61 ドロドロの闘い
「ゴーーーアーーー!」
地龍一頭に三台の守備型ゴーレムが盾を並べて、三頭の地龍を魔境の方へ押し返していく。
真ん中の地龍はテッドを真ん中に左右を元スケルトン達の黒いゴーレムで挟む格好である。
なお、ディエゴ警備隊長を含む三台の攻撃型のゴーレムは、巨大なハンマーをかついで、各地龍の近くに待機しており、地龍が動きを変えようとしたら、ハンマーで土魔法のトゲを出して動きを止めるよう指示してある。
俺とサラは、さらに後ろで全体を見て必要に応じて動くつもりである。
どうしてこうなったのかというと、サラ達を呼び出した俺は、地龍が三頭いるのに守備型ゴーレムが八台しか無い事から、一頭に三台のゴーレムで対応できない事に気が付いた。
そこで、テッドに加勢してもらおうと考え、ディエゴにテッドを呼びに行かせたのである。
もちろんテッドは二つ返事で応じてくれ、ディエゴ達とゴーレムに乗り込んだところに地龍が城門を突き破ってきたので、なんとか間に合ったという訳である。
「ようし、この調子で魔境まで押し込んでいくぞー!」
テッドが叫ぶと、ゴーレムから蒸気が噴き出した。
「皆んなも、もっと蒸気の圧を上げろー!」
「皆んな、仮装蒸気のスイッチを入れるです。」
サラが各ゴーレムに無線連絡を入れる。
もちろん、外部拡声器とはつながっておらず、テッド達には聞こえていない。
サラの指示を受けて、地龍を押し込んでいる黒いゴーレムの肩の辺りから、モワワ〜ンと湯気が上がった。
俺達のゴーレムは電動アシストであり蒸気機関は無いが、それをごまかすために湯気の出る装置がゴーレムの肩のあたりに装備してある。
『プシュー! モワワ〜ン、モワワ〜ン』
テッドのゴーレムと比べると、明らかに黒いゴーレムの蒸気の不自然さが目につく。
「ゴーーーアーーー!」
すると、テッド達に押し込まれていた地龍が、突然頭を左右に振り出した。
先程リオの警備隊のゴーレムがはじかれた攻撃である。
『ガガン!』
テッドの左右の黒いゴーレムは、ラグビーのスクラムの要領でテッドをガッチリ掴んでおり、地龍が頭を振っても盾を当てたままはじかれずに抑え込んでいる。
もちろんゴーレムの電動アシストや俺から引き継がれる無限に湧き出る土魔法の力による影響も大きいだろう。
地龍が頭から押し込まれるのを嫌って、お尻を左右のどちらに振ろうとすると、ディエゴ警備隊長らのゴーレムが前に出て、巨大ハンマーを打ち付けていく。
『ドンドンドン!』
巨大ハンマーを打ち付けた先の地面から、電柱並みの太さの杭が次々に伸びてきて、地龍は左右のどちらかに尻を振る事ができず、そのままズルズルと後退していく。
巨大ハンマーは、取っ手の付け根にあるツマミを回してトゲの先端が尖らないようしてあり、結果、高さ三メートル程の電柱のような頑丈な杭となっているのだ。
「いいぞー、この調子だー! 皆んな漢をみせろ!」
「オーウ!」
俺がやれやれ上手くいきそうだと考えていたら、辺りにお花畑のようなフローラルな香りが漂っている事に気が付いた。
この戦場に、何の異変が起こっているのか?
………
ニューヨークのゴードン工房では、ゴードンがニキを探していた。
「ニキー! ニキどこにいるんじゃ。」
「何? ゴードンさん。」
ニキは工房の隅で、ドラム缶を片付けていた。
「ニキ、この大量のアロマオイルは何に使うんじゃ?」
ゴードンは片手にアロマオイルの仕入れに係る請求書を持ち、それを振りながらニキに尋ねる。
「ああ、それならもう使ったわ。この空のドラム缶がそれで、アロマオイルはゴーレムに入れたわよ。」
「何でまたアロマオイルをゴーレムに使ったんじゃ。」
「だって、守備型のゴーレムの仮装蒸気って、何の役にも立ってないでしょう? それなら、水の代わりにいい香りのするアロマオイルを入れたらアロマの効果もあって、皆んな気持ちが落ち着くと思って。」
「それにしても、この空のドラム缶は八本もあるようだが全部使ったのか。この請求書には濃縮タイプと書かれておるがちゃんと薄めたのか?」
「えっ? そうだった? 薄めずにゴーレム一台にドラム缶一本入れちゃった…。」
ニキの足元に転がっているドラム缶には『注意! 過剰摂取は精神に影響を及ぼす事があります』との張り紙がされている。
「うむ〜。まあやってしまったものは仕方がない。しかし、あいつら大丈夫かのぅ。」
……
その頃、リオの街の城壁の前の広場では、テッド達と地龍とのドロドロの攻防が繰り広げられていた。
『モワワーン、モワワーン』
「皆んなぁ〜、ち、力を込めるのよ〜!」
「はぁ〜い!」
地龍とゴーレムが揉み合っている周りには、お花畑の香りを10倍強くしたような強烈な香りが漂っており、その香りを吸うだけで力が抜けていく。
ついに黒いゴーレムの一台に乗った元スケルトン兵士が泣き言を言い出した。
「テッド様〜、私もう力が入らない。無理です〜。」
「泣き言なんか聞きたくないわぁ! 皆んな、あと少しなのよ。漢を、漢を見せるのよ〜。」
「ゴワァ〜ン、ゴワァ〜ン!」
地龍の鳴き声まで、おかしな事になっている。
地龍とゴーレム達が押し合いしてる姿は、もはや戦闘ではなく、じゃれあっているようだ。
「臭いです。」
無線機から、サラが鼻をつまみながら話す声が聞こえてくる。
俺とサラは、もともとテッド達とは距離を空けていたが、臭いので今や200メートル程の距離を空けるまでになった。
後ろの城壁の上を見ると、メアリー達も鼻をつまんでいるのが見える。
獣人達は鼻が効くのか、身悶えしながら城壁の上を転がっているようだ。
「やれやれ、さてはニューヨークのニキの仕業だな。ゴーレムの仮装蒸気の事で何か思いついたような事を言っていたが、この事だったのか。」
俺達はゴーレムの中で、片手で鼻をつまみながら操縦しているが、盾と隣のゴーレムを掴んでいるテッド達は、左右の操縦桿から手を離す事ができない。
そのため、元スケルトン兵士達のゴーレムから湧き出る強烈なアロマの効果がある香りを、至近距離から吸い続けている。
「皆んな〜、も、もう少しなのよぉ〜! ああ〜、私の漢の部分が、き、消えてしまう〜。」
「ゴワァ〜ン、ゴワァ〜ン!」
テッド達は、もう魔境まで50メートルというところまで来て、力が尽きようとしていた。
しかし、力が尽きようとしていたのは地龍も同じようで、当初の怒りはすっかり無くなり、ヨロヨロと自ら後ろへ下がり始めた。
「地龍が下がって行くぞー!」
城壁の辺りにいたリオの警備隊から声が上がる。
俺達は、それ以上地龍を追うのを止めると、地龍達は、魔境へ方向を変えて戻って行った。
地龍が戻り際に、何やら名残惜しそうに流し目でテッド達ゴーレムの方を見ていたのは、非常に気がかりだ。
城壁の方から一斉に「ウオー!」という歓声が上がり、どうやらリオの街は歓喜に包まれているようだ。
俺達は、広場のあちこちに転がっているリオの警備隊のゴーレムを助け起こしながら、城壁の方へと戻って行った。
城壁の上には、警備隊や獣人達だけでなく、リオの街の大勢の住民がいて、俺達に手を振ったり拍手して賞賛しているのが見える。
壊れた城門の辺りには、ミゲル警備隊長やメアリー達の姿も見えてきた。
一部の屈強な警備隊員と獣人が妙に熱の入ったハグをしているのは…、たぶん喜びの抱擁だろう。
すると、サラが無線機で慌てて呼びかけてきた。
「リュウ様、あれはメアリーです! 何でメアリーがいるんですか?」
あれ? 二人は知り合いなのだろうか?
スケルトンになったサラとメアリーが知り合いとは、何やらややこしい事になりそうだ。




