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62 サラとメアリー

 俺達は地龍アースドラゴンを魔境に押し返し、リオの街に凱旋がいせんしようとしていたら、ゴーレムの無線機越しにサラが騒ぎだした。


「あれはメアリーです! 何でメアリーがここにいるんですか?」

「えっと…、サラはメアリーのこと知っているのか?」

「知っているも何も、王都のキングブリッジ学園の同級生です。私は青いバラと呼ばれてましたが、メアリーは赤いバラと呼ばれていたです。」


「あ〜あ、そういえば以前セバスがそんな事言っていたな。あれはメアリーの事だったのか。サラ、俺やニキに魔境の調査に同行するよう依頼したのはメアリーなんだ。」

「そうなんですか…。」


 サラは、何事か考えているようである。

 リオの大観衆が迎える城壁まで、あと少しという距離となったので、俺はゴーレムの無線でディエゴに指示を出す。


「ディエゴ、聞いていたと思うけどサラとメアリーが知り合いのようなので、俺とサラはゴーレムから降りれない。すまないが、ディエゴがゴーレム持ちの冒険者のリーダーという事にして、メアリー達と話をしてくれ。」

「また俺か? 幽霊船の船長だったり、冒険者のリーダーだったり、リュウ殿は人使いが荒いぜ。」


「ハッハッハッ、あの時はスケルトンの姿だから、今のディエゴの姿を見てまさか幽霊船の船長だとは思うまい。」

「チッ、それで、今度はどう言えばいいんだ?」

「ふむ、そうだな…」


………


 俺達が地龍アースドラゴンによって完全に破壊された城門の所にたどり着くと、ミゲル警備隊長をはじめとした警備隊の皆さんやメアリー達が出迎え、その周りをリオの街の大観衆が囲んでいる。


 スキンヘッドの大男であるディエゴが真っ黒いゴーレムを停止させ胸部ハッチを開けて出てくると、そこにいる全員から大歓声で迎えられた。


「私は、リオの街の警備隊長をしているミゲルだ。この度は、リオの危機を救ってくれて感謝する。」

「俺は冒険者のディエゴだ。俺達はニューヨーク・ドラゴンズというチーム名で冒険者をやってて、たまたまリオの街に居合わせたんで、お手伝いしたという訳さ。冒険者として魔獣討伐は当たり前だから、気にしないでくれ。」


「ニューヨーク・ドラゴンズ? 変わったチーム名だが、こんな強力なゴーレムを多数持ってる冒険者のチームなど聞いたことがない。」

「ああ、俺達はカサンドラから来たからな。サマル王国では知られてないだろう。」


 俺はゴーレムの中からディエゴ達のやり取りを見ながら、上手くいきそうだと頷いている。

 そこで、サラに無線で気になった事を聴いてみる事にした。


「サラ、メアリーはシュナイダー侯爵のお嬢様だと聞いたんだが、侯爵というのはかなり位の高い貴族なんじゃないのか?」

「そうです。私のとこのスペンサー伯爵家よりも上位の貴族で、特にシュナイダー侯爵家はサマル王国の北の守りを任された大貴族です。」


「そうだったのか。ならば侯爵令嬢のメアリーが、危険な魔境の調査をしているのが不思議だな。」

「…それほど重要な任務を与えられているという事だと思います。」


「どういう事だ?」

「こちらの世界は、リュウ様の世界のようにカメラやビデオがある訳ではありません。たとえ調査官が正確に報告したとしても、貴族がその報告はウソだと言えば、ウソになるです。」


「そういうものか。」

「しかし、シュナイダー侯爵家の報告となれば、誰もウソとは言えないです。特に、シュナイダー侯爵は氷の勇者として有名ですから、誰も反論できないでしょう。」


「氷の勇者か。確かサラのお父さんは炎の勇者だったよな。」

「そうです。私のお父様は炎の勇者と言われ、戦場に出るとなんでも燃やして火の海にしてしまうので敵味方関係なく恐れられていたです。逆にメアリーのとこは、何でも凍らせてしまうので、こちらも敵味方関係なく恐れられていたです。」


「…色々苦労したようだな。」

「メアリーは、そんな父親に反発して火魔法の訓練に明け暮れ、逆に何でも燃やして解決するようになったのですが。」


 そう言われてみれば、メアリーは魔獣と対決すると、最後は必ず燃やしていたな。

 そんな話をしていたら、ミゲル警備隊長が今後の事を相談したいので、メアリー達とディエゴもスミス男爵のとこに来てほしいと言い出した。


 ディエゴが困り顔で、こちらの方をチラチラ見てくる。

「サラ、ディエゴにヘッドセットの無線機を渡せないかな? そうすれば、スミス男爵との打合せの様子も分かるし、必要ならこちらから指示もできるだろうし。」


「以前、トーラスの街で使用したヘッドセットがストレージにあるです。」

 サラはそう言うと、ゴーレムで手招きしてディエゴを呼んで、メアリー達に見えないように胸部ハッチを開いてヘッドセットを手渡した。


「しょうがねぇ。そのスミス男爵との打合せとやらに行ってやるよ。」

「おお〜行ってくれるか。貴殿が来てくれないと、今後の相談ができないからな。」

 ヘッドセットを装着したディエゴが出席を了解すると、ミゲル警備隊長も胸を撫で下ろしている。


「ディエゴ殿の、その頭に付けているのは何なんだ?」

 メアリーがヘッドセットを指差して、余計な事を聴いてくる。


「ああ、これは〜、俺の生まれ故郷の部族に伝わる飾りだ。偉い人に会うんだろ? そういう時に失礼のないように付けるんだ。」


 ディエゴの必死の言い訳に、皆んな頷いている。

 だんだん、ディエゴのウソが上手くなっている気がする。


 そうして、ミゲル警備隊長を先頭にメアリー、マーティン、ディエゴが領主の館に向かって行った。

 ちなみにテッドは、少し頭を冷やしたいという事で休んでいる。いろいろすまない。


………


 リオの街のサターン神教の教会の地下室では、ダリル神父を中心に五人の神父が集まっていた。

 一人の神父が地龍による被害状況を説明している。


「…以上のとおり、城門は破壊され、警備隊のゴーレムは壊滅的被害を受けましたが、リオの街の損害はありません。」

「三頭もの地龍が出現して、リオの街の損害が無いとは、少し甘く見ていましたか。しかし、次は防げないでしょう。」


 ダリル神父がそう言うと、さらに他の神父が口を開く。

「魔境への城門が砕けた以上、リオは魔境からの脅威には対応できません。おそらく、これからリオの住民達の船での脱出が始まるでしょう。せっかく用意したのに、サマル王国の保安官達に逃げられるのは残念ですな。」


「うむ。保安官達に逃げられないよう、ひとつ釘を刺しますか。そして、明日こそは、本当の地獄を見せてあげましょう。クックックッ…」

 ダリル神父はそう言うと、地下室に作られた牢屋に横たわる白い魔獣に視線を向けた。

 その魔獣は、全身を白い毛で覆われており、所々から真っ赤な血が流れており、弱々しげに「クワ〜」と鳴いた。


………


 その頃領主の館では、スミス男爵へ地龍との攻防の様子や、城門が砕け警備隊のゴーレムも壊滅的な被害を受けた旨の報告がされていた。


 スミス男爵はミゲル警備隊長の報告を聞き、頭を抱えながら口を開く。

「つまり、もはやリオの街を守るほこも盾も失ったという事だな。」


「地龍が再びリオを襲うとは限りません。しかし、なぜリオを襲ったのか分からない以上、また来るというつもりで対応する必要があります。閣下とご家族の皆さま、メアリー殿達は直ちに船に乗って避難してください。」


「しかし、我々が避難した後のリオの街はどうなる?」

「こちらのゴーレム持ちの冒険者ディエゴ殿達の協力を得て、可能な限りリオの街を守ろうと思います。ディエゴ殿、なにとぞお力をお貸しください。」


 俺は無線機でディエゴに了承するよう指示を出す。

「俺達は冒険者だから、金さえもらえれば協力するけどよ、住民は全員船で脱出できるのか? 住民を守りながらだと、格段に難しくなるぜ。」


「全員を乗せられるほど船は無い。おそらく、街の有力者や金を持った者達から乗って行くと、貧しい者や獣人達は乗れないだろう。」

 スミス男爵が吐き出すように言う。


 するとそこへ、執事が来客の知らせを持ってきた。

「サターン神教の神父がやってきて、重要な話があるので閣下にお会いしたいとの事です。」


「この忙しい時に何だ! 神父など後にせよ!」

 スミス男爵の勢いに執事は一瞬たじろいだが、恐る恐るさらに告げる。

「神父が言うには、地龍がリオを襲う理由に、心当たりがあるとの事です。」


「何だと! それが本当なら今すぐ会おう。いや、ここに呼ぶが良い。」

 執事は「かしこまりました」と言うと下がって行った。


「皆んなも聞いてのとおりだ。神父が地龍が襲ってくる理由を知っているなら、対応が可能かもしれない。とりあえず、神父の話を聞きたい。」


 スミス男爵の説明に誰も反対の声は上がらず、皆で神父を待つ事になった。

 俺は、サターン神教の神父と聞いて、嫌な予感がするのだった。


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