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5 どちらも現実?

 目が覚めると、そこはテントの中だった。

 テントの中を見回し、自分の着ている服を確認すると、全く元の通りだと分かり、ホッと息をついた。


「やっぱり夢だったんだ。クックック、警官ともあろうものが、とんだマヌケな夢を見たもんだ。こんな事、誰にも言えないぜ。」


 あーあ、と大きく伸びをして、テントから這い出してキャプ場の炊事場に顔を洗いに行くと、昨夜はあまり見かけなかった他の人たちが集まってガヤガヤ騒いでいた。

 とりあえず、顔を洗いながら何を話しているのかみんなの話を、聞いてみる事にした。


「まさかこんな場所でUFOに遭遇そうぐうする事になるとは。」

「私も、生まれて初めて見た! ピカーって光ってすごかったね。」

「ワシは寝てて見てなかったんだが、軍か警察のヘリコプターがサーチライトで照らしただけじゃないのか?」

「それはあり得ない。全く音がしなかったし、機体が見えないほど光ってた。」


「…。」

 あんのクソ宇宙人やりやがったなぁ!

 いやいや、それよりも夢じゃなかったのか? ちょっと聞いてみるか。


「おはようございます。私は夕べ寝ていて気付かなかったのですが、UFO? が現れたんですか?」

「なんだ、あんたも気付かなかったのか? 突然ピカーって光ったかと思うと西の空に光る円盤が浮かんでたんだよ。それで、しばらく浮いてたらフッと消えていなくなったんだけど、その後は、警察やら新聞記者が来たりと大騒ぎだったんだぜ。」


 警察まで来てた? こんな大騒ぎになったのに、いかに非番とはいえ警察官がグーグー寝てたなんて知れたらヤバい。

 そこからは、慌ててテントを畳んで、逃げるようにキャンプ場を後にし、車の中で一人自問自答していた。


「あれは夢じゃなかったのか? と言うことは、俺が異世界に行ったのも、竜神様の御使みつかいだとか、親方やニキやゴーレムもすべて現実? 誰か夢だと言ってくれ。落ち着け、落ち着け俺。とりあえず、異世界での体験は夢みたいなものって言ってたな。こちらでの生活には支障がないはずだ。と、とりあえず、今日は昼から仕事だからな。警察官として仕事をちゃんとするんだ俺。」


………


 その後は、なんとか立ち直って、いつものルーティンで警察官の仕事に復帰し、現在、同僚のゲーリーとパトカーで巡回中である。

 もちろん運転は後輩のリュウである。


「おい、リュウ、これ見てみろよ。ふざけた記事が出てるぜ。」

「ゲーリー巡査、巡回中にタブロイド紙を読むのはどうかと思いますが。」


「堅いこと言うなよ。それより、キャンプ場でUFOが出たってよ! このキャンプ場、ニューヨークから近くないか。」

「へ、へぇー。まぁタブロイド紙ですからね。う、嘘を面白おかしく書いてるだけでしょ。」


「まぁ、俺も信じてるわけじゃないけどな。でも、目撃者が多数いて、警察も出動したってあるから、全部嘘とは思えねえな。」

「へ、へぇー。」


 ゲーリーの話に冷や汗が噴き出てきた。

 その時、パトカーの無線から、緊急連絡が入ってきた。


『8番街で傷害事件が発生。近くの警官は現場に急行してください。なお、犯人はナイフを所持している模様もよう。』

「了解。すぐに向かいます。ほら、ゲーリー仕事だぜ。」

「チッ、しょーがねぇな。」


 現場にパトカーで向かうと、17〜18歳位の黒髪の少女がナイフを握りしめて通りにうずくまっていた。


「ゲーリー、どっちが行く?」

「サポートは任せろ。」

「いつもそれだ。」

ため息をつきながら、リュウはパトカーを降りて銃を構え、少女に近付いて行った。


「フリーズ! ナイフを置いて、両手を頭の上に上げるんだ。」


 少女は動かない、泣いているようだ。


「聞こえないのか?」

「もう、すべて終わりよ。何であたしが刑務所に行かなきゃならないの。あたしを寄ってたかってイジメてたのは、悪いのは、あいつらなのに。」


「話は後で聞く。ナイフを置け!」

 少女は、恐る恐るナイフを自分の首筋に当てた。

「どうせ終わりなら、自分で終わりにするわ。」


「やめろ! これで、すべてが終わる訳じゃない。もしかしたら、何かが始まるかも知れないじゃないか。」

「何が始まるっていうのよ!」


 少女が逆ギレして、つい適当な事を言った事を後悔したが、ここは何としても話を続けなければならないと思い、とりあえず銃を下ろした。


「つまりだ、た、例えば、これから頑張って、君の望む職業につけて、将来成功するとか?」

「あたしが何になりたいのかも知らないくせに、適当な事を言うんじゃないよ!」


 地雷を踏んだらしい。

 ナイフを握る手に力が込められたのが分かる。


「ストーップ、ストーップ! じゃ、じゃあ、君は何になりたいんだ?」

「どうせ、何にもなれないのよ。」


「言ってくれなきゃ分からない。教えてくれ。」

「…エンジニア。」


「エンジニア? 何のエンジニアだ?」

「自動車でも、工場のマシーンでも何でもいいの。機械いじりが好きだから。でもアイツらったら、そんなのは女のする事じゃないって、いじめるのよ。あたし何も悪い事してないのに。」


「オーケー、君は悪くないし、エンジニアにもなれるさ。ただ、ナイフで切りつけたのは、やり過ぎだった。そうだろう?」

「そうね。ちょっと頭に血が上ってたわ。」


 そう言うと、少女はナイフを降ろした。

 その瞬間、いつの間に近付いていたのかゲーリーが少女にタックルしていた。


「お話の時間は終わりだ! リュウ、ナイフを取り上げろ!」


 慌てて近づいてナイフを取り上げようとし、右手の親指を少し切ってしまったが、何とかナイフを取り上げる事に成功した。


「ナイフは確保した。おい、相手はまだ未成年だ、手荒てあらな事はやめろ。」


 ようやく大人しくなった少女をパトカーに乗せて現場を後にする。


 今度はパトカーの運転はゲーリーが、リュウは後部座席で、少女と話す事にした。

「あたし、こんな事しちゃって、ごめんなさい、痛かったでしょ。あたしなんか死んだ方がいいのよ。」

「この怪我けがは君のせいじゃないよ。それにかすり傷だから、すぐ治るさ。」


 リュウがなぐさめるものの、少女は泣きじゃくっている。

 そこで、ある事にひらめき、少女に見えないように、こっそり唱えた。


「ヒール」


 右手親指のケガの辺りが淡く光り、たちまち傷がえていく。

「ん? 何か光らなかったか? UFOか?」

ゲーリーが空の方をキョロキョロ見ている。

「いやぁ、何も見えなかったぜ。それよりほら、もう血が止まってるよ。」


 少女は恐る恐るリュウの右手を見て、確かに血が止まってるのを確認した。

「本当だ。良かった…。」

 少女のホッとした顔が見れて、リュウもようやく安堵した。


「ようやく泣き止んだね。名前は?」

「ニキよ。」


 おいおい、こっちの世界でもニキの知り合いができたよ。


「何処に住んでる?」

「ブロンクスの32番街で自動車修理工場があるんだけど、そこが家よ。」

「ああー、以前俺の自動車修理をお願いした事があるよ。リュウだ。」


 そうして、この世界にもニキという友達ができた。

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