60 地龍との攻防
俺とニキは、リオの整備場で警備隊の壊れたゴーレムの修理をしている。
とりあえず、メアリー達のゴーレム整備はお預けだ。
すると『カーン! カーン!』というリオの街に異常を知らせる鐘が鳴り出した。
そして、メアリー達が急いで戻ってきて自らのゴーレムをそれぞれストレージにしまっていく。
「地龍の方は、どうなったんだ?」
「かなり厄介な事になったわ。地龍が三頭も魔境から出てきて、こちらに向かってきているの。」
「なんじゃと! 三頭も向かってきとると?」
ゴーレムの修理をしていたトビーが声を上げた。
「ええ、とりあえず私達もゴーレムを準備して、もしものために城門の所に待機しとくわ。」
そう言うと、メアリー達は整備場を出て行ってしまった。
俺も行った方が良いのではないだろうか? もしもの時は、サラ達も呼び出せるし。
「ニキ、俺達も行った方が良いんじゃないかな?」
「ああん? 俺達が行っても何もできないだろ? それより、ゴーレムの修理をした方が皆んなのためにもなるってもんだ。」
まあ、確かにニキの言うとおりだが、さてどうしたものか。
よし、セバスと入れ替わろう。
セバスは俺そっくりの顔になってるし、闇魔法で使役しているおかげで、俺の魔法はすべて使える。
そうと決まれば、俺は「ちょっとトイレ行ってくる」と言って整備場を後にし、建物の陰でセバスを呼び出した。
セバスは急に一人だけ呼び出されたので、慌てて周りをキョロキョロ見ている。
「セバス、すまないが地龍が出たのでちょっと見てくる。その間、整備場でゴーレムの修理をやってくれ。」
「ゴーレムの修理を? わ、私はゴーレムの修理などやった事がありませんが。」
「ああ、やり方はニキに聴きながらやってくれ。多分、魔素石に土魔法を込めて硬くするとか簡単な作業だから。」
「わ、わ、分かりました。」
俺はそう言うと、あまり人目につかないよう注意しながら城門へ向かった。
城門の前は、多くの警備隊員や冒険者でごった返しており、喧騒に包まれていた。
ミゲル警備隊長と話をしているメアリー達も遠目に見える。
とりあえず俺はメアリー達に見つからないよう、城門から離れた階段から城壁の上に登って、魔境の方を眺めた。
すると、四トントラック並みの大きさの地龍が三頭も魔境から出てきており、辺りの匂いを嗅いでいるようだ。
城門の方を見ると、警備隊のものと思われる全身型のゴーレムが次々に城門の中から出てきて、地龍に向かって盾を構えていく。
見たところ、城門から出てきたゴーレムはテッドと同じくパワー型のゴーレムらしく、肩の辺りから蒸気が噴き出している。
城門の上からミゲル警備隊長が拡声器を使って、ゴーレムに何やら指示を出している。
「一頭にゴーレム三台で当たって、地龍をリオの街に近付けるな!」
指示を受けた警備隊のゴーレムは、三台ずつ盾を並べて地龍にジリジリと近付いていく。
地龍もこちらの動きに気が付いているようであるが、何かを探しているのか、辺りの匂いを嗅ぎながらウロウロしている。
そして、ゴーレムが城門の前の広場を半分ほど魔境の方に進んだところで、いよいよ三頭のうち先頭にいた地龍が苛立たしげに咆哮を上げた。
「ゴーーーアーーー!」
先頭の地龍は、ゴーレムに向かって徐々に加速していく。
各ゴーレムは肩の辺りから蒸気を『プシュー』と噴き出しながら、三台が盾をピッタリとくっつけて地龍を迎え撃つ。
『ドゴーーーン!』
ゴーレムは、地龍に三メートル程押し込まれたが、そこで力が拮抗した。
ゴーレムからは、盛んに蒸気が上がっている。
「ゴーーーアーーー!」
地龍は咆哮を上げると、突然に頭を左右に振り出した。
三台のゴーレムのうち、左右二台のゴーレムが左右にはじかれて転がっていく。
そして真ん中のゴーレムは、あっという間に地龍に押し倒され、その上を踏み潰すように地龍が乗り越えていった。
カサンドラの国境でもやられた、首振り攻撃である。
他の場所でも、二頭の地龍が次々とゴーレムに突進して、ゴーレムが吹き飛ばされていく。
「動けるゴーレムは体勢を整えて、地龍に向かえ! 他のゴーレムも突撃せよ! リオの街を守るのだー!」
ミゲル警備隊長が声を限りに叫んでいる。
しかし焼け石に水とはこの事で、どのゴーレムも地龍を抑える事ができない。
特に攻撃型のゴーレムなど、ゴーレムの剣を地龍に振るうのだが、コブのような硬いウロコにはじかれて、何の役にも立っていない。
早くサラ達を呼び出した方が良さそうだ。
俺は城壁の上から慌てて降りると、大騒ぎをする人達をかき分けて、建物の陰に行き呪文を唱えた。
「召喚!」
………
・・・メアリー視点へ・・・
もはや城門前の広場は、地龍による一方的な蹂躙の様相となってきた。
あちこちでゴーレムが地龍に向かっていくものの、地龍にはじかれてゴロゴロ転がっていく。
「ミゲル警備隊長、私達も加勢します。」
私がそう言うと、ミゲル警備隊長は首を横に振った。
「地龍は私達が出来るだけここで防いで時間を稼ぎますので、メアリー殿は、スミス男爵の所に避難してください。」
ミゲル警備隊長はそう言うと、城門の内側に降りて行き、残った隊員達に住民の避難を指示する。
そして、ストレージからゴーレムを出して乗り込んでいった。
「出るぞー、城門を開け! 俺が城門から出たら門を固く閉じよ。この城門は決して破られてはならん!」
ゴーレムに装備されている外部拡声器でそう言うと、風魔法でジェット噴射のような音をたてながら、颯爽と城門から出て行った。
私達が城門の上からミゲル警備隊長の行方を見ていると、城門の下からテッドを呼んでいる声が聞こえてきた。
「おい、ここにテッドっていう奴はいねえか? いたら返事してくれ!」
声のする方を見ると、冒険者らしきスキンヘッドの大男が声を上げている。
「テッドの知り合いか?」
マーティンがテッドに言うと「いや、見たことねえ顔だな」と言いながら、テッドが下に降りて行った。
「ゴーーーアーーー!」
また地龍が咆哮を上げたので城門前の広場を見ると、ミゲル警備隊長が風魔法を使った高速移動で地龍を撹乱している。
ところが、地龍はミゲル警備隊長のゴーレムを追うのは諦めたのか、城門に狙いを定めると城門に向かって突進を開始した。
「そうはさせんぞー!」
ミゲル警備隊長はゴーレムの剣で必死の攻撃を地龍の脇腹に当てるが、地龍はお構いなしに城門に向かって突進して行く。
『ドゴーン!』
そしてついに地龍は城門に激突した。
城門の上にいる私達は、まるで地震が起こったように立っていられなくなる。
下を覗き見ると、地龍の突進で城門は大きくへこんでいるが、かろうじてその形を保っていた。
しかし、もう一度受ける事はできないだろう。
地龍は、これ以上押し込めないとみて、後ろに後退して行く。
『ドゴーン! ドゴーン!』
城門の横の左右の壁にも他の二頭の地龍が激突して、城壁にも大きなヒビが入っていく。
「させるかー!」
ミゲル警備隊長達が地龍に攻撃するが、もはや地龍達は攻撃を避ける仕草もせず、再び城門の辺りに突進するための距離を取っていく。
「ゴーーーアーーー!」
ついに地龍達は城門への突進を開始した。
城門の上にいた私とマーティンや獣人達は、慌てて城壁の上を左右に逃げていく。
『ドゴーン!』
ついに城門は粉々に砕け、地龍達がそのままなだれ込んで行く。
私は何もする事が出来ず、リオの街が地龍に蹂躙される様を眺めるしか無いのかと、城壁の上からリオの街の方に身を乗り出して様子を見るが、そこに地龍の姿は無かった。
「ゴーーーアーーー!」
何と地龍は、ジリジリと城壁の外側へと押し返されている。
そこには、テッドのゴーレムを中心に、見たこともない真っ黒いゴーレム達が盾を構え、地龍を押し返していた。
テッドのゴーレムの外部拡声器から叫び声が聞こえる。
「みんな気合を入れろー!」




