58 ニューヨーク・ドラゴンズ
俺達はミゲル警備隊長の案内で、領主の館に戻るとスミス男爵に夕食のもてなしを受けた。
「アーッハッハッ! それは傑作だ。」
「そうなんだよ。ニキが幽霊船の船長に『こんなゲロくさい貢物はいらん!』と言われたおかげで、俺達は助かったんだよ。ガッハッハッハ!」
酔っ払ったテッドの冒険の話で、スミス男爵の家族との夕食会は大いに盛り上がっている。
「ちえっ、海に落ちてからの記憶が無いんだよな。」
ニキは不満そうにぶつぶつ言っている。
「いや〜、笑ってしまってすまない。しかし、ニキ殿は船乗りにとって、守り神のように語り継がれるだろうな。」
スミス男爵も愉快そうに話している。
そう言えば、有名なフランスのルーブル美術館にあるサモトラケのニケ像は、船の舳先に降り立った女神らしいが、こちらの世界ではニキになるかもな。
伝説なんて、そんなものかもしれない。
「ねぇお母様、この話をメイにもしてあげたいんだけど。」
「今日はもう遅いから、明日にしなさい。」
ちょうど俺の前に座っていたスミス男爵の7歳になる息子が、何やら男爵婦人に話している。
「メイというのは?」
「あら、すみません。この子の友達のメイという獣人の女の子なんです。」
俺が思わず聴くと、男爵婦人から思わぬ答えが。
「君は獣人の友達がいるのかい?」
「うん、サターン神教の神父はダメだと言うけど、みんな遊んでるよ。」
人族だ獣人だというのは大人の都合であって、子供達には関係ないようだ。
夕食会が終わると、スミス男爵の強い希望で、この日の晩は領主の館で宿泊する事になった。
そして驚いた事に領主の館では、獣人のメイドも多数いる事が分かった。
さっそく、ニキがウサギ型の獣人のメイドに話しかけている。
「ここでは、獣人達も人族と一緒に仕事ができるんだね。」
「そうですね。ここリオの街では基本的に獣人達にも普通の仕事が与えられていて、人族と同じように生活する事ができます。私も夫と子供と一緒にこの街で暮らしているのですよ。」
「へぇ〜。カサンドラ共和国の獣人達とは大違いだ。やっぱり、スミス男爵というのは、いい人なんだな。」
久々に良い話が聞けたことと、サマル王国へ帰ってきたという安心感から、俺達は穏やかな気持ちで眠りにつく事ができた。
そして、ニューヨークの朝が始まった。
………
その日の警察の仕事を終え、ゴードン工房に行くと警備隊長のディエゴ達が、テレビを見て盛り上がっていた。
もうみんな、スケルトンの姿から人間の姿になっており、屈強な男達が一台のテレビに群がっているのは正直暑苦しい。
「えーと、何やってるんだ?」
「皆んなでラグビーの試合を見て、盛り上がっているです。」
サラの説明によると、最近ディエゴ達はこちらの世界のスポーツにハマっているらしくて、その中でもラグビーとアメフトが人気らしい。
「そこだ! 行け〜!」
「トライ! やった〜!」
どうやらどちらかのチームのトライが決まって点が入ったらしい。
皆んなでハイタッチして喜んでいる。
すると、ディエゴが俺の姿を見つけて、こちらにやって来る。
ちなみにディエゴは、スキンヘッドの大男だったらしく、近くから見下ろされるとかなり凄みがある。
「リュウ殿、一つお願いがあるのですが。」
ディエゴがお願い? 珍しい事があるもんだ。
「実は俺達のチーム名を考えてほしいんだ。本当はラグビーのチーム名が良いんだけど、俺達は11人しかいないから、15人制のラグビーよりも11人制のアメフトのチーム名でお願いするぜ。」
「アメフトのチーム名? アメフトでもやるのか?」
「いや、アメフトは見るの専門だけど、チーム名って良いなって思ってな。俺達は10年も一緒だろ? チーム名があれば、これからも頑張れると思うんだ。」
なるほど、ディエゴ達は人間の姿に戻ったとはいえ、中身は不死のスケルトンには変わりない訳だ。
この呪いがいつ終わるか分からないと考えたら、チーム名でも付けて、一緒に頑張ろうって事だな。
そうと決まれば、何か良いネーミングが浮かべば良いが。
「そうだな、プロのアメフトだと、ニューヨーク・ジェッツとかニューヨーク・ジャイアンツとかあったな。」
「それならリュウ様の名前の意味と竜神様の意味を込めてドラゴンではどうでしょうか?」
サラが横から提案してくる。
「うん、そうだな。ニューヨーク・ドラゴンズではどうかな?」
「ニューヨーク・ドラゴンズ、おお良いチーム名だな。おい皆んな! これから俺達はニューヨーク・ドラゴンズだ!」
元スケルトン達が「お〜、それは良い。」と声を上げて喜んでいる。
そして「それじゃあスクラムの練習だあー!」と言って二手に分かれてスクラムの練習を始めた。
いや、ラグビーじゃなくてアメフトじゃなかったのかよ。
俺が心の中でディエゴ達にツッコミを入れていると、執事のセバスが俺の後ろから声をかけてきた。
「ホッホッホッ。ディエゴ達もチーム名ができて、張り切っておりますな。」
「おわー、ビックリした! はぁ、まだセバスの顔に慣れないよ。」
俺の目の前には、セバスが俺の顔で微笑んでいる。
セバスは、3Dプリンターで肉付けする時に、俺の顔にするようエドガーに頼み込んだのだ。
もうサラに危険な真似はさせられないし、どうせディエゴ達のように格闘にも向かないという理由だ。
一応、蝶ネクタイをしているから、他の皆んなには見分けがつくようだ。
「みんな〜集まってくれ!」
エドガーが声を張り上げて、全員に集まるよう呼んでいる。
エドガーの後ろには、真っ黒いゴーレムが12台並んでいた。
「ディエゴ君達のゴーレムが完成した。とりあえず守り重視で八台が守備型、四台を攻撃型にしてみた。この辺りのバランスは、実際にやってみて考えていこう。」
エドガーに言われてゴーレムを見ると、確かに12台のゴーレムのうち八台は巨大な盾を装備しており、残り三台は巨大なハンマーを、最後の一台は巨大なライフルを装備している。
「もしかして、あのハンマーは以前キャンサーの魔境の中で見た試作品の完成品かい?」
俺がエドガーに尋ねると、エドガーが満足そうに頷く。
「そのとおりだよ。試作品の失敗を踏まえて、改良を加えてついに完成したのだ。見たまえ!」
エドガーはそう言うと、巨大なハンマーの取っ手の付け根にあるツマミを指差している。
「これは〜、何のツマミだ?」
「今度のハンマーは、地面からただトゲが出るだけでなく、トゲの先端をこのツマミで調節できるようにした。」
「つまり、どう言うこと?」
「ツマミを右に回すとトゲの先端が尖り、逆に左に回すと尖らなくなる。」
「あ〜、学生の時に使っていた鉛筆削りにそんなのあったな。」
「そう! これの着眼点はそれだよ。」
ああ、本当に鉛筆削りだったんだ。
「次に、この対戦車ライフルを装備しているゴーレムはサラ君用のゴーレムだ。対戦車ライフルと操縦席のモニターは連動しているから、後方からの支援を可能にしたよ。」
「エドガー博士、ありがとうございます。」
ふむ、このゴーレムはサラ向きだな。あんまりぶっ放さないよう後で注意しておこう。
「そして最後に守備型ゴーレムだ。チタン製の盾を装備していて、背中の巨大バッテリーでゴーレムの手足を電動アシストしてあるから、相当パワーが出るはずだ。」
「なるほど、テッドのゴーレムだと背中の水タンクを熱して蒸気機関でアシストしてあったが、こっちは電動アシストか。パワー出そうだな。」
俺達が守備型ゴーレムを見上げて話をしていると、ニキが不満の声を上げてきた。
「でもそれだと、蒸気機関車のような蒸気が出ないんでしょ?」
「ニキ君、そこはやむを得ないよ。一応、電動アシストだとバレないよう、肩の辺りに小さな水タンクと電熱線を仕込んでおいたから、操縦席のスイッチを入れると湯気は出るがね。」
「蒸気じゃなくて湯気だと、なんだか迫力に欠けるような気がするのよ。そもそも、ただ湯気を出すだけで役に立たない備品はつけるべきじゃないわ。」
「もう、これ以上は余計な装備を付けられないんだ。」
俺はヒートアップしそうな二人をなだめていると、さっそくサラ達がゴーレムに搭乗して乗り心地を試している。
ニキは、マシーンに対するこだわりがあるのか、まだぶつぶつ言っていたが、「そうだ!」と言うとインターネットに接続されているノートパソコンの方に行ってしまった。
何か、思いついたのだろうか。
とにかく、これで俺達の戦力が整ってきたぞ。
次にどんな妨害があるか分からないが、今度こそ俺達のゴーレムの力を見せてやる。




