の上から飛び出し、城門跡のバリケードの上を飛んでいく。
『ドドーン!』
スミス男爵達が一晩中かけて作ったバリケードが大きく壊れて、土煙が辺りを覆った。
「何事だー!」
スミス男爵が声を上げた。
土煙が収まると、そこには白い毛の生えた魔獣と、それを串刺しにしている鋼鉄の槍が突き刺さっているのが見えた。
その鋼鉄の槍は長さが4メートル程もあり、人が持てるような代物ではない。
「地龍の幼体です!」
サラが無線機で叫ぶ。
すぐにディエゴがゴーレムでバリケードの残骸をかき分け、地龍の幼体に刺さった槍を引き抜くと、幼体は「クワ〜」と弱々しく鳴いた。
幼体は生きているようだが、血がドクドクと流れており、自らの血で真っ白い毛を染めていく。
「地龍の幼体を死なせてはならん! 誰か光魔法が使える者はないか?」
スミス男爵が叫ぶと、警備隊員が「それなら整備場にいるリュウ殿が光魔法の使い手です」と即座に答え地龍の幼体を運んでいく。
リュウという名前が出てドキッとしたが、どうやらセバスの事を言っているらしい。
ディエゴ達も光魔法は使えるが、どうしようかと思っていたら、ふたたびサラが無線機で叫んだ。
「地龍の群れが来たです!」
やや霧が晴れてきた城門前の広場を見ると、魔境から地龍の群れが現れた。
どうやら十頭以上いそうである。
「ゴーーーアーーー!」
「地龍が群で魔境から出てきたぞー!」
城壁の上で見張っていた獣人が声を張り上げる。
ついに来た。
何としてもリオの街を守り抜くぞ。




